当日の朝
<追加登場人物>
ロジーナ・・・16歳。中級魔術師。孤児。クレメンスの内弟子。桁違いの魔力の持ち主。魔力が制御できるようになるまで、一部封印している。コミュ障気味。
カルロスは使い込んだ簡易革鎧の上に、サーベルトから渡された法衣を纏った。
本音をいえば、このような派手で仰々しい法衣など、邪魔でしかなかったが、依頼主からの要望なので、仕方なく袖を通した。
今日から数日間、側妃ヴィオレッタのトルキロケ大神殿参拝の護衛をするのだ。
それまでも護衛自体はしたことはあった。しかし、それらは全て商隊の護衛。貴族の、しかも国王の寵妃という貴人の護衛など、カルロスにとっては未知の世界だ。
「よっしゃ」
カルロスは気合いをいれると荷物を持ち、部屋を出た。朝食をすませ、そのまま王宮に向かうつもりだった。
ダイニングでは、妹弟子のロジーナが朝食の準備をしていた。
家事全般は内弟子の仕事だ。
カルロスもついこの間まではロジーナとともに家事をしていたのだが、師範魔術師に正式に認定されてからは、師のクレメンスはカルロスを自分と同格としてあつかうようになり、カルロスは家事当番から離脱していた。
「おはよう」
カルロスは部屋に入りながら、テーブルの上に朝食をセッティングしているロジーナに、声をかけた。
「おはようございます」
ロジーナはカルロスの方を振り向きもせず挨拶をし、黙々と作業を続けていた。
カルロスは荷物を部屋の隅に置くと、椅子をひいた。
セッティングを終えたロジーナが顔をあげ、カルロスのほうを見た。
ロジーナは驚いたように目を見開いた。彼女の眉間に微かにシワが寄る。次の瞬間、サッとカルロスから目を逸らし、無言で逃げるように廊下へ出ていってしまった。
「な、なんだ?」
違和感をおぼえたカルロスは、ロジーナの後を追う。
ロジーナは部屋を出たところでしゃがんでいた。
「おい、ロジーナ、どうした」
ロジーナは下を向いたまま首を振った。微かに肩が揺れている。
「おい、大丈夫か?」
カルロスはロジーナの横にしゃがみこみ、彼女の顔を覗き込む。
「……先輩。ぷぷぷっ」
ロジーナは身体ごとカルロスとは反対側を向く。
「おい、なんだよ」
「……こっち……ぷっ……無理。ぷぷぷ」
口元を抑え、肩を大きく震わせている。
「俺、なんか変か?」
「ぶはっ」
カルロスの問いかけに、ロジーナは盛大に噴き出す。
「……へ、変じゃ……ない、けど……。ぷぷぷ。ぐるしい……」
ロジーナは黒々とした瞳に涙を浮かべながら壁に手をつき、こみ上げてくる笑いと格闘している。
「おま……、失礼だな。笑うことねぇだろ……」
カルロスは少しムッとして、ロジーナの肩を掴む。
「うぷぷぷぷ」
ロジーナは床に転げそうな勢いで、後ろで束ねた長い黒髪を揺らしながら身もだえる。
「朝から騒がしいな」
背後からクレメンスの声がした。
カルロスは慌てて立ち上がる。
その隙をついて、ロジーナは這うようにして廊下の奥へとにげていった。
「なんか、ロジーナが俺を見て笑うんすよ。俺、なんか変ですか?」
カルロスは首をひねりながら、クレメンスに尋ねる。
クレメンスはカルロスをじっと見る。
「……変、ではない」
そう言って、視線をスッとわずかに逸らした。
「師匠。今、妙な間がありませんでしたか?」
違和感を感じたカルロスはすかさず突っ込む。
「気のせいだ」
クレメンスは表情を変えずに、視線をカルロスに戻し、その瞳をみつめた。
「そうですかねぇ?」
カルロスは疑り深い目でクレメンスの瞳を探るように見つめ返す。
「それよりカルロス。時間は大丈夫なのか?」
クレメンスはカルロスの疑惑の眼差しを真正面から受け止めながら、そう言った。
「いっけね」
カルロスはハッとし、慌てて戻り、「いただきます」と朝食をかっこみはじめた。
「私はともかく、サーベルト殿の顔を潰すなよ」
クレメンスはカルロスの横に座りながら、そう釘をさした。




