第9話 見えない条件
「そういえばさ」
夜の通話の途中。
モモがスマホをいじりながら、思い出したみたいに言った。
「お母さんに言った」
優作は少しだけ間を置く。
「何を?」
「サクのこと」
それだけだった。
あまりにも自然だった。
“報告した”というより、“会話の流れで出た”くらいの軽さ。
優作は一瞬だけ言葉を探す。
「……普通に?」
「うん☺️」
モモは笑いながら頷く。
「今日さ、ご飯食べながら話してて」
「どんな人と最近会ってるのって聞かれたから」
「普通にサクって」
「彼氏って」
その言い方も軽い。
特別なイベントじゃない。
日常の延長。
その感覚が、優作には少しだけ不思議だった。
「びっくりしなかった?」
優作が聞くと、モモは首を傾げる。
「うーん、最初ちょっとだけね」
「でも、別に怒られたりとかはないよ」
「どんな人かは聞かれたけど」
「ちゃんと話したら、普通に聞いてくれた」
画面の向こうで、モモは何でもないことのように話している。
でも優作は、その“普通”の中にある重さを少しだけ感じていた。
「サクって優しいよね、とか」
「ちゃんとしてそうだね、とか」
モモは続ける。
「そんな感じだった」
優作は少しだけ笑う。
「それ、当たり障りない評価じゃない?」
「えー、いいじゃんそれで☺️」
モモは楽しそうに返す。
その時は、それだけだった。
深刻な空気でもない。
問題があるようにも見えない。
ただ一つだけ。
優作の中に、小さな引っかかりが残った。
“当たり障りない評価”。
それは、まだちゃんと見られていない感じでもあった。
「でもさ」
モモが少しだけ真面目な声になる。
「なんかちょっと変な感じだった」
「変?」
「うん」
モモは少しだけ考える。
「ちゃんと話したはずなのに」
「なんか、“まだ分かんないね”って空気」
優作はその言葉に少しだけ黙る。
でもモモはすぐに笑う。
「でも別に反対とかじゃないよ」
「普通に、様子見って感じ」
その“様子見”という言葉が、妙に現実的だった。
優作は画面を見ながら思う。
会ってもいないのに、判断されるわけでもない。
でも、もうすでに“枠”はでき始めている。
それは批判でも否定でもない。
ただ、家族というフィルターを通した自然な距離感。
「サク?」
モモが呼ぶ。
「ん」
「なんか考えてる?」
優作は少しだけ笑う。
「いや、別に」
「たださ」
少し間を置く。
「そういうの、普通なんだなって思って」
モモは少しだけ首を傾げる。
「普通だよ?」
そう言って笑う。
でも優作は、その“普通”の意味が少しだけ違う気がしていた。
通話はそのまま続く。
笑いもある。
いつも通りの会話。
それでも、どこかで。
見えないところで、何かが少しずつ積み上がっている気がしていた。
サクとモモの関係の外側で、静かに。




