謁見
扉が開いた瞬間、室内にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向いた。
フランクは軽く一礼した後、真正面に座っているきらびやかなドレスに身を包んだ女性――ヴィオレッタへ向かって歩き出す。カルロスもフランクに倣って一礼すると、半歩後ろから続いた。
室内に、小さなざわめきが広がった。
「……素敵……」
誰かが、ぽつりと漏らした。それを皮切りに、あちこちからひそひそ声が上がる。
「ほんと……」
「魔術師の方って、もっとこう……。全然違ってらっしゃるわ」
カルロスは心の中で首を傾げた。
動きやすさを優先した革鎧に、サーベルトから渡された法衣。今朝、この姿を見たロジーナに笑い転げ、師のクレメンスまでも微妙な反応をしていた。その、笑われた姿のどこをどう見たら「素敵」になるだろうか。それに、「違う」というのは、なにが「違う」のだろうか。皆目見当がつかない。
「師範魔術師フランク・ザルリディア。こちらは師範魔術師カルロス・エカード。今回のご参詣の護衛にあたらせていただきます」
フランクが右手を左胸にあて、優雅に跪く。カルロスも慌ててガバっと膝をついた。
豪華絢爛な長椅子に深く腰掛けたヴィオレッタはゆっくりと扇子を閉じ、二人に立ち上がるように扇の先で促す。
「はっ」
フランクは畏まってから立ち上がる。カルロスもそれに倣った。
「……ふふっ。サーベルトはなかなか気が利く……。フランク、そなたは相変わらず抜け目がないのぅ」
ヴィオレッタは艶やかな笑みを浮かべた後、視線をカルロスに移動させる。まるで値踏みするかのように、視線をスルスルと移動させ、使い込まれた革鎧が覗く胸元でピタリと止まる。
「……これはまた……。ほほほほほ。その方、カルロスであったか? 近う 」
扇を招くように優雅に揺らす。
カルロスは戸惑いを隠せず、助けを求めるようにフランクをチラリとみた。
フランクは目でうなずく。
「……は、はい。失礼いたします……」
ギチッ、と革鎧が鳴る。カルロスはぎこちなく一歩進んだ。
「もそっと、近う」
「は、はい」
カルロスはヴィオレッタの足元にひざまずいた。
ヴィオレッタは手を伸ばし、その細い指先で、カルロスの法衣の襟元をスッとなぞる。ふわりと甘やかな香りがカルロスの鼻腔を刺激した。
「この法衣、サーベルトが選んだのであろうのぅ。妾の好みをよく存じておる。この、らしからぬ体躯。そなた、ほんに魔術師か?」
妖艶な瞳でカルロスを覗き込む。
「は、はい……。一応、魔術を……生業として……おります……」
やべぇ、このおばさん、めっちゃ怖ぇ……。
カルロスは冷や汗が流れるのを感じた。
ヴィオレッタは、そんな彼の困惑を見て、さらに楽しそうに目を細めた。
「うむ。気に入った。その方、妾の傍で警護いたせ」
「ははっ」
カルロスは、とりあえず畏まった。




