第12話 距離の測り方
カフェのテーブルで、モモはストローをくるくる回していた。
「サク、今日さ」
「ん?」
サクが顔を上げると、モモは少しだけ笑って続ける。
「昨日、お兄ちゃんの電話あったじゃん。あれちょっとごめんね」
「どれ?」
サクが聞き返すと、モモは軽く肩をすくめる。
「ほら、夜に急にかかってきたやつ」
「ああ」
サクはそこで思い出す。
「別にいいよ」
モモはほっとしたように笑う。
「ほんと?」
「うん」
少しだけ沈黙。
でも気まずくはない。
カフェの空気がゆっくり流れている。
「お兄ちゃんさ」
モモが続ける。
「ちょっと過保護なんだよね」
「昔からずっと」
サクはコーヒーを一口飲む。
「そうなんだ」
「うん」
モモは軽く頷く。
「でもさ、悪い人じゃないの」
「ただ心配性なだけで」
その言い方は、守っている側の声だった。
サクは黙って聞く。
「サクのこともさ」
モモが少し笑う。
「なんか最初びっくりしてたけど、普通に話聞いてたよ」
「評価はされてるけどね」
冗談っぽく言って笑う。
サクはその言葉に少しだけ目を細める。
「評価か」
「うん、評価」
モモは軽く言う。
その“評価”という言葉が、少しだけ引っかかる。
でもモモは気にせず続ける。
「でもさ」
モモがストローを置く。
「うちってそういう家だから」
「ちゃんと知ってからじゃないと安心できないっていうか」
そう言って、また笑う。
その笑顔は明るい。
でも、“当たり前”として話している感じがあった。
サクは窓の外を見る。
通りを歩く人たちは、誰もそんなことを気にしていない。
でもこの関係だけは、少し違う場所にある。
「サク」
モモが呼ぶ。
「ん」
「変かな、うち」
その問いは軽いのに、少しだけ深い。
サクは少しだけ考える。
「変っていうより」
「ちゃんとしてるんだと思う」
モモはその言葉を聞いて、少しだけ嬉しそうに笑う。
「なにそれ」
サクも少し笑う。
でもその笑いの奥に、ひとつだけ残る感覚がある。
“ちゃんとしてる”
それは安心でもあり、距離でもある。
カフェの時間は続く。
会話も笑いも普通にある。
それでもサクは少しずつ気づき始めている。
モモといる時間は心地いい。
でもその外側には、まだ名前のつかない領域がある。




