第7話『動き始める影』
向日葵の最後の開花を見てから3日後のこと、改めてマクベス姉弟をエルドラド邸へ呼び出し、魔術録について話し合う事にした。
初日のような緊張感は無くなったマクベス姉弟は、落ち着いて話を聞いていた。
「まず、魔術録を探すには相手の微量な魔力をわかるようにならなければならん」
「リュリカが言いたいことはわかるけどさ、俺はCクラス、姉ちゃんはBクラス。俺達はそこまで魔法を感知する能力は無いぜ?」
「あぁわかっている、期待もしていない。」
「ひでぇなお前って…」
「だからこそ、この魔術録を使う。この本の紙切れ1枚持ってるだけで、エルドラドに秘められた魔法や魔力を感知しやすくなる。」
リュリカは魔術録をペラペラ捲り、適当なページの紙を破り2人に渡す。すると、破って渡した紙が淡く光る。魔術録、つまり本に反応しているようだ。
「へぇ、便利なもんだな。身体や脳にまで魔力が伝わってくる」
「私達はどの辺りを捜索すれば良いですか?」
「あぁ、今は一緒に学院内を調べるとしようか。あの学院に居る生徒が臭う」
リュリカはソーサーに載せたカップを手に取り、紅茶を飲み干す。ユウはそのカップとソーサーを回収する。リュリカは椅子から立ち上がると
「ま、話はそんな所だ。また何かあれば連絡する、解散だ」
リュリカにそう告げられたマクベス姉弟は、身支度を済ませエルドラド邸を後にした。
空も夕方に変わっていく、夕日は窓を通り抜け薄暗い部屋を照らす。リュリカはそのままその窓の外を見る。
「なぁ?ユウ」
「はい、なんでしょう」
「どうしてお前は、私に付いてくる」
ユウはテーブルの片付けを止めて、リュリカの背中を見つめながら答える
「愚問です、ボクはお嬢様の執事ですから」
「それは答えになっていないが?」
「お嬢様の質問は、子供のようです。月は何故浮いているのでしょうか?太陽は何故昇るのでしょうか?」
リュリカはため息を吐く、求めていた答えをユウが言ってくれないからだろうか。ユウはリュリカの背中をずっと見つめている、普段は強気なリュリカ、しかし今はどうだろうか。
「お前は、意地悪だな」
「そうでしょうか?」
「あぁ、意地悪だ」
リュリカはユウに振り向き寂しそうな声色で呟いた。
翌日、学院にいつも通り登校し教室へ。入学式のチヤホヤムードは無くなり過ごしやすくなった中のこと。
「あ、あの、あなた?」
「ほー、シルカ・サージェスか」
変な挑戦を受けてから、シルカは謹慎を喰らっていたらしく、週明けの今日から登校できるようになったらしい。しかし以前とは少し感じが違う。
「い、いえ!リュリカ様!私とお友達になってくださいませ!」
「貴様、ついにボッチにでもなったか?」
「ち、違いますわ!貴女の実力を認めたんですの」
「実力?私の実力はCだが?」
リュリカはめんどくさそうに受けごたえする、ユウはリュリカの授業で使う教科書などを渡している。
「そうではありませんの!私を倒した方ですのよ?!」
「あーうるさい、勝手にしろ。」
「じゃあ今からお友達ですわね!?ね!?」
「だから、勝手にしろ」
シルカはロール髪を揺らしながらルンルンで席に戻った。
「お嬢様、よろしかったのですか?」
「なぁに、あの調子なら何でもないだろ。それより、この教室はどうだ?」
「いえ、恐らくいないでしょう」
「そうか」
ページ探しの話をしていると、教室の扉が開く。
「それでは皆さん、授業を始めますよ」
入ってきたのは社会科担当の男性教師、ただの教師だと思っていた。しかし、何か普通とは違う空気を感じた。
「(ユウ、わかるか)」
「(は、何かを感じます)」
2人は目線は教師にやったまま、小声で会話する。教師はモニターを展開し授業の準備を進める。
「君たちはこれから、ここで学ぶことは今後重要となります。魔法、それは人を幸せにする。しかし悪事に使うこともできる、ここで質問です。君、魔法を悪事に使う友達が居たら君はどうする?」
男性教師は教壇に近い席の男子に質問をする、男子は立ち上がり
「そいつを捕まえて、魔法律に則った範囲で罰します」
「あっははははっ!」
真面目に答えた男子の答えを笑い飛ばす、男子は首をかしげる。それはそうだ、当たり前な事を聞かれ当たり前な事を答えたのだから。
「今の答えで、君。死んだよ」
「!?」
「魔法を悪事に使うやつが簡単に捕まるわけがない、君のようなおバカさんにはね?あっははは!さて、魔法は人を殺めることなんざ簡単なこと、気をつけたまえ?では、この質問の答えがわかる子は………君、わかるかい?」
指さした先に居たのは、リュリカだ。リュリカは興味なさげに無視をする
「ほぅ、僕の質問を無視かい?答えられない?君の前には悪事に使う魔法を発動しようとしているんだよ?君に」
「その質問に答えはない、悪事に使う魔法?どんな魔法なのか気になるが?」
リュリカは鼻で笑いながら答える、男性教師は少し目つきが変わる。ユウはしっかりと見ていた、一瞬だが苛立ちで魔力を練ろうとする微量の魔力を。
「どんな魔法?今ある魔法はホロス魔術式しかないが?」
「ホロス魔術式では人を殺めることはできないはずだが?」
「ブレスレットを改良すれば、わからないだろ?」
「わからない内容、かもしれないルールなどあってないもの。つまらんな、そんなことを言うくらいなら授業を始めないか?」
「……小娘……わかりました、授業を始めますよ」
舌打ちをした、リュリカは気にしてはいない。しかしかもしれないルールは今この男性教師にある言葉かもしれない。
この男は、エルドラド魔術録のページを持っているかもしれない。リュリカはそう考えた。
授業は何事も無くスムーズに進み、終了した。
午後、屋上にマクベス姉弟を呼び出し怪しいヤツが教師に紛れているかもしれないと話をする。
「生徒じゃなくて教師か、でもただそんな性格なヤツって訳じゃないのか?」
「最初はそう感じたが、微量だが魔力を感じた。ページが無くとも何かを知っている」
トーマは腕を組んで唸る、そこにトウカがある話を持ち出した。
「リュリカさん、最近この学院の生徒限定で起きている事件をご存知ですか?」
「事件?いや、知らんな」
どんな事件なんだ?とトウカに質問をする、トウカはモニターを展開し事件の記事を見せる。内容は
「学院生徒のブレスレットを奪い、何かに使っているんじゃないか。という事です、しかし奪われた生徒皆いつ奪われたか覚えていないらしいのです」
「記憶がないのか、だがブレスレットは無くなっている。」
「お嬢様、魔術録に関係のある魔法ではないですか?」
「記憶を消す魔法……『記憶操作』か、確かエルドラド魔術録にそんなのがあると聞いたことがある」
その対象の記憶を部分的に消したり、復元したりできる魔法。もちろん記憶操作ができるだけで人物を操ることまではできない、だが記憶を抹消することが出来るということは、あった出来事を無かったことにすることも出来る、危険な魔法。
「お、おい、そんなことされたらヤバイんじゃないか?もしその教師が犯人だとして、俺達が知ったら記憶消されたり、自分の記憶を消したりするんじゃ?」
「あの魔法は自分を対象にはできない、それにその魔法を発動するにはその対象の頭に触れていないとならないからな」
「どちらにせよ、危険な事には変わりはありませんね」
「お嬢様、どうされますか?」
リュリカは少し考える、まだその事件を見た訳では無い。
「その現場を1度見る必要があるな、時間帯はわかるか?」
トウカに話を振るリュリカ、生徒が被害を受けた時間帯がわかればその時間帯を見張ればいい事だ。
「夕方から夜でしょうか、大体が日没に掛けて起こっているようです」
「なら決まりだ、今日から日没の時間帯に見張る。わからないようにな」
学院に来てから初めての欠片探し、最初に絞ったターゲットは教師。事件に関わりがあるなら行動を起こすはず、リュリカはニヤリと笑をこぼす。
「見つけたからには、逃がさない。ユウ、覚悟は?」
「は、お任せを」
マクベス姉弟も強く頷く、ブレスレットを回収し何をしているのかわからない犯人。4人は緊張感を少し持ちながらも、その真実を確かめる為、動き出す。




