40-4 なんだかあこがれのものを手に入れた気分ですよ?!
「先生、状況がわかりませんっ」
勝手にさくさく話が進められていくのを遮るように声を上げると、二人がやっと私の方を向いた。
「要するにどんな状況なの?」
「まぁ簡単に言えば、三回魔術符の発動を試してもらったことで、ミュルカちゃんの得意な魔術の属性を確認したんだよ。
その結果、君は重力属性と火属性が相性がいいようだから、それで進めようって話になった、ということだね。
――あぁ、説明は僕がしてあげるから、ディノ君は作業してていいよ」
続きを引き取ろうとしたディノを制して、ザームさんはそう言った。
「複数属性を扱える人は、みんなもっとも得意としている属性があるんだよ。
それを主属性、二番目に得意なものを従属属性って呼ぶんだ。
三つ以上に適正がある人は今のところ未確認だから、それ以上の分類はないね」
「そんな風になってるんだ……」
「そんな風になってるんだよ。
それにしても君は理論の講義を受けもせずにどんどん実践で身につけているから、魔力量や属性相性を別にしてもかなり才能があるんじゃないかな」
「まぁ、もとから見て覚えるのは得意な方だけどね」
あんまり褒められると落ち着かない気分になるんで、ついそうやって少し話をそらす。
「普通は一度や二度、発動させる所を見たからってできる事じゃないんだけどねぇ。
でもまぁ、君が落ち着かないのならこの話題はここまでにしようか」
そう言ってから、ザームさんは的の方を指す。
「さっき使った魔術符は、両方とも符から発生させた魔術を的まで飛ばすタイプのものだね。
他に、自分とも的とも違う任意の場所で発動させてぶつけるタイプと、直接的の上で魔術を発動させるタイプがある。
難易度で言えば、最初から順に難しくなると思ってくれればいい。
――さて、何でだろうね?」
突然の質問に慌てて考える。
「ええと……。自分からの距離……? だけじゃないか。
直接相手にかけると抵抗されるから、とか?」
「うん、おおよそ正解かな。
やっぱり魔術は自分の手元で発動させるのが一番簡単なんだよ。
これは人間は自分の手元にあるものの方がより正確に把握できるからだね。
両方とも自分から離れた所に発動させるのに、的のところで直接発動の方が難しい理由もあってるよ。
魔術を発動させるには、魔力でもって物事に干渉しなければいけない。
たとえば、荷物を持ち上げるには荷物の重さを上回る力がないといけないのと同じようにね。
だから、的――敵に直接魔術をかけようとすると、相手の魔力が防御に働いて発動を阻害するんだ。
そんな訳で魔力的な抵抗の少ない任意の場所で発動させてぶつける方が、狙いを定めて打ち出す難易度を考慮しても簡単なんだよ」
「なるほど。そういう理屈なんだ」
ザームさんの説明にうなずきながら、なんだか物理の授業を思い出してしまった。
なんか、魔術って本当にこの世界では理論で説明できる技術なんだなぁ、と改めて実感した。
「……そういえば、私魔術の講義を受けないといけなかったんだっけか」
ふと思い出して呟くと、ザームさんがおかしそうに笑う。
「今してるのも魔術の講義だと思うけど?」
「……そういえばそうだね。
なんか、もっと座学っぽいのイメージしてたから」
「普通は座学と実技半々か、座学の方が多いくらいだよ。
でもミュルカちゃんは読み書きができないから、どうしても実践優先で、その都度関係する内容の講義をする形になるね。
君だって、延々よくわからない事に関する理論ばっかり説明されても頭に入らないんじゃないかな?」
「あぁ、うん。寝る自信がある」
「そんな自信持たなくていいから」
つい、思いっきり言い切ったらザームさんが苦笑いになった。
「では眠たがりのミュルカちゃんに問題だよ。
火属性と重力属性で攻撃魔術を組み立てるとしたら、どんな形だろうね?」
「ん~……」
いきなりな質問に、何も思いつかなかったんでとりあえずうなってみた。
うぅん……。
「高温高圧の爆弾とか?」
ええと、ごめんなさい。一瞬火と圧力=圧力鍋でお肉柔らか♪とか思いました。
「熱と圧力がかかったらいい感じに攻撃になったり……しないかな?」
「いい線ですよ」
私の適当な答えに、何か作業をしていたはずのディノが返事をした。
「……え?」
「火属性の攻撃魔術に重力属性の攻撃を掛け合わせると、炎によるダメージに加えて、対象をもろくする効果が生まれます。
そもそも、重力属性は物を粉砕したり吹き飛ばしたりというようなことに特化した属性ですからね」
ディノの説明に少し首を傾げる。
……なんか、ちょっと重力に対する認識が違う……?
「どうしましたか?」
「うぅん……。ちょっとうまく説明できないからいいや」
「ちょっとしたことを放っておくと、後でやっかいですよ。
特に魔術に関してはわずかな違和感が発動失敗の原因にもなりますからね」
「いや……。なんかちょっと重力に対するイメージが少し違うのかなって。
でもなんか、説明のしようがないから」
ちょっと違和感を感じるけど、どこがどうと説明できる程じゃない。
「そういうことならひとまず保留しておきましょうか。
――魔術具の話に戻りますが、火属性の攻撃魔術の基本形で火球を打ち出すというものがあるんです。
その火球に高圧をかけて打ち出せば、別々に火球と重力属性の攻撃魔術を使うのと同じ魔力の消費量で、数倍の威力を出せると思うんです。
あとは、それに照準補助の魔術を織り込んでみました」
「あぁ、ディノ君お手製のあれかい?
命中精度が恐ろしく上がる代わりにちょっと燃費が悪い、混戦向きの射線操作魔術」
ディノの説明にザームさんがくすくす笑う。
「射線操作って……」
「言葉のまんま、魔術や遠距離攻撃武器の射線をある程度任意操作できるようにする魔術だよ。
重力属性と風属性の二パターンあって、射線上の障害物をある程度まで避けて、的に命中するように自動補正してくれるんだ。
慣れてくれば任意の射線設定もできるようになるね」
「曲がる魔球きたし?!」
なにそれ、練習したら某消える魔球とか投げられるようになるんじゃなかろうか。
なんて食いついてしまうのは、あの人と一緒に見てた野球アニメの影響でございます。
「あぁ、練習したらできるようになるよ。
スポーツの試合でそんなことしたら一発退場だけどね」
「いやいや、そこは投げられるってことに夢があるんだから」
ザームさんの指摘についそう返すと、二人に笑われてしまった。
「それだけ興味があれば練習も苦になりませんね。
早速試してみますか?」
「……って、もう試作品できたの?!」
ディノが作業に入ってどのくらい……?
まだたいして時間経ってない気がするんだけど……。
「試作の段階ですから、必要な魔術をいくつかの術符に分けて書き込んでおいたんです。
今ここでしたのは、ミュルカの相性にあわせた属性の符を選んで繋げる作業だけですから」
「……それって簡単なこと?」
ディノが規格外らしいのはいい加減飲み込んだんで、ザームさんに聞いてみると、苦笑いで肩をすくめられた。
「まぁ、ディノ君になら簡単かな」
なるほど。一般的には結構難しい作業だってことですね。
「せっかく準備ができたんだし、さっそく試してみたらどうだい?
ここからが時間のかかるところだしね」
「そうなんだ?」
「机上で理論を組み立てるだけなら、効率のいいやり方は決まっているので簡単なんですよ。
ですが、それが実際に使いやすいかどうかは使う人との相性もありますからね。
使ってみてからの微調整が一番時間がかかるんですよ」
ディノの説明に、要するに既製の服をデザインそのままでサイズ直しするセミオーダーみたいな感覚かな、と勝手に納得する。
「では、これを試してもらえますか?」
ディノが紐状のブレスレットを差し出した。
……いや、これ、紐をはさんだ紙を細長く折ったものだ。
「今回はどんな形状が使いやすいかを試す意味もあったので、極簡単なつくりにしました。
実際に作る時はきちんとしたものにしますから」
「いや、そういう意味じゃなくて、こんな簡単なつくりでも魔術具として成立するんだ、って驚いてるところ」
「いやいや、それはディノ君だからだよ。
いくら試作と言っても、術符を折りたたんだだけで数回の試射に耐えるものにするのは大変だから」
ザームさんが苦笑いで突っ込みを入れてきた。
ディノ君、規格外決定、と。
でもここをあんまりつついてもしかたがないんでひとまず受け取ったブレスレットを右手首に付ける。
最終目標、消える魔球目指して頑張るぞー!
……え? 目標変わってるだろって?
いいじゃないですか、ちょっとくらい楽しんだって。
お読みいただきありがとうございます♪




