第3話『C』
ツインテールが去った後、適性検査を受けるために案内板に書かれた場所へ向かう2人。
適性検査はたった1つの項目だけで、いくつも受ける必要はない。魔道士に必要な『集中力』『安定性』『持続力』『気力』『技術力』を調べる為に行う。これらの1つでも掛けてしまうと魔法魔術にかなりの影響が出る。例えるならば、物を燃やすのに必要な物は燃えやすい『紙』点火できる『ライター』そして『酸素』だ、ライターが無ければ紙は燃えない、紙が無ければ燃やす物が無い、酸素が無ければライターの火は着かない。
そう言った意味で1つ欠けると『事』は始まらない、今上げたのは一例であり物の例え。それらが無くとも成功する可能性もある。火がないなら木を擦れば良い、紙が無ければ木を使えばいい、酸素が無いなら酸素を生む木でも埋めればいい。
例外などいくらでもある、そんな『例外』の2人はどんな風に受けるのか。
2人は案内板を頼りに学内の廊下を歩いていく、チラチラ他の生徒も見かける辺りもう直ぐのようだ。
「お嬢様、これからこの学院に通う訳ですが足りない物などはありますか?」
ユウは半歩後ろを歩いている、リュリカから離れず近づかずの距離感。ユウの質問にリュリカは溜息を吐きながら
「人間の質が足りないな」
「はぁ…人間の質ですか」
そういう事を聞いた訳では無い、しかしツッコミをするにはちょっと違うと感じたユウは『何故ですか?』と言う顔をする。
「わからないのか?見てみろ」
ユウは言われた通りに目だけを動かし周りを見る。新入生に混じり上級生がクスクス笑っている、バカにしているのか、または新入生の頃を思い出して笑っているのか。
「あれはなユウ、自分より下に見ている。滑稽だろ?」
「どうしてお嬢様はひねくれた発言をなさるのですか?」
「ほー、お前にしては珍しいな?意見するとは」
「いえ、ボクは素直に思ったことを言ったまでですが」
『ふ、そうか』と少し笑みを零す。しばらく廊下を歩いていると、入口に設営された受付を見つける。受付では番号札を受け取り呼ばれた順に検査を開始する、まだクラス分けが済んでいないため名前ではなくその番号札を名前代わりに呼ばれる。
2人は受付に並び、番号札を受け取る。
「55か、ユウはどうだ?」
「56です、お嬢様の後になります」
自分の番になるまでしばらく立ったまま待つ、検査が終えた生徒は受付でクラスの場所が書かれた札を受け取り去って行く。喜んでいる生徒、失敗したのか暗い顔をした生徒などを見かける。
『番号札55、中に入ってください』
「お嬢様」
「あぁ、行くとしようか」
検査は5人ずつ中に入り、1人ずつ行うようだ。リュリカは指定された場所に立ち、検査用ブレスレットを受け取り腕に潜らせる。
検査員は壁際に座りモニターを覗いている、いくら魔法が当たり前でも魔力だけでは足りない、そこは昔から変わらず電気。
『いつでも始めてください』
検査員がリュリカに告げた、リュリカは手をある物体へ構える。
検査の内容は重さ60kgある鉄の箱を左から右のテーブルに移動させるという検査だ。単純に移動させると言っても難しいのだ。まず物を移動させるには『浮かせる』必要がある、そこに必要なのが『浮力魔法』だ、そして集中力。
「………」
リュリカは目を瞑り集中力を高める、腕にはめているブレスレットから魔法陣が出現する。鉄の箱は静かに浮き始める、テーブルから浮いたことを目で確認した後次のステージ。
その物体を『上昇させる魔法』だ、そこに気力が必要となる。
「上昇…」
鉄の箱はゆっくりと上昇していく、ある程度の高さになると『停止魔法』を発動させる必要がある。停止魔法に必要なのは持続力と安定性だ、上昇魔法を切った後停止魔法が無ければ落下、それを防ぐために停止魔法が必要。
持続させるためには精神を安定させなければゆらゆらと動いてしまう。
「停止」
揺らつくことも無く、ピタリとその場に留まる。次は左から右へ浮かせたまま移動させる『サイド魔法』を発動する、これは上昇とは違い気力ではなく安定性が物を言う。
「移動、停止」
そう、この検査は魔法を幾つも重ねて行うためかなりの体力を奪われていき、最後物体をテーブルに着地させる時には雑になってしまったり、降下途中で落下させてしまったりと油断すると失敗する。
「降下…」
リュリカは問題無く降下させていく、しかし。
リュリカはある『人物』が目に映る、リュリカが向いている正面には背後を確認できる鏡がある、そこに居たのは。
「ツインテール……」
リュリカは聞こえるか聞こえないような声で、呟いた。ユウはそれを聞き取ったのか正面の鏡を見る、ツインテール、小さな身体、あの風紀委員だ。新入生を見に来たのか?先程までは居なかったのにそこに居る、理由は1つ。
「そうか……ふふ」
すると、ガタァン!!と降下途中の鉄の箱を落下させてしまう。ユウはビックリするものの、検査を終えたリュリカに近づく、リュリカはニッコリしながらユウに告げる。
「面白い、アイツは面白い奴だ」
「お嬢様が集中力を切らすとは思いませんでした」
「そんな訳ないだろう?」
ユウは頭を傾げる、ユウには何の事かわからないと言った顔をする。リュリカは親指でクイクイっと鉄の箱が落下したテーブルを指す、そこには何一つ傷や凹み、砕けた跡のないテーブルがあった。
「保護魔法、ですか」
「なかなかに面白い検査だったが、失敗だろうな、がんばれよユウ」
落下寸前にテーブルを守る魔法を発動させたリュリカ、わずか1mの高さから落下して着地するまでわずか2秒間もない間に、保護魔法をするには熟練した魔道士でも難しい、それを平然とやってのけるリュリカ。ユウは改めてお嬢様と言う、エルドラドの存在に少し恐縮する。
ユウの番が回ってくるが、先程のことが気になり集中ができず失敗、という風に終わらせた。彼もまた、リュリカに並ぶ逸材なのだろう。2人は検査室を出て受付でクラス分け札を受け取り、新しい生活が始まる教室へ向かった。
クラス分け札には『C』クラスと表示されていた、このCとは魔道士技術を示す言わば階級。SABCの順に一番下がCだ、検査基準はどうであれ厳しいのがこの学院。
2人はCクラスを見つけ入口を潜ると、Cクラスだなと思わせるくらいガヤガヤしている。同じ友達同士会話している物、1人黙って携帯端末を触る者、窓の外を見ている者。
魔法に興味がある、カッコイイ物だと思っている人間ばかり。
「人間の質、わかったか?」
「は、確かに」
2人は適当な席を探す、2人を見つけたのか男子や女子達がヒソヒソと話をする。
『今朝正門で見た女の子だ、あの黒紫色の髪の子メチャクチャ可愛いくないか?』
『絶対に女王様系だよな?命令されたいわ』
『バカ、となりのポニーテールの子もやばいって!』
『妹にしたい!てか姉妹なのかな?』
『うわ、お嬢様じゃないのあの子達』
『気取ってる訳じゃないけど、なんか好きになれないわ私無理』
賛否両論している中、一番後ろの廊下側の席に2人は横に並ぶ形で座る。リュリカは腕を組み、足を組み座る、ユウはスカートを気にしながら静かに座り足を斜めに揃える。
「女装趣味ではない、じゃなかったのか?」
「ここまで来たら嗜みです、あとこちらは筆記用具です」
「要るのか?こんな所で」
「あくまで学院のようです、授業では筆記用具が必要だと――」
「入学案内に書いてあったのだろう?」
「そうです」
ユウは慣れた感じに返事をした、ガラッと教室の引き戸が開き、立ち話をしていたグループは慌てて席に着く。黒スーツを身にまとった教師が教壇に立つ。
「ようこそ、Cクラスへ。今日から君らの担任になった『フィラ・セイラ』だ、まずは自己紹介からしていけ」
フィラ・セイラ、女性教師。威圧感な態度なのが少しリュリカと被るのかユウは普通に話を聞いていた、周りの生徒はビビっているのかあまり目を合わせない。自己紹介は一人一人立ち上がり名乗って行く、そして
「よし、次はお前だ」
リュリカに指差し棒を向ける、指名されたリュリカは立ち上がり。
「リュリカ・イディエルだ、よろしくはしない、興味はないからな」
それだけを告げるとリュリカは着席する、エルドラドを名乗らずイディエルと名乗ったのは、エルドラドの名を知らない物が居ないからだ。魔術録のページ探しをするには不便な名前だ、しかしイディエルという名前は…
『イディエルって、エルドラドの分家じゃなかったか?』
『親戚か何かか?名前が一緒なだけじゃ?』
イディエルくらいならば同じ名前か、分家かで迷う。それを狙ったのも1つ、もう一つはページを破り盗んだ奴がこの中に居れば何かしらアクションをするはず、しかしユウは周りを目だけで見ても居ないのを確認した。周りのざわつきも直ぐに静まりユウも同じようにイディエルを名乗った。
「よし、これで全員だな、これからお前達は立派な魔道士になる為に己を磨き、誰にも負けない精神を持て。以上だ、Cクラスだからと言って怠けたら、即刻極刑だ。」
フィラ女史の威圧的な発言にリュリカは興味を示さない、ユウは話をただ聞いている。そこにリュリカは一言だけユウに聞こえるように呟く。
『ここは、質が悪い人間ばかりだな』
この言葉の意味をまだ理解できないユウ、いずれは解ることかもしれない、いや、解らされる事かもしれない。
そんな、これから始まる生活の幕開けは、ユウに取っては『質』の悪い始まり方だった。




