第4話『姉妹の魔法』
昨日の入学式から一日が経った朝、ユウはいつものようにリュリカを起こしに部屋へ向かう。
入学式早々風紀委員の子に目をつけられたリュリカ(目をつけられたと言うより、態度が悪いリュリカのせい)は不機嫌と言うより、何か新しい遊びを発見したそれに近い感じだ。
「お嬢様、朝です起きてください」
少し控えめに木製のドアをノックした、しかしそれだけでは起きてこないのがリュリカ、ユウは少しだけ扉を開ける。
「お嬢様、起きてください。入りますよ?」
ベッドで布団を抱き枕見たいに抱きしめ、スゥスゥ眠っているリュリカ。格好は下着のみ。男であるユウはあまり見ないようにしているが、寝相があまり良くないリュリカはユウに見せつけるように露出された肌をあらわにする。
「起きてください、遅刻してしまい―」
ユウはリュリカの肩を軽く揺すっていたらグイッと腕を引っ張られる。一瞬何が起きたか分からなかったユウ、視界は何か柔らかな感触に包まれている。例えるならマシュマロクッションのような、形容し難い感触だ。
「ふふ、簡単な罠に引っかかるとはな?それでも今孔明か?」
「ボクは軍師でも策略家ではありません、それより離れてもいいですか?」
リュリカの顔は見えないが、きっと不敵な笑みを零しているに違いない。ガッチリ抱きつかれたユウはゆっくりと顔を上げる、別に本気で顔をホールドされていた訳ではなかったので簡単に脱出が完了した。
「残念だ、もう少し堪能していても良かったんだが?」
「それでは時間がなくなってしまいます」
「では時間があれば、味わっていたのか?ん?」
挑発するリュリカ、少し顔を赤らめているユウ。照れているユウは少しばかりレアだ、基本的には無表情に近いからだ。
ユウは自分の身なりを正してリュリカの制服をクローゼットから出し、手渡した。
「お前は冷たい奴だな、だがそこがいいな。愛しているぞ?ユウ?」
「わかりましたから、早く支度をすませてください」
ため息程ではないが何かと主人に手を焼く執事、これが毎日ある。
食事も済ませ無人の車に乗り込む、ユウはカバンからノートパソコンを取り出しパチパチキーボードを叩く。
「今日から授業ですが、通常の学業と同じで魔法魔術以外の基礎知識も行うようです」
「あぁ、それは適当にする。それよりシュヴァルティエ(あそこ)には面白いシステムがあるそうじゃないか」
「ひょっとして『ターゲットミッション』の事ですか?」
「あぁ、確かそんな奴だな。詳しい事はわかるか?」
「はい、ターゲットミッションは一般市民や民間企業等が学院に依頼して掲示板に表示されたものを、ボク達生徒が受ける。依頼は様々で自由に選択が可能です、報酬は学院内で使える電子マネーです。もちろん電子マネー以外の報酬もあります」
キーボードをパチパチ弾いたり、カーソルを動かし説明欄を覗くユウ。リュリカは腕と足を組み黙って説明を聞いている、無人の車は学院の正門前に到着した。
「ま、一応頭に入れておくのもいいだろう、ユウ?お前はどう見える?コイツらを」
リュリカはユウが車から降りようとしたのを引き止めるように質問する、脈絡のない質問。
「ただの生徒。ではダメですか?」
「お前にはそう見えるか、私には皆『魔法魔術』欲しさに目を光らせているように見えるがな」
魔法魔術は何だってできる、世界さえ変えようとすれば変えられる。良い方向に向くならまだしも、悪い方向になどさせてはならない。そう言ったように聞こえたユウは車から降りるとリュリカに手を差しのべる。
「さ、お嬢様行きましょう」
「ふふ、あぁ、行こうか」
リュリカが降りたのを確認した後、二人揃って教室へ向かった。
廊下や階段を歩き目的地に着いた、教室の扉ごしからでも中の話し声が聞こえる。ユウは扉を引くと先にリュリカを中に入れる、その時だった。話に夢中になっていたクラスメイト達は一斉に教室に入ってきた2人を見てくる。
『イディエル姉妹だったよな?』
『やっぱ2人美人だよな?』
『目つき悪いけど姉のほうもろタイプ』
2人はそんなことも気にせず席に着くと。
「ちょっと、貴女?」
「ん?」
縦髪ロールの金髪にその取り巻きだろうか?その金髪の左右に女の子が2人、リュリカの席にやってきた。見るからにお金持ちなのが丸わかり、さらにはそれを権力にしているのもわかる。
「確か、リュリカ・イディエルだったわね?」
「だからなんだ?」
「黙りなさい、シルカ様が質問してくださっているのよ?」
リュリカはつまらなさそうな顔をする、取り巻きはそれを見たのか軽くガン飛ばして来るが、リュリカには通じていない。
「エルドラドの分家だからと、少々生意気ですわよ?」
「人に質問する前にまず名を名乗れ、ちょろぎ」
「な!?ちょ、ちょろぎぃぃい!?」
金髪はムキーっ!とした顔をする、取り巻きが動こうとするとその金髪が手で制す。バン!とリュリカのテーブルを叩く
「あまり、調子に乗らない方が身のためですわよ?」
「あ、そう。安心しろ、名無しには興味ないからな」
「な、名無しぃい!?わ、分かりましたわ。そんなに言うなら名乗りましょう、私は『シルカ・サージェス』!サージェス家の姫よ!おっーほっほ!」
サージェスと名乗る彼女、サージェス家は魔法ブレスレットの開発に携わった一族。サージェス魔法工業の令嬢にあたる、サージェス製ブレスレットは世界シェアNO.3と広く有名だ。
「お嬢様、サージェス家のご令嬢でございます。ご存知のはずですが」
「名前くらいしか知らんな、それより何か用なのだろ?まさか、意味のわからない挑発だけならさっさと去れ」
「ふん!痛い目に合っても知らないですわよ?行きますわよ」
金髪はロールをなびかせながら取り巻きを連れて席に戻った、リュリカは何も無かったように持参した小説を読みながら、ホームルームを待った。
ホームルームは簡単に済まされ、通常授業を受ける。そして時間は流れお昼休み、生徒は食堂に向かう。リュリカ、ユウも食堂に向かう事にしたが道中でのこと。
「お待ちしてましたわ、イディエル姉妹」
「なんだ?お前達はお昼を無駄に使うのか?私は急いでいる」
リュリカが歩き出そうと前に1歩踏み出した時だ、丁度リュリカの足のつま先ら辺に銃弾のような弾がコンクリートを打ち抜いていた。
「何の真似だ?ブレスレットは今日配られるんだが?」
「お忘れになりまして?私はサージェス家、最初からブレスレットは持っているのですわよ?」
だからか、ホームルーム前に感じた空気。まだブレスレットがない状態では誰も魔法は発動できない、しかしサージェス家のご令嬢は最初から手にある為に周りは何も言えず見ているだけ、いわゆるイジメ現場を見て見ぬフリのような感じ。微弱ながら魔法の素質を持っている生徒でもブレスレットを持った人間には敵わない、さらにはブレスレット無しでの魔法は危険で学内では禁止だ。
「………」
「どーしましたの?まさか、ビビっていらっしゃいますの?」
「お嬢様、ダメですよ」
「わかってはいるが、ユウ?これは正当防衛だろう?」
ユウにニヤリとするリュリカ、足元にあるコンクリートの小さな石を指で摘む。それをシルカ・サージェスに見せる
「そんな石ころでどうしますの?ぷふっ!あはは!」
「ユウ、石を相手に向けて秒速100キロで当たるとどうなる?」
「単純に銃弾同様に貫通、車などならガラスが吹き飛ぶかと」
「子供騙しな、安心してくださいまし?魔法の弾で蜂の巣にしてやりますわっ!」
シルカはブレスレットをはめた腕をリュリカに向ける、ブレスレットは光を帯び始める。
「なんだ?息巻いている割には魔術コード構築に時間がかかり過ぎだな?……タイムアウトだ」
リュリカは石ころを親指で弾く、その石ころはまるでハンドガンで撃った銃弾の如くそのブレスレットに着弾する。キィィン!とブレスレットの鉄のボディを貫通する、光は一瞬で弾け飛び腕からブレスレットが外れる。
「なっ!?ブレスレットが!?」
「誰がブレスレットが無ければ魔法が使えないと言った?」
「そ、そんな…私のブレスレットが、あんな石ころに…」
「あぁ、忘れていたが、石ころに少し魔法を掛けたんだ。『物体保護』と『物体加速』をな」
物体保護は本来その物体をどんな物からも傷一つ付けないようにする魔法だ、物体加速は練る魔力量によって物体の速度を早めたり遅くしたりすることができるが、それはその物体が動く時間の流れを変えるもので速ければ速いほどその物体の劣化速度も増すため、そういった使い方はまずしない。劣化を早めると言うことはその物体が消滅することに繋がる、今みたいな扱い方をするなら距離の計算や劣化消滅するまでの計算までしなくてはならない。
「くっ!!!生意気………生意気生意気生意気生意気生意気!!!生意気ですわぁぁぉあ!!」
シルカは近くにあった花壇の大きめのシャベルをリュリカに振りかざす、リュリカは避けずに目を閉じる。カァァン!!鉄と鉄が当たった音が反響する、リュリカに当たった訳ではない。
「お願いしますお嬢様、たまには言う事を聞いてください」
「あぁ、悪かったな。ちゃんと褒美はやる」
シルカが振りかざしたシャベルの矛先は、ユウの片腕によりガードされていた。普通なら骨折、だが魔法を瞬時に発動しユウは自分の腕に物体保護を掛けたのだ。シャベル以上に堅くなった腕はシャベルを曲げてしまうほどの堅さ、それにびっくりしたシルカはシャベルを離してしまう。
「う、うそですわ……ブレスレット無しでそんなに安定した魔法だなんて……」
「爪が甘いぞ金髪?私のユウは魔法発動に関しては世界一だからな?」
「そんなことはありません、お嬢様には敵いません」
シルカは青ざめて尻餅を付いてしまう、取り巻きも居たようだが逃げてしまったらしい。すると
「何をしているのあなた達!!」
風紀の腕章を着けた集団の中にあのツインテールが声を張り、こちらに向かってくる。シルカは放心状態だ、無理もない、勝てる勝負に負けたのだから。
「おいツインテール、こいつブレスレットを持参していたぞ?」
「え?お話を聞きますから、貴女はこっちに」
ツインテールがシルカの腕を掴み立ち上がらせようとした時だった、リュリカとユウに指を指し
「ま、魔法を、ブレスレット無しで発動しましたのよ!?あの2人!!」
「え?……本当なの?」
ユウとリュリカは互いに顔を見てから、ツインテールの目を見ると
「悪いが、ブレスレット無しで魔法発動など、最高魔導師にしかできんだろ?私達は所詮Cだからな」
「な!?嘘を!!嘘をついていますわ!私はこの目で!!」
「話は後から聞きますから、いきますよ」
「ま、待ってくださいまし!!本当にわたくしは!!―――」
風紀員集団がシルカを確保していく、シルカの訴えも虚しく学内に響くだけ。しかしツインテールだけはその場に残っていた。
「あまり、変なことはしないように、わかったかしら」
それだけ告げてツインテールをなびかせ2人の前から姿を消した。




