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ジョブホッパーの魔導譚 〜幾多の職を越えて紡ぐ、魔眼使いの英雄譚~  作者: フェアリーP
幼児編

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第13話 魔法研究と透明な手

 最近の自分は、毎日のように魔法の練習をしていた。


 【魔力操作】で魔力を動かし【魔力感知】で周囲の魔素を探る。暇さえあれば練習。朝も昼も夕方も練習。正直かなり楽しい。


 前世では絶対に存在しなかった力だ。ゲームや漫画の中でしか見たことのない魔法を、自分の手で実際に扱えるのだから面白くないはずがない。


 そして最近、ひとつ気になっていることがあった。


(他の人には魔法ってどう見えているんだろう?)


 自分は【鑑定の魔眼】のおかげなのか、魔法の形や流れがはっきり見えている。しかし、それが普通なのか特別なのか分からない。


 大人相手に試すのは危険だ。変な子供だと思われるかもしれない。だが二歳児相手なら問題ないだろう。


 そんなわけで、自分は今日の実験台を確保することにした。





「にゃー!」


「あそぶぞー!」


 いつものようにエレナとブラットが遊びに来ていた。二人とも今日も元気だ。特にブラットは朝から全力である。体力の塊みたいな男だ。


(よし、実験開始)


 まずは【魔力操作】を発動。続いて【鑑定の魔眼】。そして――。


【ハンド】


 透明な手が空中に現れる。自分にはハッキリ見える。半透明の魔力で作られた腕のようなもの。だが他人から見えるかどうかは分からない。


 だから試す。


 まずはエレナだ。透明な手をそっと背後へ移動させる。そして――。


 こちょこちょ。


「にゃはははははっ!?」


 エレナが突然笑い転げた。尻尾がぶわっと膨らむ。


(面白い。凄く面白い)


 続いてブラット。脇腹を狙う。


 こちょこちょ。


「うははははっ! なんだこれ!?」


 成功である。二人とも周囲を見回している。しかし透明な手そのものを見ている様子はない。


「くすぐったいにゃー」


「へんなかんじだぞ!」


 なるほど。やはり普通の人には見えていないらしい。


 これは大きな収穫だった。透明な魔法は実在する。つまり将来的には見えない攻撃も可能ということだ。


(これ結構強くない?)


 見えない手で武器を持ったらどうなるだろう。見えない攻撃。見えない盾。かなり夢が広がる。


 まあ今はくすぐり専門だが。


「なんかレイがあやしいにゃ」


「たしかに!」


「え?」


 ギクッとした。二歳児の勘が鋭い。怖い。


「レイだ!」


「レイにゃ!」


「ま、待っ――」


 次の瞬間。左右から挟み撃ちだった。


 こちょこちょ。こちょこちょ。


「あはははははっ!」


「やめっ! やめろって!」


「にゃははー!」


「おもしろいぞー!」


 悪戯には代償がある。この日、自分は身をもって学ぶことになった。


 そして一つ確信した。


(二歳児を侮ってはいけない)


 前世三十八年の経験値も、子供の勘の前では無力だった。





 その後も実験は続けた。


 【シールド】を二人の前に出してみる。反応なし。【ボール】を転がしてみる。反応なし。やはり見えていない。


 しかし一人だけ少し反応が違った。


「なんかそこにあるにゃ?」


 エレナである。何もない空間を不思議そうに見ている。見えているわけではない。だが何かを感じている。


(獣人だからかな?)


 猫だから感覚が鋭いのだろうか。匂い。気配。魔力。何かしらを感じ取っているのかもしれない。


 今はまだ分からない。ただ、エレナの感覚は普通じゃない気がした。今後も観察対象である。


 本人はもう別のことに興味が移っていたが。





 最近の研究で分かったことも増えてきた。


 特に【ハンド】は面白い。触手を増やすと一つ一つの力が弱くなる。逆に本数を減らすと力が強くなる。つまり使用できる魔力量には総量があり、それを性能へ振り分けている感覚だった。


 まるでゲームのステータス配分だ。


 今は小石を持ち上げる程度。だが将来は違う。


(剣を持たせたら格好良くない?)


 透明な手が剣を持つ。空中を飛び回る。敵を切り裂く。絶対格好良い。ロマンしかない。いつか必ず実現させようと心に誓った。


 【シールド】も似たような感じだった。面積、強度、枚数。それぞれに魔力を割り振れる。今はまだ弱い。全身を覆うことも難しい。しかし成長したら話は別だ。何重にも重ねた防壁とか憧れる。敵の攻撃を全部弾くとか最高だ。


 一方で微妙なのが【ボックス】だった。透明な箱を作る魔法。便利そうだが意外と使い道が少ない。椅子、踏み台、机。今のところその程度だ。


 試しに箱の上へ乗ってみたこともある。しかし他人から見ると、自分が空中に浮いているようにしか見えなかった。


(怪しい。あまりにも怪しい)


 即座に封印した。


 なお【ボックス】を延々と使っていた結果、【ストレージ】を習得した。


 意味が分からない。箱と収納の関連性が分からない。だが便利なので良し。非常に良し。ストレージ最高。


 【ボール】も少し悩ましい。球体を作れる。飛ばせる。だが――。


(ハンドで投げればよくない?)


 という結論に毎回辿り着く。何か他の使い方がある気がする。ファンタジー作品みたいに砲弾のように撃ち出せたりするのだろうか。今後の課題だ。





 研究を重ねるうちに、自分なりの仮説も生まれていた。


 魔法とは何か。


 周囲に漂う【魔素】を集める。それを体内の【魔力】と混ぜる。圧縮する。最後に自分の魔力で包み込み、操作する。


 そんな流れなのではないか。


 もちろん証拠はない。だが感覚的にはかなり近い。


 つまり重要なのは二つ。魔力量。そして魔力操作。この二つだ。


 特に魔力量は大事らしい。最近【鑑定】で分かってきたが、どうやら肉を食べると増えやすい。


 少し憂鬱だった。


(どうせなら高級肉が食べたいなぁ)


 美味しい肉。霜降り肉。魔獣肉。色々食べてみたい。


 ただし。


(ペンギンは駄目だ)


 それだけは譲れない。ペンギンは見るものだ。食べるものではない。重要なので心の中で二回確認した。





 最近【鑑定】で分かってきたことは他にもある。


 この世界には地球に似た植物や食材がかなり存在しているのだ。名前も、見た目も、味も、驚くほど近い。


(やっぱり転生者とかいるのかな)


 そんな考えが頭をよぎる。もし過去にも転生者がいたのなら。この世界に知識を持ち込んだ人がいたのなら。


 前世知識を乱用するのは危険かもしれない。知識チートをやりすぎると怪しまれる可能性がある。


(慎重にいこう)


 うん。本当に慎重に。


 そしてもう一つ、最近ずっと思っていることがあった。


 本が欲しい。この世界の常識が書かれた本だ。前世の常識で行動していると、そのうち痛い目を見る気がする。魔法、種族、歴史、地理。知りたいことは山ほどある。


 今度父さんか母さんに頼んでみよう。


 そう思いながら空を見上げた。青空は今日も広い。


 この世界には、まだ知らないことが無数にある。だからこそ面白い。そしていつか、世界中を旅してみたい。


 もちろん――。


(ペンギンを探しながら)


 それは今の自分にとって、かなり重要な将来の目標だった。

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