第5話『魔術録』
ちょっとした騒動の後2人はお昼を食べるために食堂へ向かった、シルカ・サージェスの行った行動については厳しくお説教と言ったところだろう。2人はそう考えていた、ブレスレットを発動したのは校内で校外ではない為違反ではないが、ブレスレットをまだ所持していないのをわかった上での魔法発動が校則違反になる。
「お嬢様、着きました。さ、中へ」
「あぁ、何があるのかわかるか?」
食堂の入口を仕切っている扉を開け、先にユウが入り扉の横に立ってリュリカを中へ入れる。流れる動作、これを初めて見た生徒は少しクギ付けになっていた。
「はい、あちらに券売機があります。券売機にない物が食べたい場合はカウンターで直接頼めるんだそうです。」
「ほぅ、なら券売機に行くぞ」
「お嬢様、その前に席を取りましょう、学院の食堂は席を早めに取って置かなければ座れなくなりますので」
「そうか、ならユウに昼は任せよう」
「わかりました」
ユウは券売機へ、リュリカは席を探しに歩き出す。コツコツと靴底を鳴らしながら空いている席がないか見回していると、知らない男子生徒に声を掛けられる。
「あ、ちょっとちょっと!いきなりで悪いんだけどさ、あんたイディエル姉妹の片割れか?」
男子でさらに言うとチャラい、茶髪の髪に肩くらいまで長さがある、制服もネクタイを完全には締めずにダランとした感じ。ファッションのつもりなのだろうか?ニコニコしながら話しかけてきた。
「あぁ、それがなんだ?」
「その感じは姉の方なんだな?確か…」
「私の名を知ってるなら貴様が名乗らないか」
「おっ、わりぃわりぃ!俺は『トーマ・マクエス』だ、よろしくな!」
今度は手を差し出してきた、しかしリュリカは無表情で差し出された手を見ただけ。トーマはその手をポケットにつっこんだ。
「で?そのマクエスさん、なんか用か?席を探していて忙しいんだが?」
「ならよかった、丁度席が空いてる場所があるんだけど、来てくれないか?」
「…………」
新手のナンパだろうか、よく駅前や夜の街で見るホストのような感じもする。ネクタイを見る限り同じ一年のようだが。リュリカが睨みつけていると後ろから食事をプレートに載せたユウが声を掛けてきた。
「お嬢様どうかされましたか?」
「ん?ユウか、新手のナンパに掛かったようだ」
「いやいやいや!ちょっとちょっと!ナンパは酷くないか!?」
トーマは両手をブンブン振って全力で否定する、このままでは収集がつかない上にお昼が終わってしまう、そう考えたリュリカは
「わかった、貴様の相席をしよう。いくぞユウ」
「は、はぁ」
状況がイマイチ掴めていないユウは流されるまま、リュリカ達に付いていく。トーマがあそこだよ、と指を指した席には女子が1人座っていた。トーマが来たのを見たのかゆっくり立ち上がり軽く会釈をしてくる、ユウもリュリカの代わりにペコリと頭を下げる。
「ほら、座って座って!」
トーマに促され2人はトーマと2年生(ネクタイを見た)の女子と対面する形に座る。
「紹介するよ、俺の隣に居るのは『トウカ・マクエス』で俺の姉ちゃん」
「トウカ・マクエスです、よろしくお願いいたします」
オカッパに深紅の髪色、背丈はユウくらいありそうだ。つまり170ちょっと。
「私はリュリカ・イディエル、こいつはユウ・イディエルだ」
「ユウです、お見知り置きを」
挨拶も軽く済ませる2人、少し無言の空気が流れた後。最初に破ったのは
「アンタら2人に頼みたいことがある。」
さっきまでヘラヘラしていた奴の目が鋭くなる、何か狙っているような眼光。2人は少し気を引き締める
「イディエルっつったらエルドラドの分家だろ?なら、知ってるよな?」
「質問の前に質問をする、どこで私達のことを知った」
「2人は有名だぜ?あのシルカ・サージェスを負かしたんだろ?まぁさっきの話みたいだが、見てたやつが居てな。名前を知ったのは2人のクラスに友人が一人いるから、それらしい名前が居たら教えて欲しいって頼んでた訳さ」
シルカ・サージェスを負かした事、名前を知った生徒がこのマクエス姉弟に教えた事までは理解できた。しかし謎が浮かび上がる、なぜリュリカとユウがここに来ることを知っていたのか、数百人と入学生は入ってきた中2人が入ってくる情報などまず知るはずがない。さらにはイディエルに噛み付いてきた、リュリカは腕を組み問いただす。
「なぜ、私達がこの学院に来る事を知った?」
「それはわたくしから説明します、お2人がこの学院に来る事を知ったのはある筋の情報屋から聞きました。わたくし達姉弟は昔からエルドラドに関わる魔術録を探すためにそれに近しい人物を探していたのです。」
「ほぅ、その情報屋はどこのどいつだ?」
この学院に通うことを知っているのは今の屋敷に居る使用人かユウくらいだ、使用人の中に紛れていたのだろうか?しかし怪しい奴は居なかった。一体誰が?
「わたくし達もその情報が欲しいために情報屋を探していたのもありましたので、名前まではわかりません。」
しかしリュリカがエルドラドの血を受け継いでいること間では知らないようだ。その情報屋も確信があって話した感じではなく、恐らくあの2人が……のように当てずっぽうが大きい。この姉弟も2人に対してイディエルの名を訪ね、エルドラド魔術録を出せば動揺すると考えていたに違いない。リュリカは少し失敗したかと考えるが、元はと言うとクラスでの自己紹介の時にイディエルと名乗ったのが失敗だったと今更思い始める。
そこでユウが口を開く。
「話はわかりました、それでお2人は私達に何かあるのでしょうか?」
「あぁ、単刀直入に聞く。エルドラド本家が何処にあって、どこに居るか教えてほしい」
「もしそれを知っていたとして、貴様はどうする気だ」
リュリカは考える、もしかしたらページの切れ端を持っている人物か?それとも魔術録その物を欲しているのか?と。トーマは穏やかな顔をする
「その中にある、『再生』を発動したい」
「………」
再生、エルドラド魔術録に記載されている一つの魔法。もう一度再生し復活させることができる、しかし人体使用はできないのが唯一の救いだ、所謂壊れたものを直したりすることが出来る。
「目的はなんだ?」
「その口だと、本家を知っていることになるが?」
ヘラヘラしている割には頭は冴えている奴のようだ、トーマは隠さずにリュリカに話をする
「俺達の実家にある、枯れた花を再生させたいんだ」
「もちろん、ただの花です。悪意はありません」
ただの花の為にエルドラド魔法が必要になるのか?2人はまた考える。
「イディエル姉妹が疑うなら、その花を見せてやるよ。ただの向日葵なんだよ」
「向日葵、季節はずれじゃないか」
「向日葵は夏の花ではありませんか?」
リュリカとユウは余計にわからなくなる。するとトウカは語り始める
「私達の母、フローラ・マクエスは花をこよなく愛した人でした。1年中花の世話をし、花とは何かまで教えてもらいました。その中でも向日葵は母の大事な宝物なのです、向日葵のように太陽に向かって強く伸びるようにと私達は育てられました。」
「フローラ・マクエス、聞いたことがあります。花の女神とまで言われて世界的に有名な人です」
「ユウは知っているようだな、私には花など興味がないからな」
悪意がないことを確認したリュリカは、肩の力を抜いた。ユウもトウカのお花のお話を黙って聞いている。
「しかし、母は先日亡くなりました。病死です、最後に向日葵を見たかったようなんですがそれも見れずに」
「つまり、貴様らはその母に向日葵を見せてやりたいってことなんだな?」
「そうなんだよ、だから、お願いいたします!もちろんタダとは言わねぇ!ちゃんと払うもん払うから!」
トーマがテーブルにガンっ!と頭を打ち付けるくらい頭を下げる、それを見たトウカも静かに頭を下げる。そんな2人を見たリュリカは
「はぁ、わかった。場所を教える、だが条件がある」
「なんだ?何でも言ってくれ」
リュリカは席を立ちながら。
「その向日葵、私にも見せろ」
「お嬢様……」
トーマとトウカはぱぁっと笑顔になる、夏の強い台風が過ぎ去った後の、向日葵のように眩しい笑顔。
屋敷の場所を書いたメモを2人に渡し、結局お昼を食べ損ねたまま食堂を出たリュリカとユウは
「お嬢様、よろしかったのですか?」
「悪意がないのは確かだ、それにあの2人を味方に付けてみないか?」
「ひょっとして、お嬢様は最初から……」
ユウは立ち止まる、リュリカは少し歩いたところでユウに振り向く。
「あんな悪いことしか載っていない魔術録も、たまには人の為に働かせねばな?ま!お前の笑顔のほうが向日葵より眩しいがな、ふふふ」
「お、お嬢様……」
リュリカは立った1日2日だが、少しだけ変わりつつある。そんな変化をユウは。
「素敵ですよ、お嬢様」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
時に魔法は牙を向き人を傷つける、でもそんな魔法の中にも人を笑顔にする魔法があるってことを忘れてはいけない。
魔法はちゃんと使えば、幸せにできるのだから。




