お茶会
街道沿いのポピー畑が広がる見晴らしのよい丘で馬車は止まった。
どうやらここで休憩をとるらしい。
手際よく荷解きはじめた使用人たちを横目で見ながら、カルロスは馬から降りたフランクのそばに移動した。
きらびやかな天幕が彩り豊かに張られていく。
「なんなんだ? あれ」
カルロスは指さしながらフランクに尋ねた。
「貴婦人たちの休憩は、ちょっとしたお茶会なんですよ」
フランクは苦笑する。
「……理解できねぇ」
「全く同感です」
テーブルや椅子が並べられていくさまを眺めながら、師範魔術師たちは互いに顔を見合わせた。
ヴィオレッタの侍女がカルロスのもとへ歩み寄ってきた。
「カルロス先生。側妃様がお呼びです」
「……」
フランクが「いってらっしゃい」と、爽やかな笑顔で手を振る。カルロスは恨みがましい視線をフランクに投げつけてから、侍女の後に続いた。
可憐に咲き乱れるポピーに囲まれた一角で、ヴィオレッタと色とりどりのドレスを纏った数人の令嬢が、優雅にお茶を楽しんでいた。
「来たか。カルロス、そこへ立て」
ヴィオレッタは扇子で、彼女の座る椅子の右後ろを指し示した。そこには既に騎士が一人立っていた。
「……そこにですか?」
「左様」
騎士はカルロスに冷えた視線を浴びせながら、スッと横に移動した。
「ども」
カルロスは小声で軽く仁義を切ったが、騎士は拒絶するかのように無反応だった。
大人げなねぇな……。
心の中で大きなため息をつきながら、しぶしぶカルロスは騎士の隣に立った。
「魔術師風情が」
憎々しげな囁きが聞こえてくる。カルロスは思わず「フッ」と鼻で笑ってしまい、慌てて咳払いで誤魔化した。
「皆のもの。どうじゃ? この、彫刻のような不動の佇まいは」
ヴィオレッタが楽しげに言葉を投げると、座っていた令嬢たちが一斉に、扇子の隙間から熱を帯びた視線を向けてくる。
「本当ですわ。法衣の刺繍が、かえって逞しさを強調して……」
「逞しいお方が、微動だにせず控えていらっしゃる姿は……なんだか、神殿の守護像を見ているようですわね」
「まあ、守護像にしては、随分と野性味が溢れていらっしゃること」
「あら、あたくしには古の守護騎士のようにみえましてよ」
令嬢たちはティーカップを傾けながら、まるで品評会の牛でも眺めるようにカルロスを語り合う。
隣から、騎士の殺気がひしひしと刺してくる。
ポピーが愛らしく咲き乱れる絶景と、女たちの遠慮のない好奇心、そして、男の嫉妬。不思議な空気が漂っている。
なんなんだよ、この状況。意味わかんねぇ。
カルロスは無の境地に至ろうと、遠くの雲を見つめて耐えていた。




