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6話:魔獣狩り


「じゃあ、出掛けて来るよ」


「アレックス様、お気をつけて」


 朝早く、フードつきの外套を羽織って城の外に出る。顔を隠しているのは、僕が城から出たところを外の人間に見られないためだ。


 父親のジョセフが城の兵士と使用人に、僕が外出することを(とが)めず、母親のサーシャには絶対に言わないように言い含めてある。


 僕たちが住んでいる城があるのは、ベルナルド子爵領の領都グラム。人口二千人くらいの小さな街で、お世辞にも栄えているとは言えない。


 人目のない路地裏で外套を脱いで、背負い鞄に仕舞う。いつまでも顔を隠していると、逆に目立つからだ。両親と一緒に外出したことがあると言っても、何度か馬車で買い物に出掛けたくらいだ。僕の顔を憶えている人は、そんなに多くないだろう。


 今の僕は平民の服を着ている。ベルナルド家の人間だとバレないように、父親に用意して貰った。ベルトに剣を刺しているから多少目立つけど、グラムの街で武器を持ち歩くのは、決してめずしくない。


 父親には見聞を広めるために外出すると言ったけど、僕が向かっているのは街の外だ。別に嘘をついた訳じゃない。優先順位の問題で、まずは実戦経験を積むために街を出て、少し離れた場所にある森に向かう。森の奥にいる魔獣を狩るためだ。


 魔獣とは魔力を持つ獣のことで、普通の獣よりも凶暴で度々人を襲う。グラムの街が森に近いのは防壁の意味もある。領民が住む村が魔獣に襲われないように、城の兵士が定期的に森に行って、魔獣狩りをしている。


 街を出て人がない場所まで行くと、身体強化で加速して森まで一直線。一周目でも一〇歳になる頃には父親に魔獣狩りに連れて行って貰い、一二歳から僕が兵士を率いて魔獣を狩るようになった。だから、この森は僕にとって庭のようなものだ。


 森の向こうは人が住まない辺境地帯で、そこから森に魔獣がやって来る。定期的に魔物狩りをしていることもあって、森の中でも比較的浅い場所には普通の獣しかいない。

 身体強化を持続したまま、森の中を駆け抜ける。魔獣狩りをするときは、普通なら数日掛かりだけど、僕は夕食の時間までに帰る必要がある。だから、それほど時間に余裕はない。


 敵の気配を察知する術は一周目で散々鍛えた。僕の方に向かって来る魔獣の気配を感じて待ち構える。木々の間から飛び出したのは、四つ目で角のある狼キラーウルフだ。


 来ると解っていたから術式は構築済みだ。先制攻撃の魔力を集束した弾丸が、キラーウルフの額を撃ち抜いて仕留める。

 僕が使ったのは『魔力弾(マナバレット)』。どんな魔法の本にも載っていない僕だけのオリジナル魔法だ。


 魔法は術式をイメージして発動する。魔法の才能がある者は理屈じゃなくて、感覚で術式を理解する。だけど僕には既存の術式が合わないから、魔法を構成するパーツを再構築して、それを組み合わせることで発動する。


 この六年半、家庭教師のイザベラから学んだことで、僕は術式を構成する図形と魔法文字について、それなりに知識を得た。炎や風といった属性を持つ魔法を使う場合、僕は魔力に属性を与えるパーツを構築する必要がある。


 パーツが増えると魔力の消費量が増えて、術式を構築するのにも時間が掛かる。だから僕が導き出した答えは、魔力そのもので攻撃することだ。


 身体強化で剣に魔力を纏わせて攻撃するとき、魔力の刃が相手を切り裂く。だから魔力自体を武器として使えるとは思っていた。だけど一周目は魔力が足りなかったし、術式の知識もなかったから、属性を与える術式を省略して攻撃魔法を発動するなんて不可能だった。


 今でも他人に見せるときは、魔法を発動するのに十分な時間があるから、余計な説明を省くために属性を持たせている。だけど一人で戦うならその必要はないからね。


 キラーウルフは群れで行動するから、敵が一体なんてことはない。一体目の陰から飛び出した二体目を『魔力弾』で仕留めて、次の一体は剣に魔力を纏わせて切り裂く。勿論、これだけじゃ終わらない。


 次々と襲い掛かって来るキラーウルフを、間合いを測りながら魔法と剣を使い分けて仕留めて行く。本気で僕を殺しに来る敵との戦い。少しでも気を抜けばこっちがやられる。研ぎ澄まされた思考で、術式を瞬時に構築しながら同時に剣を振る。


 城で幾ら練習しても、こんな経験はできない。命を取り合う経験を積まないと、本当の意味で強くなれないことは、一週目で経験済みだ。

 三〇分ほど経つと、キラーウルフの襲撃が途切れる。仕留めた数は一二体。今のうちに魔石を回収しておこう。


 解体用に持って来たナイフで、魔獣の身体から魔石を取り出す。魔力を持つ魔獣は、必ず体内に魔石を持っている。魔石は魔力の塊で、魔導具のエネルギー源として使う。


 一周目でユーキリス帝国が開発した魔導兵器も魔導具の一種だ。だけど一般的な魔導具は照明や調理器具、湯沸し器など日常生活に密着したモノ。決して安くないから、貴族や金持ちの商人じゃないと、そこまで普及していないけど。


 血で汚れた手を魔法で水を作って洗い流す。魔力そのもので手を洗うことはできないからね。魔獣の素材も売れるから捨てるのは勿体ないけど、今は持ち帰る手段がないから諦めるしかない。死体を放置すると疫病の元になるけど、この森なら他の魔獣が食べてキレイにしてくれるだろう。


 魔石の回収が終わると、さらに森の奥に進む。まだ時間があるし、魔力にも余裕がある。帰り道に魔獣に襲われる可能性と、身体強化で街まで駆け抜けることを計算に入れて、安全マージンをキープしながら、僕は魔獣狩りを続けた。



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