第6話『決意』
エルドラドの家、つまりリュリカやユウが住んでいる場所が書かれたメモを頼りに、マクエス姉弟は夕方の道のりを歩く。
亡くなった母にできる最後の恩返しのために、歩く。
「しかし、よく簡単に教えてくれたよな?エルドラドって秘密塗れって聞いたんだけど」
「わかりません、しかし何か考えての行動だったのでは?」
「まぁ、姉ちゃんがそう言うならそうなのかもな。というかあの2人に付いてきて貰った方が良かったんじゃないか?」
「先に帰られてしまいましたし、仕方ありません。メモによるとそろそろエルドラドのはずです。」
2人は途中で買った菓子折りを手に歩き続ける。2人が知っているエルドラド当主は、かなり威厳がある爺さんだと思っているのか、少し緊張気味。少しばかり手に汗を握るトーマ、身だしなみを何回もチェックするトウカ。落ち着かない。
「着きました、このお屋敷のようです。」
「で、でけぇ……」
巨大な正門、夕日を反射する白い壁、整えられた草木。
どこからどう見てもお金持ちというヤツだ、2人は呼び鈴を押すためにボタンに手を伸ばそうとすると。
ガシャン!っと金切音と共に鉄の正門が左右に開門する。
「な、なんかさ、お化け屋敷みたいでこえぇ…」
「い、行きますよトーマ」
先に踏み出したのはトウカ、トーマは慌てて姉の横に並ぶ。玄関口まで来ると木製の扉が誰かによって開かれた。
「お待ちしておりましたマクエス様、お話は聞いておりますので客間までご案内致します。」
扉を開けたのはメイド、2人は一瞬真っ白になるが入るようにと手で合図され、中に恐る恐る入る。メイドに客間まで案内され、入口に近いソファーに座る。
「やけに広いから落ち着かねぇよな…」
「当主が来るのですから、少しは落ち着きなさい」
「姉ちゃんだって、スカートの裾いじくるのやめろよ」
落ち着かない姉弟は10分ほど待たされた。そして、客間の扉が開く。2人は立ち上がり入口を見つめると。
「お待たせ致しました、マクエス様」
「お、お前!?」
制服ではないが、その顔に髪は明らかにユウ。続いて後ろから現れたのは
「来たか、マクエス姉弟」
「あ、貴女は…」
2人は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔で固まる、すぐに意識を復活させたトーマはすぐに表情を変える。
「ま、待て待て!当主はどうした!?」
「当主?それが私だが?」
「いやいやいや!お前はイディエルだろ!?」
それはそうだ、2人が予想していたのは『オウド・エルドラド』、80になる爺さんのはずだった。しかし、実際現れたのは……
「ま、質問に答えようか、まず私達はイディエルではない。学院ではエルドラドと名乗ると都合が悪いからな、そしてなぜ当主オウド・エルドラドではなく私なのか」
リュリカは自分が座る上座に向かって歩きながら話す、ユウはその後ろを歩いて付いていく。
「至って簡単だ、オウド・エルドラドは死んだ。だからエルドラドの血を持つ私が当主となった」
「オウド・エルドラドが死んだ?だってそんな情報は!!」
「魔法、わかるか?エルドラドの魔法は今一般的に知られているホロス魔法よりも強大、記憶操作をするのも簡単だ。まぁ、オウド・エルドラドの場合は知らないところで死んだに過ぎないがな」
マクエス姉弟はあまりの真実に少し混乱している、ユウは座るように2人に話しかけ冷たいお茶をテーブルに置いていく。
「で、では、今の現当主はリュリカさんと言うわけなんですか?」
「そうだ、まぁ、この国では私だけかもしれないな。他の海外は知らんがな」
暫く沈黙が続く、最初よりは落ち着いたマクエス姉弟は顔を見合わせてリュリカに話しかける。
「じゃあ、話はわかってるよな?再生の魔法を教えてくれ」
「構わないが、タダではできんな」
「条件は向日葵を見せる、そうじゃないのか?」
「まぁ、私達の正体を知ったのだ。貴様らには協力してもらう」
「協力?」
マクエス姉弟は頭にハテナマークを出す、ここに来てから驚かされることばかりだからだ。当主はリュリカ、さらには教える代わりに協力しろ。誰だって訳が分からなくなる。
「私達は、このエルドラド魔術録に記してあったページを探している。」
魔術録をペラペラと捲り、破れてなくなった場所を見せる。
「か、簡単に魔術録を見せるのかよアンタ」
「所詮ただの古本だ、ま、魔法が使える奴には宝物に見えるだろうがな」
また暫く沈黙が入る、マクエス姉弟は考えている。トーマが唸っていると
「わかりました、協力しましょう。ページ探しを」
「な!?姉ちゃん!?」
「魔術録に関われる事なんて、本来は生きてる内でも不可能なはずです、なら、少しでもお勉強は必要でしょ?」
トーマは頭を抱えるが直ぐに顔を上げる、覚悟ができた顔つきになっていた。
「わかったよ、んじゃこれで契約は成立な。じゃあいこうぜ、向日葵がある場所に」
姉が頑張りを見せた姿を見たのか、トーマは負けられないとばかりに先に立ち上がり客間の扉から出ていく。トウカも歩き出す、それをリュリカは
「確か、トウカと言ったな」
「はい、2年のトウカ・マクエスです」
「また聞きたいことがある、今は向日葵の場所に案内しろ」
「はい」
ユウはトウカが客間から出たのを確認すると、リュリカに近づく
「お嬢様にしては少し相手の内に入りすぎでは?」
「これも社会勉強、ま、ユウは私に付いてくればいい」
リュリカが歩き出す、ユウもそれに付いていく。
いつのまにか用意されていた車に4人は乗り込み、30分ほどの所にあるマクエスの屋敷に到着する。そこから車を降りて裏庭へと向かった、マクエス姉弟が立ち止まる。
リュリカとユウの目に映った光景は。
「ほぅ、なるほどな」
「季節ではないので当たり前ですが、寂しい花壇ですね」
リュリカとユウは枯れてしまっている向日葵を見るとそう呟いた。向日葵は季節が終を迎えると種を落としまた夏には咲くのが普通、しかし今は春、咲かない花を咲かせるのは実は危険だったりする。魔法により無理矢理時限をねじ曲げる為、恐らく。
「もう見れなくなるかもしれないぞ?」
「わかっているさ、だけど、母さんはもう二度と見れないんだ。なら最後に咲かせてやりたい、向日葵を母さんに届ける為に」
リュリカは魔術録を鞄から取り出し、トーマに手渡す。
「魔法発動はアンタがやるんじゃないのか?」
「これからやる事はお前達姉弟だ、そこまで責任は取らん。それに咲かせるなら、家族が一番だろ?」
「あ、アンタ……」
トーマは少し泣きそうになる、だがそれを堪える。再生の魔術式が記されたページを開き、トーマとトウカは手をつなぐ。魔術録さえあればブレスレット無しでも魔法は発動できるが、負担はデカイ。
2人は目を瞑り魔法に集中する。魔術録が光を帯び始める、漫画見たいに呪文などは無くても発動できる世界。静かな裏庭は魔法発動により強い風が吹き荒れる、マクエス姉弟は目を開き。
「「再生!!!!!」」
高らかに発動を宣言すると、魔術録に帯びていた光は枯れた向日葵の花壇に降り注ぐ。向日葵は少しずつ、夏の状態にまで逆戻りする。トーマとトウカは体力を一気に削られたのか、二人揃って尻餅を付いて様子を見届ける。すると
「できた………できたよ、姉ちゃん」
「はい………夏の、向日葵です」
向日葵はフローラ・マクエスが生きていて、育てていた夏の状態にまで元に戻った。魔法の光が向日葵の花壇周辺をキラキラと飛び回っている。
「母さん……ありがとう。俺達、がんばるから。」
「向日葵、ちゃんと母さんの元に行くからね」
マクエス姉弟は気がついていない、涙が溢れているのを。リュリカは地面に落ちた魔術録を回収し、鞄に仕舞う。
「ユウ、魔法はこんな風に扱うのだぞ。」
「はい、しかしお嬢様にしては何だか変な感じです」
「なぜだ?私はいつも真面目だが?」
「なら、毎日殺伐とした発言や性格をなんとかしてもらえませんか?」
「無理だな」
ユウとリュリカは、マクエス姉弟の後ろから向日葵を見ている。夕日と魔法の光によって、黄金に輝く向日葵は、
陽が沈むと同時に、最後の一生を終えて、
静かに眠りに付いた。
「(そうだったな、魔法は幸せなするモノと教えてくれたのは……)」
「何でしょう?お嬢様」
「何でもない、ユウ?今日は可愛がってやるからなっ」
「御遠慮願います」
マクエス姉弟が向日葵を最後まで見つめている中、後ろの姉弟は変わらず賑やかに会話に花を咲かせる。輝きを失った向日葵は、また別の輝きを得たように。
魔法とは幸せにするモノ、決して傷つけるためにあるのではない。
魔法は『大切な何かを』守るものだ。
ユウとリュリカは、悪に満ちた魔法を封じる為に、また1歩踏み出した。




