第14話 魔眼の秘密と、本物の魔法授業
幼なじみ達と遊びながらも、毎日のように【魔力操作】【魔力感知】【鑑定】を使い続けて一年。
気付けば自分は三歳になっていた。
そして今日――ついに親公認の【魔法訓練】が始まる日だ。
朝から妙に落ち着かない。いや、落ち着かないなんてものじゃない。昨晩はなかなか寝付けなかったほどだ。魔法訓練と聞けば、やはり杖やローブを想像してしまう。もしかしたら格好いい魔法使い装備が用意されているのではないか。そんな期待を胸に庭へ向かったのだが――。
そこにいたのは、いつも通りの父さん。そして大きなお腹を抱えた母さん。最後に自分。
以上。
用意された杖も無い。ローブも無い。
夢が少しだけ砕け散った。
「今日は俺が魔法について教えるが、全部理解しろとは言わん。分からないことがあれば後で聞け」
「わかった!」
「私は見学ね。あまり無茶はしないでよ?」
母さんが優しく笑う。最近のお腹はかなり大きい。もうすぐ弟か妹が生まれるらしい。少し楽しみだった。
★
「まずは魔法の話じゃなく、お前の【魔眼】についてだ」
父さんは腕を組みながら言った。
「魔眼は持っている者自体が少ない。だから俺も詳しいわけじゃない。これから話すのは一般的な知識だと思って聞いてくれ」
「うん」
やはり【魔眼】は珍しいらしい。少しだけ優越感が湧く。もちろん顔には出さない。精神年齢三十九歳だ。そのくらいは我慢できる。
「俺も色々調べたんだが、魔眼には大きく二つの特徴があるらしい」
「二つ?」
「ああ。一つ目は魔力を見る力だ」
父さんは自分の胸を指差した。
「人の体内を流れる魔力や、魔法として放出された魔力が見えるようになる」
「なるほど」
そこで自分は少し首を傾げた。自分が見ているものは、それだけではない。空気中を漂う淡い光の粒。霧のように流れる不思議なもや。ずっと【魔素】だと思っていたものだ。
「どうした?」
「右目で見ると、空中にモヤモヤしたのがいっぱい見える」
「モヤモヤ?」
父さんが眉をひそめた。
「空中に?」
「うん」
父さんと母さんが顔を見合わせる。どちらも少し驚いているようだった。
「何か変なの?」
「いや……」
父さんは考え込む。
「俺が調べた本だと、普通の魔眼は魔力を見るだけだったはずなんだ」
「そうなの?」
「ああ。少なくとも大気中の魔素まで見えるという記録は無かった」
父さんは顎に手を当てる。魔眼の専門家でもない父さんが、こうして真剣に調べてくれていたのだと思うと、少し胸が温かくなった。
「危ないこと?」
少し不安になって尋ねる。だが父さんは首を横に振った。
「いや。危険だという話は聞いたことがない」
「ほんと?」
「ああ。むしろ珍しいだけだろうな」
そう言われて少し安心した。だが同時に、自分の【魔眼】は普通とは違うのかもしれないという考えも浮かぶ。前世のゲーム知識的に言えば、レアスキルの可能性がある。
(ちょっとだけ嬉しい)
もちろん顔には出さない。出さないが、心の中では少しだけ喜んでいた。
父さんは話を続けた。
「もう一つの特徴だが……」
少し間が空く。
「正直、よく分からん」
「え?」
思わず声が漏れた。まさかの不明だった。前世でも「それは分からない」と即答する上司には出会ったことがない。ある意味で清々しかった。
「調べる方法はある」
「方法?」
「心の中で『ステータス』と念じてみろ」
言われた通りに意識する。すると見慣れた半透明の画面が表示された。
「何か書いてあるか?」
「【鑑定の魔眼】ってある」
「鑑定の魔眼か……」
父さんが少し考え込む。
「変なの?」
「いや、鑑定系の魔眼は聞いたことがある」
「うん」
「だが【鑑定の魔眼】という名前は見た記憶が無い」
父さんは腕を組んだ。
「もちろん俺も専門家じゃない。名前が違うだけかもしれんがな」
それでも引っ掛かるらしい。父さんは少し難しい顔をしていた。
「鑑定自体は珍しい能力だが、同じようなことが出来る道具も存在する」
「へぇ」
「名前や年齢、属性くらいなら調べられる」
そこで自分は内心首を傾げた。自分にはもっと色々見えている。名前。年齢。属性。種族。職種。状態。成長スピード。スキル。固有スキル。父さんの言う道具とは、かなり差がある。
「高性能な物なら職種やスキルまで見えるらしいがな」
「なるほど」
やはり違う。成長スピードの話は出ない。固有スキルの話も出ない。
(自分の鑑定、かなり変なんじゃないか?)
そんな疑問が浮かぶ。ただ断言は出来ない。【鑑定】を毎日使い続けているからだ。もしかするとスキルが成長した結果なのかもしれない。
すると父さんが続けた。
「スキルには練度というものがある」
「れんど?」
「ああ。使えば使うほど成長する」
やっぱりゲームみたいだ。実際、自分の【鑑定】も最初は名前くらいしか見えなかった。今では大量の情報が表示される。ならば成長による変化なのだろうか。
ただ――固有スキルまで見える説明としては少し弱い気もした。まあ今は考えても仕方がない。
「とりあえず危険な魔眼じゃなさそうで安心した」
父さんがそう言うと、母さんもほっとした表情になる。
「危ない魔眼もあるの?」
気になって聞いてみる。すると父さんは即答した。
「ある」
その返答が速すぎて少し怖い。
「精神を操る魔眼」
「おお」
「未来を少しだけ見る魔眼」
「すごい」
「過去を見る魔眼」
「便利そう」
「魔力を吸収する魔眼」
「強そう」
「見たものを石にする魔眼」
「怖っ」
「魅了や麻痺を与える魔眼もある」
「もっと怖っ」
想像以上だった。完全に反則技である。ゲームなら修正されるレベルだ。
(それを子供が持つのか。この世界って怖いな)
「過去にはそういう魔眼を持った者もいたらしい」
「へぇ」
「ただ、子供の頃はほとんど力を発揮できん」
父さんは安心させるように言った。
「小さいうちから訓練すれば大抵は制御できるらしい」
それを聞いて少し安心した。ある日突然、石化ビームを撃ったりはしないらしい。良かった。自分が石化するのも困るが、母さんや幼なじみを石にしてしまうのは、それ以上に困る。
「良かったわ」
母さんも胸を撫で下ろしている。やはり親としては心配だったのだろう。
そんな二人を見ていると、少し申し訳ない気持ちになった。自分は中身がおっさんなので平気だが、普通の子供なら不安だったに違いない。それでも怖がらせないよう明るく振る舞ってくれていた二人に、素直に感謝した。
★
父さんはそこで手を叩いた。
「よし」
表情が切り替わる。いよいよ本題らしい。
「魔眼の話はここまでだ」
「うん」
「次は魔法だ」
父さんの周囲に魔力が集まり始める。空気中の魔素が吸い寄せられ、淡く輝く。【鑑定の魔眼】で見ると、その流れがはっきりと見えた。父さんの体内から伸びる魔力の筋が、周囲の魔素を絡め取るように引き寄せている。
綺麗だ、と思った。
魔法を見るたびにそう思う。だが今日のそれは特別だった。これから自分も、ああいう魔法を本格的に学ぶのだ。
「まずは【無属性魔法】と【属性魔法】の違いから教えてやろう」
父さんが笑った。
その瞬間、自分の胸は期待でいっぱいになっていた。
ついに始まる。
本物の魔法の授業が。




