表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/17

3話:二周目


 僕、アレックス・ベルナルドは、クロムハート王国のベルナルド子爵家の長男として生まれて、二七歳のときにユーキリス帝国との戦争で死んだ。

 だけど、どういう訳か、赤ん坊の頃に死に戻りした。


 ユーキリス帝国軍の大将ラグナロク・リヒテンベルガーに騙されて、僕はセシルを、部下たちを無駄死にさせた。

 赤ん坊として目覚めたとき、僕はラグナロクに激しい怒りを覚えて、自分が如何に甘かったか痛感した。


 だけど冷静になって考えてみれば、帝国軍が王都に侵攻した時点で、王国の敗北は決まっていた。僕が何もしなかったとしても、結果は大して変わらなかっただろう。


 もう一度人生をやり直せるなら、最悪の未来を繰り返さないために、もっと根本的なところから変える必要がある。


 赤ん坊の僕は、まずは魔力を操作して身体に負荷を掛けることで、魔力と身体の両方を鍛えることにした。

 死に戻りする前の一周目で、何かを成し遂げるには、力が必要だと学んだらからね。


 両親にバレないように、普通の赤ん坊のフリをして、二人が見ていないときに、魔力操作の練習を始める。

 魔法を使わなくても、魔力は意識して操作することで鍛えられる。


 人によって才能の差はあるけど、魔力は早く鍛え始めるほど量が増える。

 赤ん坊の頃から鍛えれば、一周目のように魔力不足で苦労することはないだろう。


 魔力切れで気絶するまで、魔力操作を続ける。意識を取り戻すと再び魔力操作、その繰り返しだ。魔力で負荷を掛けることで、身体も鍛えられる。


 赤ん坊が身体を鍛えても仕方ないと思うかも知れないけど、王立学院時代に出会った師匠が、幼い頃に魔力で負荷を掛けると、理論的には(・・・・・)成長が促進されると言っていた。


 僕の師匠は魔導技術(マナテクノロジー)の天才で、適当なことを言うような人じゃない。だからダメ元で試すことにした。


 毎日魔力操作をしながら負荷を掛け続けると、三ヶ月でハイハイができるようになり、

半年で歩いて、喋れるようになった。


 身体の成長も、他の赤ん坊より明らかに早く、両親は驚いていた。師匠が言っていたことは本当だったんだな。


 貴族であるベルナルド家は領地にある城に住んでいる。僕は書庫に入り浸って、魔法の本を読み漁るようになった。


 赤ん坊が本を開く姿を、母親のサーシャは微笑ましそうに見ていた。大人の真似をしていると思ったみたいだけど、僕が文字を読めることを知って唖然としていた。


 城の中庭で遊んでいるとき、父親のジョセフが見ているのを確認して、一周目の記憶を頼りに練習した身体強化を発動する。

 拾った木の枝を剣のように振ると、枝が当たった石が砕ける。


「な、何だと……アレクは剣に天賦の才能があるのか? いや、それにしても、この威力は……魔力を纏わせたのか? 魔法の才能まであるということか!」


 父親は喜んで、次の日から城の兵士が剣の練習相手になり、魔法の家庭教師も直ぐに雇うと言っていた。勿論、こうなることを狙ってやったことだけどね。


 一周目のとき、魔法が使えなかった僕は、子供の頃から、剣を鍛えることに時間を費やした。

 赤ん坊に戻ったから、もう一度鍛え直す必要があるけど、剣士として強くなるためと、勝つための方法なら知っている。


 魔法の方は、一周目で身体強化を覚えたとき、師匠が僕には魔法の才能がない訳じゃなくて、既存の術式が合わないだけだと教えてくれた。

 それでも一七歳でようやく魔力に目覚めた僕は、魔力不足で他の魔法は真面(まとも)に使えなかった。


 二周目は生後直ぐに魔力を鍛え始めたから、今の時点で下手な大人よりも魔力が多い。だけど一周目で、どうせ真面に使えないからと、他の術式を真剣に憶えなかったから、結局僕は身体強化しか使えない。


「アレックス様、初めまして。家庭教師として雇われたイザベラ・ブルームです」


 眼鏡を掛けた真面目そうな三〇代の女性。イザベラの第一印象はそんな感じだった。


「アレックス・ベルナルドです。イザベラさん、よろしくお願いします」


「まあ、こんな小さな子供が大人のように喋るなんて……あ、大変失礼しました!」


 魔力で負荷を掛けて成長が促進したおかげで、今の僕は一歳未満の赤ん坊には見えない。面倒なことになりそうだから、訂正はしないけど。


「気にしないでください。僕が普通じゃないって自覚はありますから。早速ですが、授業を始めてください。まだ僕は身体強化しか使えないんです」


「その年で身体強化が使えるなんて、十分凄いことです。では、アレックス様の魔法適性を知るために、身体強化を発動してみてください」


「解りました」


 僕が全身に魔力を纏うと、イザベラがじっと見つめる。


「え……そんな筈がないわ。魔力の発動が不完全なのかしら?」


「イザベラさん、どうかしましたか?」


「申し訳ありません。アレックス様の魔力を見ても、私には属性が解りません」


 イザベラが戸惑うのも無理はない。魔法には炎や風などの属性があって、身体強化も例外じゃない。

 身体強化を発動すると、普通は本人が得意な属性の魔力を纏うことになる。

 だけど僕の身体強化には属性がない。純粋な魔力を発動しているからだ。


「それでは、初歩的な術式を色々と試して、アレックス様が得意な属性を確認しましょう」


 イザベラは初級魔法の本を開いて、術式について説明する。


「魔法は術式をイメージすることで発動します。人にはそれぞれ得意不得意があり、得意な属性ほど魔法の発動がしやすいのです。アレックス様、ここに書かれた術式をイメージしてください」


 僕には既存の術式が合わないから、漠然とイメージしただけじゃ魔法を発動できない。

 二周目でも自分で魔法の本を読んで試したから、魔法が発動しないことは解っている。


「イザベラさん、これは小さな炎を出すだけの初歩的な魔法ですよね? 術式のどの部分が魔力を集めて、どの部分が魔力を炎に変換するのか教えてください」


「え……そのような質問は初めて受けました。そうですね……同心円状に並ぶ図形の部分が魔力を集めて、中心の魔法文字が魔力を炎に変換する術式だと思います」


 イザベラの言い方が曖昧なのは仕方ない。魔法とは理屈ではなく、感覚で発動するモノだからだ。魔法の才能のある者は、術式を感覚的に理解する。


「なるほど……図形の部分で魔力を集めるのは、身体強化と同じ理屈みたいだな。魔法文字の方は……熱と空気、放出の組み合わせが炎を表している?」


 ブツブツと呟く僕を、イザベラが不思議そうに見ている。


「すみません、僕は他の人よりもイメージするのが苦手なので、直ぐには魔法を発動できないと思います。よかったら、他の属性の魔法の術式も、細かく説明して貰えませんか?」


「ええ、勿論構いません」


 この日の授業は、各属性の初歩的な魔法の説明を受けるだけで終わった。

 身体強化が使えるのに、初歩的な魔法が発動できないという僕に、イザベラは首をかしげていた。だけど自分のやり方を強制するような真似はしなかった。


 授業が終わると、僕は部屋で一人、教わった術式をイメージする。

 ただし術式全体をイメージするんじゃなくて、魔法文字と図形を分解して、一つ一つをイメージしていく。


 イメージした術式のパーツは、僕の魔力が通る部分と通らない部分に分かれる。

 通る部分は僕に合う術式、通らない部分は僕には使えない術式だ。

 術式全体に魔力が通らないから、このままだと僕にはこの魔法が発動できない。


 だけど術式のパーツには似たように作用するモノも多いから、組み合わせ次第で疑似的に発動できるかも知れない。

 一通り各属性の魔法の術式について説明して貰ったのは、同じような作用をする部分を抜き出して代用するためだ。


 魔力が通る部分を組み合わせて行うトライ&エラーの繰り返し。

 身体強化はどの属性でも共通する部分が多いから、そこまで苦労しなかった。

 だけど属性を持たせることで初めて成立する魔法は、他の術式の一部を代用して再現するのが難しい。


 僕にもっと術式の知識があれば、効率的なやり方があるだろう。

 だけど今の僕は、術式を構成する図形と魔法文字を全部分解して、一つ一つ置き換えて試すしかない。

 それでも再現できるかどうかは運次第だ。


 そして一週間後。イザベラの次の授業で、僕は火属性の最初級魔法を発動して見せた。

 掌の上で小さな炎が揺らめく。


「アレックス様は、火属性が得意ということですね」


「そういう訳じゃないと思いますよ。炎を出すだけで、かなり苦労しましたから。

 もしかしたら、僕は得意な属性がないのかも知れませんね。だからもっと色々と試してみたいので、これからも術式について、詳しく教えて貰えませんか」


 僕が使える魔法を増やすには、術式の知識を広げることと、深めることの両方が必要だろう。

 知識を広げれば代用できるモノが増えるけど、魔法は高度になるほど術式が複雑になる。術式を再構築できる深い知識がないと、再現することはできない。


 有難いことに、イザベラは僕の普通じゃないやり方に一切文句を言わず、質問に対して、一つ一つ丁寧に答えてくれた。


 ブルーム男爵家の長女として生まれたイザベラは、若くして夫と死に別れて家庭教師を始めたそうだ。

 魔法の才能は勿論、教える才能もある彼女のおかげで、僕は属性を問わずに、色々な魔法を習得することができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ