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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
幼児編

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第15話 初めての魔法授業と、隠しきれない秘密

 父さんから【魔眼】についての説明を受けた後、そのまま【無属性魔法】と【属性魔法】の話へと移った。


「【無属性魔法】と【属性魔法】は少し難しいからな。今は簡単な説明だけにしておく。レイが大きくなったら、また詳しく教えるつもりだ」


「うん!」


「今日は基本的な【魔法】の実演と練習方法だな」


 遂に本題である。自分は思わず背筋を伸ばした。


 前世で散々ファンタジー作品を読んできたが、異世界に転生してから正式に魔法を教わるのは今日が初めてだ。内心ではかなり興奮していた。もしかしたら派手な呪文を唱えるのかもしれない。もしかしたら魔法陣が現れるのかもしれない。そんな期待を胸に、父さんの動きをじっと見つめる。


「レイには【魔眼】があるから【無属性魔法】の上達は早いかもしれないな」


「そうなの?」


「ああ。貴族の子供や冒険者の子供なんかは三歳頃から教わり始めるが、五歳になる頃に一つ魔法を覚えるくらいが普通だ」


「へぇ」


「優秀な子供でも四歳くらいで一つ覚えられれば十分凄い」


 なるほど。つまり一般的には魔法の習得にはかなり時間が掛かるらしい。


(……やばいな)


 自分は内心で冷や汗を流した。


 既に【ハンド】【シールド】【ボックス】【ストレージ】【ボール】まで覚えている。しかも一年以上前から。どう考えても普通じゃない。前世の記憶もあるが、やはり【魔眼】の恩恵が大きいのだろう。魔力が見えるというだけで、習得の難易度がまるで違う。


 それにしても五歳で一つか。


 そう考えると、自分がどれだけ逸脱した位置にいるかが分かって、少し怖くなってきた。




「まずは僕が実演する。レイは【魔眼】でしっかり見ているんだぞ」


「はい!」


 父さんは右手を前へ差し出した。


「最初に覚えてもらうのは【無属性魔法】の【ボール】だ」


 次の瞬間。父さんの掌へ魔力が集まり始めた。


「やり方は簡単だ。手のひらに魔力を集めて、丸く固めるイメージをする」


 自分は【魔眼】を集中させる。すると父さんの掌の上で、青白い魔力が渦を巻きながら集まり始めた。


 その動きは滑らかだった。無駄が無い。まるで長年鍛え続けた職人の手仕事を見るようだった。


(綺麗だ……)


 思わず見惚れる。自分の【ボール】とは完成度が違う。密度。安定感。魔力の流れ。全てが洗練されていた。同じ【ボール】のはずなのに、別物に見える。


 今まで自分は我流でやってきた。だが基礎を学ぶ重要性を、改めて理解した。前世でも現場の先輩に教わった基礎が、後々どれだけ大事だったか。魔法でも同じらしい。


「レイには見えるか?」


「見えるよ!」


「流石だな」


 父さんが満足そうに笑う。


「【魔眼】が無い者はまずここで苦労する。魔力が見えないからな」


 確かにそうだろう。見えないものを操作しろと言われても難しい。前世で言えば、目隠しした状態で精密作業をするようなものだ。そう考えると、自分はかなり恵まれている。




「次は【属性魔法】だ」


 父さんは掌の【ボール】を維持したまま続けた。


「レイの属性は雷だったな」


「うん。でも何で分かるの?」


「属性は髪や瞳の色に出ることが多いからだ」


「そうなの?」


「ああ。もちろん例外もあるがな」


 なるほど。だから父さんも母さんも、自分の属性を当然のように知っていたのか。


「あと俺やレイの雷属性は、この辺りじゃ珍しい」


「珍しいの?」


「使える人間が少ないんだ」


 父さんは少し苦笑する。


「だから参考になる資料も少ないし、スキル取得も難しい」


「なんで?」


「雷をイメージしなきゃならないからだ」


「あっ」


 言われて納得した。


「レイは本物の雷を見たことないだろ?」


「うん」


 今世では。もちろん前世では何度も見ているが、それは言えない。


「この辺りは雷が少なくてな。実際に見たことがある人間はほとんどいない」


 火なら焚き火がある。水なら川がある。風も土も身近だ。だが雷は違う。確かに難易度が高そうだった。


「だから雷属性は取得難易度が高いと言われている」


 そう言うと父さんは、掌の魔力へ別の力を流し込んだ。


 瞬間。球体が激しく輝く。


 バチバチバチッ!


 青白い閃光が庭を照らした。耳を震わせる雷鳴。弾ける電光。それはまるで小さな雷そのものだった。


(おおおおっ!?)


 格好良い。圧倒的に格好良い。男の子の心を鷲掴みにする光景だった。


 だが――。


「お父さん、眩しい!」


「ん?」


「目が、目がぁぁぁ!」


「ああ、悪い悪い」


 父さんが慌てて調整する。すると光量が一気に下がった。さっきまで太陽みたいだったのに、今はランプ程度である。


「実はな」


 父さんは説明を続けた。


「属性魔法の周囲をさらに魔力で覆うと、光や音を抑えられる」


「そうなんだ」


「雷属性を人前で使うなら必須技術だな」


(なるほど……)


 これは面白い。光や音を制御できるなら応用の幅が広そうだ。透明魔法との組み合わせも試したくなる。今後の研究対象がまた一つ増えた。頭の中のメモが増え続けている。


「本来ならこのまま標的にぶつけるんだが」


 父さんは庭を見回した。


「ここで撃つと庭が吹き飛ぶからな」


「危ないね」


「だから今日はここまでだ」


 そう言って父さんは掌を開く。すると【サンダーボール】は霧のように消滅した。


「今のが【無属性魔法】の【ボール】に雷属性を付与した【サンダーボール】だ。ちなみに、俺の場合は【サンダーボール】だが、人によっては【雷球】や【雷弾】というスキルになったりするが、中身は一緒だったりする」


「おおー!」


 思わず声が漏れる。やはり本物の魔法は格好良い。将来は自分も撃ってみたい。いや、絶対に撃つ。それだけは決めた。




「レイにはまず【ボール】を覚えてもらう」


「うん!」


「魔力を泥団子みたいに固く丸めるイメージだ」


「泥団子」


「分からなければ僕か母さんに聞けばいい」


「わかった!」


 元気よく返事をする。


 だが内心では別のことで頭を抱えていた。


(やばい)


 本当にやばい。


(もう取得してるんだよな……)


 しかも一年以上前から。さらに言えば【ハンド】や【シールド】まで使える。


 今さら「できました!」と言えば絶対に怪しまれる。かといって全く出来ない振りをするのも不自然だ。どうするべきか。


 考えた末に結論を出した。


(段階的に、出来るようになっていく振りをしよう)


 最初は苦労して、少しずつ成功する。そういう流れを演じる。前世で現場の新人を演じたことは無いが、段取りの組み方は分かる。自然に見せることが重要だ。


 そんな葛藤を完璧に隠しながら、自分は満面の笑みを浮かべた。


「頑張る!」


「その意気だ!」


 父さんは満足そうに笑った。


 その笑顔を見て少しだけ罪悪感が湧く。


(ごめん父さん)


(息子は既にスタート地点を通り過ぎていました)


 母さんも嬉しそうにお腹を撫でている。もうすぐ生まれてくる弟か妹も、きっとこの温かい空気の中で育っていくのだろう。


 そう思ったら、罪悪感が少しだけ薄れた。


 別に隠しているのは悪意からじゃない。ただ普通に育ちたいだけだ。目立ちたくないだけだ。前世でも後ろ目立つのは好きではなかった。


 誰にも言えない秘密の魔法研究は、これからも続いていく。


 表向きは初心者。裏では独学研究者。


 そんな奇妙な三歳児生活が、本格的に始まろうとしていた。

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