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10話:成長


 アイリスとデュランと出会ってから三年、僕は一〇歳になった。

 身長は一六〇センチを超えて、だいぶ筋肉もついたから、もう子供には見えないだろう。


 僕がいるのは辺境地帯の荒野。体長五メートル超のオーガーの群れが迫り来る。

 僕は術式を複数同時展開して、魔力を集束させた『魔力弾(マナバレット)』一〇発を一斉に放つ。


 真っ直ぐ突っ込んで来る的は、止まっているのと大差ない。音速を超える『魔力弾(マナバレット)』全弾が、別々のオーガーの頭部を貫通。


 機能を停止した巨体が纏めて崩れ落ちる。これだけの数の『魔力弾(マナバレット)』を同時に操れるのは、上級魔法の術式を応用しているからだ。


 上級魔法を発動すれば、辺り一帯を破壊することもできる。だけどオーガーは密集している訳じゃないから、そんなことをしても大した数は仕留められない。

 一週目で魔力不足で苦労した僕は、魔力の無駄遣いが嫌いなんだ。


 森の奥に行けば行くほど強い魔獣が出現する。だけど一年も経つと、一番奥まで行っても森の魔獣じゃ物足りなくなった。

 だからグラムの街から離れた辺境地帯まで来て、こうして魔物を戦うことにした。


 辺境地帯に辿り着くまで、徒歩なら普通三日は掛かる。だけど移動に使える魔法を覚えた僕なら一時間半ほど。朝早く出掛ければ、父親のジョセフと約束した夕食の時間までに戻るのは余裕だった。


「アレク、俺たちの分も残しておけよ」


「そうよ。一人で楽しむんじゃないわ。『雷撃連鎖(ライトニングチェイン)』!」


 デュランが大剣でオーガーを次々と真っ二つにする傍らで、アイリスが雷属性魔法を放つと、鎖のように広がる稲妻がオーガーの群れを黒焦げにする。


 二人と一緒に辺境地帯で魔物狩りをするのも、これで何度目だろう。だからと言って、僕たちはパーティーを組んだ訳じゃない。


 デュランとアイリスはハンターとして依頼を請け負って、各地を転々としている。

 僕と出会ったときは、依頼の合間に辺境地帯で魔物狩りをした後、たまたま一番近いグラムの街に滞在していた。


 今でも依頼の合間に辺境で魔物狩りをするときは、二人に貰った『念話(テレパシー)』の魔導具で連絡があって、僕も時間があるときは参加している。


 特にアイリスは僕に上級魔法の術式を教えてくれた二周目の師匠だから、無下にする訳にはいかないだろう。だけど時間は有限だからね。


「じゃあ二人とも、僕はそろそろ帰るよ」


 オーガーを解体して、魔石と売れる素材は回収した。今はマジックバッグがあるから魔物の素材も持ち帰ることができる。


 最初のマジックバッグは、デュランとアイリスと初めて魔獣狩りをしたときに、僕の取り分の代わりに、デュランが昔使っていた物を貰った。


 その後はブローン商会で魔石と素材を売った金で、何度かマジックバッグを買い足した。だけどブローン商会じゃ、そこまで大量に捌けないし、扱っているマジックバッグの性能にも限界がある。

 そろそろ大きな街に行って、死蔵している大量の魔石と素材を売りたいところだ。


「何だよ、久しぶり会ったのにもう帰るのか? 夕飯は家族一緒に必ず食べるんだったか? 親離れできねえガキじゃあるまいし、それじゃ遠出はできねえだろう」


「アレクはまだ一〇歳なんだから仕方ないじゃない。あたしたちは、まだしばらく辺境で魔物を狩っているから、また気が向いたら来なさいよ」


 アイリスとデュランには、僕がベルナルド子爵家の長男だと明かした。二人なら信用できると思ったからだ。死に戻りした二周目だってことは、さすがに話していない。


「次に来るのは三日後かな。それまでに魔物を駆り尽くさないでよ」


「善処はするが、魔物の方から寄ってくる分には仕方ねえだろう」


「デュランは血に飢えた獣みたいに、魔物を駆りまくる癖によく言うわね」


「それはアイリスだろう。俺はいつも冷静だぜ」


 二人が戦闘狂なのは知っているけど、僕もやっていることは同じようなモノだからツッコまない。そりよりも、急がないと夕食の時間に間に合わないからね。


 身体強化で加速して大地を駆けても、地形に沿って移動すると効率が悪い。

 だから僕は魔力で空中に足場を作って、空を駆け抜けることにした。背中から魔力を放出することでさらに加速。これなら一時間半もあれば、余裕でグラムの街まで辿り着ける。


「アレックス様、お帰りなさい」


 城に帰った僕を出迎えるのは、チョコレートブラウンの髪の少女。ベルナルド家の侍女で、一週目に王国軍で僕の副官を務めたセシル・ロートレックだ。


 僕が間違えたらセシルは死んだ。初めてセシルを見たとき、泣きそうになったけど、二週目の彼女には関係のない話だ。だから距離感を間違えないように気をつけている。


 セシルの母親もベルナルド家の侍女で、セシルが五歳のときに夫と死別して、ベルナルド家で働くようになった。


 幼いセシルは自分たちが置かれた立場を理解していたのか、年の割に大人びた子供で、母親の仕事を手伝うちに、自分も侍女として働くようになった。 


 僕の両親もセシルの働きぶりに満足したんだろう。二年前に同じ年の僕の世話役にした。僕は普通の侍女に接するように無関心を装っている。


「……アレックス様、どうかされました?」


「ううん、何でもないよ」


 最初に会った時点で思ったけど、セシルの視線に何故か強い圧を感じる。別に態度が悪いとかじゃなくて、無言でじっと僕を見ているだけだ。


 二週目の僕は剣と魔法の練習に明け暮れて、週に二回は一日中外出している。だからセシルと接する機会はそんなにないけど、城の中で見掛ける度に彼女は僕を見ている。


 僕の自意識過剰じゃなければ、素っ気ない態度が気に入らないのか? だけど大して話したこともない侍女と、フレンドリーに接するのは不自然だろう。


 セシルと距離があることは別に悪いことじゃない。今度は間違えないように、できれば彼女を副官にしたくないからだ。戦場に連れて行かずに、安全な場所にいれば、彼女が死ぬようなことはないだろう。


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