第10話 輪郭の外側
「会ってみたいって言われた」
モモは、いつも通りの明るい声でそう言った。
夜の通話。
ソファに寝転びながら話す、いつもの時間。
「誰に?」
優作が聞くと、モモはあっさり答える。
「お母さんとお兄ちゃん」
「サクのこと気になるってさ」
軽く笑いながら言う。
その笑い方が、いつも通りだった。
「写真も見たいって」
「え、写真?」
優作が少し驚くと、モモはさらに笑う。
「そうそう、どんな人と付き合ってるのか気になるって」
「なんか面接みたいじゃない?」
自分で言って、自分で笑う。
優作は少しだけ息を吐く。
「なんかすごいね」
「でしょ?」
モモは画面の向こうで楽しそうに頷く。
「うち、そういうのちゃんと知りたがる家なの」
「でも別に怖いとかじゃなくてさ」
「普通に興味あるだけって感じ」
そう言って、また笑う。
その笑いに重さはない。
むしろ、ちょっと面白がってるくらいだった。
「サク的にはどう?」
モモが聞く。
優作は少しだけ考える。
「別に嫌とかじゃないよ」
「たださ」
「まだ“そういう段階かな”って感じはする」
その言葉を聞いて、モモは一瞬だけ目をぱちくりさせる。
でもすぐに笑う。
「なにそれ、真面目」
「でも分かる」
「サクそういうとこちゃんとしてるよね」
その言い方も、軽い。
褒めているというより、面白がっている感じだった。
「じゃあさ」
モモが少し身を乗り出す。
「その“ちゃんとしたサク”を見せればいいじゃん」
「見せればって」
優作が言うと、モモは楽しそうに笑う。
「うん、普通にご飯行くだけだし」
「お母さんたちが勝手に緊張してるだけだよ」
その言い方が、妙に自然だった。
深刻さがない。
でも軽すぎもしない。
優作はその空気に少しだけ引き込まれる。
「まぁ、いいけど」
そう言うと、モモはぱっと顔を明るくする。
「ほんと?」
「うん」
「やった」
モモはスマホの向こうで嬉しそうに笑う。
その笑い方が、子どもみたいにまっすぐだった。
「サクさ」
「ん?」
「うちの家族、ちょっと面白いよ」
「たぶんサク、ちょっと困ると思う」
「それは怖いな」
「大丈夫大丈夫」
モモは笑いながら手を振る。
「サクならいける」
その“信頼”は軽いのに、妙に嬉しい。
通話はそのまま続く。
どうでもいい話で笑う。
コンビニのアイスの話。
仕事の愚痴。
モモの「それ絶対違うでしょ」というツッコミ。
さっきの話は、もう軽く流れていく。
でも優作の中には残っている。
重さではなく、予感として。
恋人としての時間は、まだ始まったばかり。
そしてその先に、モモの“家族”という世界が、少しだけ顔を出し始めていた。




