第7話 返事
既読はすぐについた。
でも返信は来ない。
いつもなら数秒で返ってくる桃華からのメッセージが、今日は止まっていた。
優作はスマホを机に置いて、また手に取る。
意味もなく画面を開く。
通知はない。
静かだ。
部屋の静けさが、少しだけ違って感じる。
『今度、ちゃんと話したいことがあります』
送ってしまった。
勢いではない。
でも、軽くもない。
その一文が、空気を変えてしまった気がした。
優作はソファに背を預けて天井を見上げる。
数分後、スマホが震えた。
反射的に手が伸びる。
どうしたんですか?
優作は少しだけ間を置く。
そして打つ。
『会って話したいです』
送信。
また既読はすぐについた。
今度は、ほんの少しだけ間があった。
その“間”だけで、胸の奥が静かに動く。
……はい
短い返事。
でも、拒否ではない。
優作はその一言を見て、ゆっくり息を吐いた。
待ち合わせは、前に行ったカフェだった。
同じ席。
同じ時間。
でも空気だけが違う。
優作は先に座り、コーヒーに手をつけないまま待っていた。
扉が開く。
「優作さん」
桃華の声。
顔を上げる。
そこには、いつもの笑顔があった。
でも少しだけ、静かだった。
明るさの裏に、緊張が薄く張っている。
「すみません、遅くなりました」
「いえ」
短く返す。
桃華は向かいに座る。
カップに手を添えたまま、視線を少し落とした。
沈黙。
でも気まずい沈黙じゃない。
何かを待っている沈黙だった。
「話って」
桃華が先に言う。
優作は一度だけ息を吸う。
ここから先は、もう戻れない。
でも不思議と怖くはなかった。
「桃華さんといる時間が」
ゆっくり言葉を選ぶ。
「すごく楽しくて」
「気づいたら、ちゃんと会いたいって思うようになってて」
桃華は黙って聞いている。
優作は続ける。
「ただ話すだけじゃなくて」
「ちゃんと、隣にいてほしいって思うようになりました」
その言葉で、一瞬だけ空気が止まる。
桃華は目を少しだけ見開く。
でもすぐに逸らさない。
ちゃんと受け取っている。
沈黙が落ちる。
カフェの音だけが戻ってくる。
桃華は小さく息を吸った。
そして、少しだけ笑った。
いつもの明るさじゃない。
でも、優しい笑い方だった。
「私も」
小さく言う。
「優作さんといるの、すごく楽しいです」
少し間。
そのあと、もう一度。
「ちゃんと、会いたいって思ってます」
優作はその言葉を聞いて、肩の力が抜けるのを感じた。
「じゃあ」
少しだけ間を置いて、言う。
「付き合ってほしいです」
桃華はすぐには答えなかった。
でも、逃げる沈黙じゃない。
選ぶ沈黙だった。
そして、ゆっくり頷く。
「……はい」
小さく笑って、
「私も、ちゃんと好きです」
その瞬間、空気が変わる。
重さが消えるわけじゃない。
でも、形が決まる。
優作は静かに息を吐いた。
離婚してから一年。
止まっていた時間が、また違う方向に動き出す。
今度は、“二人で”進む方向に。




