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17話:取り引き


 一人でフォレスタに行ったときは、空を駆け抜けて一日で着いた。だけど今回は父親のジョセフが一緒だから、そういう訳にもいかない。

 父親一人なら僕が運ぶことも考えたけど、グランフォード公爵と正式に会うのに、護衛や使用人を連れていないと、貴族しての威厳が保てないからね。


 だから結局、僕たちは馬車でフォレスタに向かった。公爵をあまり待たせる訳にもいかないから、護衛は騎士のライアン他全員馬で移動する。それでも片道一週間の工程だ。


「まさか、アレクと二人で旅を、こんな形ですることになるとは思わなかった」


 父親は苦笑したけど、道中も今回の件で僕を責めることはなかった。

 形はどうであれ、僕がやったことがグランフォード公爵に認められて、養子に欲しいと言われた。僕の功績を褒めても、叱ることはできないだろう。エレノアとの婚約を断って公爵を怒らせたら、そんなことも言っていられないけど。


 赤竜と戦ったことはエレノアを救うために仕方なかったとしても、あまり無茶なことはするなと言われた。母親を心配させても仕方ないから、これは僕と父親だけが知っている秘密だ。母親には僕が書いた筋書き通りに、エレノアが野党に襲われていることころを救ったと伝えたらしい。


 フォレスタまでの一週間は何事もなかった。護衛を連れて街道を進んでいるから、そんなに頻繁に襲われることはない。エレノアたちが街道で赤竜に襲われたことの方が異常だ。


 赤竜の住処がある辺境地帯から街道に至る途中に、幾らでも獲物がいた筈だ。どうしてエレノアたちを襲ったのか? 僕が言うまでもなく、公爵も誰かの策略だと疑っている筈だけど、一周目のときは犯人が公表されることはなかった。


「ベルナルト子爵、アレックス殿、貴殿たちを歓迎する」


 グランフォード公爵の城の広間に通されると、まるで王のように肘掛椅子に座る公爵が告げる。


「グランフォード公爵閣下、ありがとうございます。この度は我が息子アレックスを養子に迎えたいなど、勿体ない申し出を受けたことに痛み入ります」


 深々と頭を下げる父親に僕も習う。同じ貴族と言っても、公爵は王家の血族しかなれない。下級貴族に過ぎない子爵とは雲泥の違いだ。


「ベルナルド子爵、それは私の申し出を快諾したと受け取って構わぬか?」


「いいえ、大変申し訳ありませんが、アレックスはベルナルド家にとって大切な嫡男です。養子として差し出すことはできません」


「アレックス殿ほどの逸材なら、そう言うのも当然だろう。私とて権力をかさに掛けて、強引に奪うことなど考えていない。だがアレックス殿の将来を考えれば、我がグランフォード家の養子になることが最良の道とは考えぬのか?」


「確かに公爵閣下の仰る通りですが、私もベルナルド家の当主として、家族と領民を第一に考える義務があります。そしてアレックスならば、最良の道に進まなくとも、自らの才覚で己の道を切り開くと信じております」


「子爵の考えは理解した。ならば次善策として、我が娘エレノアとアレックス殿が婚約するというのはどうだ? アレックス殿はベルナルド家を継ぎ、グランフォード公爵家の後ろ盾を得る。子爵にとっても、これ以上の話はなかろう?」


 ここまでは予想通りの展開だ。僕は頭を下げたまま父の言葉を待つ。


「確かに最上のお話ですし、アレックスにとってもエレノア嬢との婚約の申し出は身に余る光栄かと思います。ですが私は自分の一存で決めるのではなく、アレックスの意志を第一に考えております。そのためにアレックスを同行させました」


「ほう……私も同じ子を持つ親として、子爵の思いを理解できない訳ではない。アレックス殿、そう畏まることはない。頭を上げて、貴殿の考えを聞かせてくれ」


 僕は顔を上げて、グランフォード公爵に視線を真っ直ぐに向ける。僕が断るなんて一切考えていない自信に満ち溢れている。その傍らで、エレノアが不安そうな顔で僕を見ていた。


「父が申し仕上げたように、エレノア様との婚約することは、僕にとって身に余る光栄です。勿論、お話はお受けしますが、子爵家の一貴族に過ぎない今の僕では、エレノア様とは釣り合いません。

 そこで一つお願いがあります。僕とエレノア様の婚約を公表するのは、僕がもっと魔法の腕を磨き、名を上げるまで待って頂けませんか。魔法で大成した暁には、僕の方からエレノア様に求婚した形で公表するのでは如何でしょうか?」


 グランフォード公爵が目を細める。


「アレックス殿、私には貴殿の意図が今一つ解らぬ。婚約を公表すれば、余程のことがない限り破棄されることはない。公表しないことに、何のメリットがある?」


 ここは僕の考えをハッキリ伝える必要があるだろう。


「公爵閣下が仰る通りに、僕には何のメリットもありません。公表しなくても、僕の方から婚約を破棄するなどあり得ません」


 そんなことをすれば、公爵家という後ろ盾を失うどころか、関係が悪化してベルナルド家は社交界で窮地に立たされるだろう。


「ですが公爵閣下とエレノア様には、僕が期待外れだったときに切り捨てる選択肢が残ります。公表しなければ、婚約を無かったことにできますので。僕は実力もないのに、公爵家に縋りつくような生き方をしたくありません」


 公爵が僕の言葉を良く取れば、自分に自信があり、プライドが高いと評価されるだろう。だけど悪く取れば、思い上がりで生意気な子供だと思われる。


「心意気は解った。だがそれでは、エレノアの命を救ったアレックス殿に対して、私が何も報いなかったことになるではないか」


 公爵は測るような目で僕を見る。


「でしたら、公爵閣下にもう一つお願いがあります。僕は辺境地帯で魔物狩りをしていまして、仕留めた魔物の魔石と素材を知人に頼んで売却しています。

 ですが知人と会う機会はそれほどなく、魔石と素材は売り切れずに、貯まる一方です。そこで公爵閣下に買取をお願いできないでしょうか? 勿論、適正な買取価格で構いません」


 これはお互いにメリットのある話だ。僕はアイリスとデュランに頼らなくても売り先が確保できる。グランフォード公爵は商人のマージンなしの値段で、魔石や素材を買うことができる。公爵領の市場なら買取ったモノも十分捌けるだろう。


「それだけでは私が得するだけでないか。ならば最上級のマジックバッグを褒美としてやろう。竜を仕留められるアレックス殿なら、最上級のマジックバッグを埋め尽くすほどの魔石や素材を集められるであろう」


 公爵を通じて大量の魔石と素材を売り捌くことで、名を上げることにも繋がるから、金銭以外にも僕にはメリットがある。だけどこういう話になれば、公爵ならマジックバッグをくれると思っていた。

 あえて自分からは言わなかったのは、エレノアの代わりにモノを貰うみたいだし、公爵に選ばせた方が得だと考えたからだ。


 マジックバッグは一番安いモノでも一〇万メリルは下らない。竜を分割して運んだ公爵家マジックバッグは一〇〇〇万メリルクラスの高性能なモノだった。

 最上級と言うくらいだから、それよりも性能が高い一億メリルクラスを貰えるかも知れない。


「公爵閣下、ありがとうございます。それでは早速、魔石と素材を買い取って頂いてもよろしいでしょうか?」


「何だと? こうなることを先読みして持って来たのか、アレックス殿も食えぬな。よかろう。だが、ここで魔物の素材を広げる訳にもいかぬだろう。倉庫に移動するか」


 公爵も僕が仕留めた魔物に興味があるのか、話をアッサリと受け入れてくれた。保管用のマジックバッグもそろそろ余裕がないし、僕は手持ちのマジックバッグを全部持って来ていた。


 食料や衣類、財布代わりにしている一つを除いて、中身を全部出すと城の騎士と兵士たちが唖然とする。山のように積み上げられた魔石と魔物の素材。

 数が多いだけじゃない。魔石は人間の頭くらい大きいモノがゴロゴロあって、素材はオーガーにワイバーン、サラマンダーなど、いずれも凶悪な魔物のモノばかりだ。


「単独で竜を倒したのだから当然と言えるが、これほどの魔物を……アレックス殿、これと同じ数を揃えるのにどれだけ掛かる?」


「そうですね。魔物狩りに集中すれば、二週間もあれば問題ないと思います」


 僕が辺境地帯に行くのは週二日だから、二週間連続で魔物狩りをすれば余裕だろう。


「仕留める魔物の種別をこちらが指定しても構わぬか?」


「他の魔物も仕留めても構わないのでしら。指定された魔物と確実に遭遇する訳ではありませんので、可能な限り仕留めるとしか約束できませんが」


「それは仕方なかろう。だが遭遇さえすれば、仕留められると思っているところが貴殿らしいな。これだけの数を売り捌けば、どうやって手に入れたか必ず聞かれるだろう。アレックス殿が仕留めたと公言して構わぬな?」


「はい。むしろ、こちらからお願いしたいくらいです」


 グランフォード公爵は僕の狙いなんてお見通しで、そういう意味でも協力してくれるみたいだな。すっかり取引の話になったけど、父親のジョセフが僕の隣で作り笑いを浮かべながら、目が笑っていないことには気づいている。


 僕が魔物狩りをしているなんて、父親には話していなかったからね。後で文句を言われるのは解っているけど、公爵との話は僕の思惑通りに進んだ。それに比べたら些細な問題だろう。


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