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マッチングアプリで出会った彼女、実は結婚相手を自由に選べない家の娘だった~自由恋愛の行き着く先で、僕たちは結婚できない~  作者: スアップ


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第13話 名前のない圧

夜の通話は、もう“日課”になっていた。


「サク、今日なにしてた?」


モモの声はいつも通り明るい。


サクはソファに沈みながら、天井を見上げる。


「仕事と、ちょっと片付け」


「えらいじゃん」


その一言で、少しだけ疲れがほどける。


「モモは?」


「今日ね、お母さんと買い物行ってた」


「また一緒か」


「うん、普通に楽しかったよ」


モモは笑う。


その笑いは軽くて、日常の中に溶けている。


しばらくどうでもいい話が続く。


コンビニの新作スイーツとか、仕事の愚痴とか。


サクはそれを聞きながら、少しずつ落ち着いていく。


でもふと。


モモの声が少しだけトーンを変えた。


「サクさ」


「ん?」


「この前のさ」


一瞬、間が空く。


「うちの家の話」


サクは少しだけ姿勢を起こす。


「うん」


モモは笑いながら続ける。


「なんかさ、お母さんがね」


「“ちゃんとしてる人っぽいね”って言ってた」


「ちゃんとしてる?」


「うん、写真見たあと」


軽く笑いながら言う。


その言葉に、サクは少しだけ黙る。


写真。


その単語だけが、少しだけ現実っぽい。


「でさ」


モモは気にせず続ける。


「お兄ちゃんは逆にさ」


「“悪い奴じゃなさそうだけど、よく分からん”って感じ」


「評価がざっくりだな」


サクが言うと、モモは爆笑する。


「でしょ」


その笑い方はいつも通りだった。


でも、サクの中には小さな違和感が残る。


“見られている”。


それ自体は悪いことじゃない。


でも、どこか一方的だ。


「モモ」


サクが呼ぶ。


「ん?」


「それってさ」


一度言葉を止める。


「俺、まだ“人として会ってない”感じするな」


モモは一瞬だけ黙る。


でもすぐに笑う。


「なにそれ」


「いや、変な意味じゃなくて」


サクは少しだけ苦笑する。


「なんか、先に評価だけ進んでる感じ」


モモは少し考えるような顔をする。


そして、軽く言う。


「うーん、でもうちってそういう家だしね」


その言い方は、悪気がない。


むしろ“普通のこと”として話している。


サクはそこで気づく。


これは誰かが悪いとかじゃない。


ただ、構造の違いだ。


「サク、気にしてる?」


モモが聞く。


「気にしてるっていうか」


サクは少しだけ間を置く。


「まだ距離の測り方が分からないだけ」


モモはその言葉を聞いて、少しだけ笑う。


「サクっぽいね、それ」


その笑顔は軽い。


でも、どこか安心もしている。


通話はそのまま続く。


いつも通りの会話に戻る。


笑いもあるし、沈黙も優しい。


それでもサクは思う。


モモといる時間は楽しい。


でもその外側には、少しずつ形を持ちはじめた“何か”がある。


それはまだ問題じゃない。


ただ、名前のない圧として、静かにそこにあるだけだった。

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