20話:構想
オスカーと食事をしながら、今後の構想について話を聞く。
今回の出資金を入れても、オスカーのビルヘルム商会の資金力は王国有数の大商会の足元にも及ばない。
同じ土俵で戦ったら勝負にならないから、まだクロムハート王国の市場に出回っていない商品を、国外から仕入れるつもりらしい。
「距離があるから日持ちする物に限られると思っていたが、君が投資してくれた資金で、大型の冷蔵用魔導具を用意できる。これなら生鮮食品も選択肢に入る」
「例えば、ドライフルーツしか出回っていないマンゴーやキウイみたいな果物とか? 魚介類は塩漬けにしないと厳しいけど、常温で運ぶよりも塩分を抑えられる。肉なら低温熟成しながら運べるんじゃないかな」
僕が一周目で、子供の頃には見掛けなかったけど、大人になる頃には一般的になった食べ物を挙げてみる。
「驚いたよ、私も同じことを考えていた。商売は素人だと言っていたが、君は目の付けどころが違うみたいだな」
「そんなことはないよ。他の貴族から贈り物として、めずらしい食べ物を貰うことがあるから、適当に言っただけだよ」
下級貴族に過ぎないベルナルド家が、他の貴族から贈り物を貰う機会なんて滅多にないけど、こう言っておけば誤魔化せるだろう。
「謙遜しなくて良い。済まない、どうやら君のことを侮っていたようだ。他も何か考えがあるなら聞かせてくれないか?」
下手に口出しするつもりはなかったけど、そう言うなら言ってみるか。
「じゃあ、素人考えだけど、日常生活に使う魔導具は、もっと安くなれば需要があると思うんだ。明かりに調理器具、冷蔵庫に湯沸し器とか。今は貴族と一部の金持ちしか使わないけど、もっと安くなれば、使いたいと思う人はいるんじゃないかな?」
「私もそう思うが……どうやって値段を下げるつもりなんだ?」
「値段が高いのは輸入に頼っているからだよね。クロムハート王国には魔導具職人が少ないから。だったら技術を教えて、職人を育てれば良いんじゃないかな」
「言うのは簡単だが、誰が技術を教えるんだ? それに教わる方も、確実に儲かる話じゃないと乗らないだろう」
「実は、教える人に心当たりがあるんだ。その人には、お金以外の条件を提示する必要があると思うけど。教わる方も一定水準の魔導具を作れば、全部買い取る契約にしたら、人が集まるんじゃないかな」
「君が言ったことが実現できれば、確かに可能性はあるか……」
「あくまでも素人考えとして言ったまでで、僕の考えを押しつけるつもりはないよ。まずは今の計画を進めることが第一だからね。追加資金が必要なら相談に乗るよ」
一周目の記憶がある僕は、市場に出回っていない物を売ることが、オスカーの構想の序章に過ぎないことを知っている。
ビルヘルム商会が急成長を遂げたのは、画期的な方法で事業を展開したからだ。
僕にとって金を儲けることは手段であって目的じゃない。オスカーと金だけの関係になるつもりもない。
オスカーには自分がやりたいようにやって貰って、僕にできることで手助けする。
「資金のこと以外にも、冷蔵用魔導具に使う魔石は、現物支給するから買う必要はないからね」
「好意は嬉しいが、大型の魔導具は結構な量の魔石を消費するから、魔石を買う金も馬鹿にならない。そこまでして貰わなくても、君が出資した金で魔石代は十分賄える」
「僕は自分で魔物を狩って魔石を手に入れるから、費用は掛からないんだ」
「自分で魔物を狩るって……アレックス、本気で言っているのか? いや、待てよ……そもそもの話……」
オスカーが考えていることは想像がつく。貴族と言っても、地方の下級貴族の子供過ぎない僕が、どうして大金を投資できるのか。
親に黙って金を持ち出した可能性もあるけど、下級貴族がこれだけの現金を持っている可能性は低い。
「オスカーに信用して貰うには、僕のことも話す必要があるね。僕はハンターの真似事をしていて、自分で狩った魔物の魔石と素材を、グランフォード公爵に買い取って貰っているんだ。君の商会に出資した金は、全部僕が稼いだものだよ」
「君はグランフォード公爵家と繋がりがあるのか?」
魔物を狩った話をしたときよりも、オスカーが驚いた顔をする。まあ、そもそも子供の僕が魔物を倒したなんて、本気で信じてはいないだろう。
「こう見えて僕は、それなりの魔法の使い手なんだよ」
僕は身体強化を発動して、料理が載ったままのテーブルの端を持って魔力を通すと、水平に持ち上げる。
頭の高さまで持ち上げても、料理が床に落ちることも、グラスが倒れることもない。オスカーが唖然としている。
「グランフォード公爵は僕の実力を認めてくれて、買い取りを一手に引き受けてくれたんだ。身体強化以外の魔法も使えるけど、街の中で使うと危ないからね」
昔も同じようなことをしたけど、平和的に実力を示すには悪くない方法だろう。
「私は魔法に詳しくないが、力自慢の巨漢でもこんなことはできない。どうやらアレックスの実力は本物のようだ。魔石の件は、君の言葉に甘えさせて貰おう」
「これから色々と相談することがあると思うから、『念話』の魔導具を渡しておくよ」
マジックバッグから取り出した真新しい魔導具を渡す。これはオスカーのために買った物だ。
「こんな高価なモノまで……アレックス、君の期待に応えられるように、精一杯頑張らせて貰う」
「期待はしているけど、無理はしないでね。オスカーには商才があるから、普通に仕事をしてくれれば十分だよ」
僕が出資しなくても、オスカーが商人として大成することは解っている。
僕は一周目の知識を使って青田買いをしただけだ。だから恩を売るつもりはない。




