8話:昼飯
デュランとアイリスが僕を連れて行った店は、裏通りにある小汚い――いや、建物が古くて年季の入った店だった。
「おやっさん、今日は三人だ」
店に入ると、禿げ頭の店主が嫌そうな顔をする。
「デュランとアイリスか……おまえらは金持ってんだから、もっと良い店に行けって言っただろう」
「あたしたちは、ここの料理が気に入っているのよ。全部おまかせで三人前よろしくね!」
「チッ……仕方ねえな。おい、そこのガキ。好き嫌いはあるか?」
「いいえ、特にありません」
「じゃあ、そこのテーブル席を使え。少し待っていろ」
店主が大鍋を振るって料理を作り始めると、美味そうな匂いが立ち込める。これは期待できそうだね。
手際の良い店主は、五分ほどで大皿に載った料理を運んで来る。肉と野菜のシンプルな炒め物だけど、野菜は新鮮で、大きい肉がたくさん入っている。
「ほれ、ジャンジャン作るから、冷めないうちに食えよ」
「アレク。子供は遠慮しないで、たくさん食えよ」
デュランが大皿から料理を取り分けて、僕の皿に山のように盛る。
「デュラン、多過ぎない?」
「そうか? 食べ盛りの年頃だし、こいつくらい鍛えていたら腹も減るだろう。アレク、無理にとは言わねえが、好きなだけ食え」
「はい、ありがとうございます……うん、美味い!」
「だろう。ここの料理はどれも美味いからな」
デュランとアイリスは安くて良いモノが好きで、『ブラウム商会』も二人のお気に入りの店の一つ。店主のブラウムは目利きで、あの店にはよく掘り出し物があるらしい。
次々と運ばれて来る料理を平らげていく。肉の次は魚、卵料理に蒸し物やスープも全部美味かった。
さすがに食べ過ぎたけど、デュランとアイリスは結構な大食漢で、出された料理を全部平らげていた。
「今日も美味しかったわ……ところで、さっきの魔石のことだけど。アレクが自分で魔獣を仕留めたことを疑うつもりはないわ。だけど子供の君が売りに来たってことは、もしかして一人で森まで行ったってこと?」
僕の実力は二人に見抜かれている。ここは正直に話した方が良いだろう。
「はい。僕には一緒に森に行く知り合いがいませんので」
「君って結構無茶をするわね。狩りと往復で最低でも二、三日は掛かったでしょう? その間の水や食料、着替えで荷物が多くなるし、寝るときはどうしたの? もしかして、その背負い鞄がマジックバッグとか……さすがに、そんな筈はないか」
マジックバッグとは、大きさや重さに関係なく物を持ち運べる魔導具だ。だけど決して無制限という訳じゃなくて、性能によって運べるモノの大きさと重さが決まる。
「はい。僕にはマジックバッグを買えるお金はありませんよ」
マジックバッグは一番安いモノでも一〇万メリルは下らない。王国の一般的な兵士の給料三、四ヶ月分の金額だ。
ベルナルド家にもマジックバッグはあるけど、勝手に持ち出す訳にも、持ち出す理由を言う訳にもいかないからね。
「じゃあ、食べ物は現地で調達して、夜はそのまま野宿したってこと? 子供がやるにはワイルド過ぎるわよ」
一周目のときに、戦災孤児がそんな生活をしているのを何度も見たから、そこまで無茶とは思わないけど。
「身体強化を発動したまま、グラムの街から森まで走れば片道二時間くらいです。朝から出掛けて魔物を狩って、その日のうちに帰って来ました」
「それって、ほとんど一日中身体強化を発動していたってことじゃない! 君ってどれだけ魔力があるのよ? まだ七歳でその魔力量なら、将来は凄いハンターになるわね」
「アイリス、アレクがハンターになるか解らねえだろう。この年で魔法が使えるってことは……」
子供の頃から魔法を使えるのは大抵は貴族だ。平民は才能があっても、余程の金持ちじゃないと魔法を教えて貰う機会がない。
だから魔法を覚えるのは兵士として訓練を受けるようになってからか、ハンターになるために弟子入りしてからだ。引退したハンターが生活のために弟子を取ることは多い。
「アレク、余計な詮索するつもりはねえから安心しろ。俺とアイリスもこう見えて貴族出身だ。家督を継ぐ権利もねえし、王国軍なんて堅苦しいところに入る気が無くて、ハンターになったクチだぜ」
家督を継げない貴族がハンターになることは、決してめずらしいことじゃない。貴族は子供の頃から剣や魔法の訓練をしているから、平民よりも強くて確実に稼げるからだ。
「さっきの魔力操作や立ち振る舞いを見て、おまえが戦うところを見たくなったぜ。今度、俺たちと一緒に魔獣狩りに行かねえか?」
「僕には事情があって、夕方には街に戻る必要があります。日帰りで構わなければ、是非一緒に行かせてください」
「ああ、それで構わねえぜ」
「あたしたちなら、身体強化で森まで駆け抜けても大丈夫よ。だけどデュラン、アレクの実力を確かめるなら、わざわざ森まで行く必要はないじゃない。街の外に出れば、多少暴れても問題ないし、直接相手をした方が正確に実力を測れるわ」
「それもそうか。なあアレク、これから俺と戦わねえか?」
「デュラン。その言い方じゃ、アレクが勘違いするじゃない」
アイリスが呆れた顔をする。
「アレク、デュランはガサツでどうしようもない奴だけど――」
「おいアイリス、てめえは喧嘩売ってんのか? しばくぞ、コラッ!」
「あんたねえ、話は最後まで聞きなさいよ。デュランは悪い奴じゃないし、こう見えて結構面倒見が良いの。だから戦うって言っても、アレクをどうこうするつもりじゃなくて、実力を測って、必要なアドバイスをするつもりなのよ」
ベルナルド家に仕える騎士や兵士以外と、対人戦をする機会なんて滅多にない。デュランとアイリスの強さは本物だから、今の僕の実力を測るには絶好の相手だろう。
二人との仲を深めることにもなるし、アドバイスを貰えるなら、僕が強くなるために役に立つ筈だ。断るなんて選択肢はないだろう。




