第1話『夜明けの朝』
始まりには終わりがあるように、夜も終わり朝が来る。
広大な敷地に建てられた洋風の屋敷は朝日に照らされ、白に塗装された壁は輝きを放つ。
朝6時過ぎ、『彼』は『彼女』を起こす為に行動を開始する、彼は彼女の執事だから当然と言えば当然、しかし他のお金持ちとは違う部分が多くある、まず1つに『住み込みで働いているのは彼』だけだ、彼女は必要最低限の物だけで十分だと言っていたからだ、そして2つ目は『彼女はここの屋敷の当主』だ、若い16歳で何故当主になったのか、それはその屋敷の血筋に関わる話。
そして3つ目は『家族は彼と彼女のみ』だ、屋敷の呪い?魔法による自殺?詳しくは解らないところであり、まだ調べている途中なのだとか、謎が少しばかり多い屋敷と言ってもいいのかも知れない。
彼、ユウ・エルドラドは当主であるリュリカ・エルドラドを起こすために、部屋の前までやって来た。
「………」
ユウは腕に付けた時計をジッと見つめる、カチカチカチカチ、長い秒針はゆっくりとその時間になる為に刻んで行く。
「ゼロ」
囁くように呟くと、リュリカの部屋の中から目覚ましが鳴り始める、ジリリリリっと目覚ましの音が部屋の外まで鳴り響く、まるで屋敷までも起こすように、数秒経つと目覚ましの音が止む、ユウは扉に近づき腕を伸ばしゆっくりとノックする。
コンコン
「お嬢様、朝です、起きてください」
扉を開けずに扉の向こうに居るリュリカに呼び掛ける、布が擦れる音が聞こえる、起き上がったことを予想しユウは『入りますよ?』と一声掛けて扉をゆっくり開ける
「ユウか、当主の返事なしに入ってくるとは、立派になったものだな?」
リュリカはワイシャツと下着1枚で寝ていたようだ、ユウはこれはもう当たり前の姿だとばかりに、部屋に備えてあるポットからカップに紅茶を注ぐ。
「返事をせずとも入ってこい、そう仰ったのはお嬢様ではありませんか」
「それは確かに間違いないな、いらぬことを覚えているんだなお前は」
「は、もう長いので、重要な事だけは覚えております」
リュリカは鼻で笑いながら、ベッドから椅子に座り足を組む、ユウは淹れたての紅茶が入ったカップをテーブルへ置く。
「今日からだな、シュヴァルティエに行くのは」
テーブルに無造作に置かれているパンフレットを見詰めながら、リュリカはそう話す。ユウもリュリカの正面にある椅子に腰を落ち着かせる
「手続きはできています、制服も業者から届いております、しかし問題がございます」
興味ない、とばかりに目線を合わせずパンフレットを見つめるリュリカは『なんだ?』と返事を軽く返す
「制服が余分に1着多いのです、今の世界は魔法で何でもできる、破れても燃えても、ですが何故2着も?」
リュリカはカップをソーサーに置くと立ち上がり、ユウの背後に周ると優しくギュッと抱きしめる、ユウは理解出来ず返事を待つ。
「お前も通うからだ」
耳元で囁かれた、『お前も通うからだ』と、通うのは良しとしても問題はそこではなかった、制服は『女物』なのだ、このままでは女物の制服を来て登校になってしまう、さらには
「入学手続きは1人しかやっていなかったと思いますが?」
振り向かずにリュリカに意見する、リュリカはまた元の居た場所に座り直し、こちらを見ながら答えた
「今の世界は魔法で何とかなる、ではなかったか?」
「お嬢様……魔法で捏造しないでください、バレたら大変ですよ?」
そうだ、魔法は一般人でも魔法を発動させるブレスレットさえあれば使うことが出来る、そのため魔法による法律も存在する、悪戯にそういう事をすれば重い罪を背負う事にもなる、しかしリュリカは怯まない、何故ならば
「バレなきゃ犯罪ではない、と昔の本に書いてあったが違ったか?」
少し、いやかなり『おバカ』だからだ、魔法罪による罰はかなり厳し目で、生活を制限されたりする。
魔法は便利だが、使い方を間違えれば人殺しにもなる、そうならない為に、それらを捕まえる為にシュヴァルティエ育成学院が存在する、そこに通い魔法魔術を学び、時には実戦を積む、民間警察とはまた違うところだ。
「お嬢様、通うことは解りましたが何故女物の制服なのかを教えて下さい」
「お前は誰が見ても女だ、髪は長くスタイルも良い、その辺の女とは違うからな、さすがは私のユウだ」
昔からリュリカはユウの事を溺愛している、男としてなのか女に見えるからなのか、これもまた解らないところだが。
話をしている内に時間は少し進んでいた、住み込みでは無いメイドが出勤して来ている
「さ、お嬢様着替えてください」
制服をリュリカに手渡すユウ、渡したのとは別にもう一着の制服を手にユウは部屋から出ようとする。
「待たないか、ココで着替えればいいではないか」
「見た目は女かもしれませんが、男ですし執事なので」
「声も女ではないか」
「やめてください、コンプレックスなんです」
駄々をこねるリュリカを放置し、部屋を後にした。
しばらくして制服に身を包んだリュリカと、完璧に着こなしたユウが食堂にやって来る、シュヴァルティエの制服は黒のカッターシャツに深紅のネクタイ、丈の短い黒のジャケット、黒をベースに深紅のチェック柄をしたプリッツスカート、くるぶしに赤い2重線が入ったハイニーソ、黒のローファー、あまり目立たないのがコンセプトらしいが逆に目立ちそうな制服。
「ふふ、やはり似合っているではないか、長い髪をポニーテールにまでしているしな」
「おふざけはやめてください、さ、朝食にしましょう」
ニヤニヤしながら食堂のテーブルに付くリュリカ、ユウは運ばれてきた朝食をリュリカの座るテーブルに置いていく、その度その度に
「胸元がなかなかにエロいな」
「お嬢様…やめてください」
急にネクタイをグイッと引っ張られたり
「こういうプレイもありか?」
「お、お嬢様危ないですから」
食事を開始してもずっとユウを見つめてくる、ユウは無視を決め込み黙々と食べ続ける、リュリカはナイフとフォークを静かに置くと
「スティックキュウリを口に入れていくお前の唇はエロい、最早犯罪だな」
「はぁ……黙って食べてください」
ユウは終始リュリカに苛められていた、今に始まった事ではないが成長する度に変態度が増すリュリカ、そんな彼女でも外ではまるで別人のように冷たい目になる、猫を被るとはちょっと違うような人間になる。
食事を終え、必要な荷物を持って屋敷を出る、無人の車に乗り込むとゆっくり走り出す、魔術による動力で走る車は今では普通だ、屋敷を出てからすぐにユウも引き締まる、冷たい目、辛辣な態度へと変わるリュリカに合わせている。
「ユウ、最近の魔法魔術による事件はなにかあるか?」
目を合わせずに話しかけるリュリカ、ユウはモニターを自分の目の前に展開する、時代は進みパソコンなどの持ち運びの機械は今はあまりない、魔法魔術による機能により映画や漫画に出てくるスクリーンの映像が現れるようになった。
「いえ、今は特にありません、しかしある1箇所を中心に魔力が集中している場所があります、毎日ではありませんが」
「そうか、それが『エルドラド魔術式』なのか『ホロス魔術式』なのか、またはオリジナルで誰かが作った魔術か、まだ解らないが面白いではないか」
まるで玩具を見つけた子供、いや、迷い込んできた兎を見つけた獅子の目をしながら不敵に微笑む、リュリカ・エルドラド、そのエルドラドと言う名は現魔界最高の魔導師としての証でもある、そんな彼女と………
「あまり、目立たないようにお願いします、お嬢様」
執事としてボディーガードとして存在するユウ・エルドラド、2人は性格も違う、まだ謎がある彼と……
「それは……守れない約束かもしれんな」
共に歩み始める『魔術録(生き様)』である。




