40-2 方針決定と訓練開始のフラグ。
しかし、どんな形が魔術発動させやすいかって言われてもなぁ……。
ほとんど無意識に使っちゃってたことしかないわけだし。
「……つまり、逆に考えるとこれみたいな漠然とした形の物だと使えない可能性が高いってことだよね」
「そうなりますね。
ミュルカは発動させる時に明確な起点と対象がないと難しいんじゃないかと思います。
魔術を習い始めた頃というのは皆そうですけどね」
少しフォローをするように言って、ディノは少し考えるように間を取った。
「さっき、投げると言っていましたが、そういった風なイメージの方がやりやすそうですか?」
「思いつきだから実際にどうかはわからないけど、遠くの物をいきなり壊したりするよりも、投げた物がぶつかって壊れる、の方がイメージしやすいかな」
頭の中でちょっと、フリスビーとかゴルフボールが直撃してあうちっ、なんてのをイメージしたのは秘密です。
……いや、体育の授業でそんな面白アクシデントが過去にあったもんだから。
「魔術はその効果をきちんとイメージできるかどうかが成功の鍵ですから、何となくそんな感じがする、というのは案外重要なんですよ」
「そうなの?」
「はい。では続けてもう一つ。
ミュルカにとって、投げてぶつけるイメージには、実際に投げる動作は必須だと思いますか?
それとも何か他の……たとえば、弓やスリングのような投擲武器のイメージが近いですか?」
「うぅん……。別に思いっきり投げなくてもいいけど……。
武器は逆に使ったことがないからそれがうまく使えないイメージになりそうかも」
「では道具は使わず、手で投げる感覚を優先してみましょうか。
――そうですね。既存の攻撃用魔術具だとあまり手頃そうな物がないので、簡単にですが作ってみましょうか」
「……作るってそんなあっさり……」
「そう難しくもありませんよ。
ミュルカの使える魔術の属性がわかれば極簡単な試作品であれば一時間もあればできます」
「……魔術具ってそんな簡単な物なの?」
「まぁ、本当に数回試射できる程度の物であれば、ですけどね。
そのくらいならば魔術符の状態でも作れるんです。
つまり、適当な道具に符を張ることで簡易魔術具にする、といったイメージでしょうね」
さらりと言ってくれたけど……。
これが本当にそんな簡単な話なのか、ザームさんにも意見を聞いてみたい所だなぁ。
すごい人ってナチュラルに常識を逸脱してるから……。
「装着部位ですが、左手はマーシェル・ウィードがありますし、右手でかまいませんか?」
「うん。丁度利き手だし……って、そうだ!」
「……はい?」
私が突然叫んだんで、思わずなのか体の引けたディノが首を傾げる。
「これ! この手甲、なんで左手につけたの?
こいつの攻撃力アップ効果、左手にしか適応されてないんだけど!
最初から気付いて使えてたら一階で延々足止めなんて事にならなかったよ!」
確かめようと思って、すっかり忘れていたことを口にすると、ディノは一瞬きょとんとしたけど、すぐに苦笑いになる。
「マーシェル・ウィードはそもそも防具の形をしているので、元々の形状が左手用だったんですよ。
記録によるとこれまでの所有者達は近接戦闘では盾代わりに使っていたようですね。
恐らく、攻撃力の底上げなどなくとも敵と戦うのに困っていなかったのではありませんか?」
「誰も彼もがそんな事できると思うなーっ!」
返事につい叫ぶと、ディノは一層苦笑いだ。
「まぁ、記録にある限りまったく武術の心得がない所有者はあなたが初めてですから、しかたがありませんよ」
「フォローになってない!」
きっぱりと言い切ると、一拍おいて盛大にため息をつく。
……くぅ。なんか馬鹿にされた気はするけど、これじゃあ八つ当たりになっちゃうからデコピンはしくい……。
……って、あれ?
「ねぇ。……もしかして、左手に攻撃力の底上げがあるの、知ってた?」
「…………説明してませんでしたか?」
その返事に私が左手でデコピンかましたのは当然の権利だと思います。
「……っ、ミュルカ……?」
「私の三ヶ月分の苦労を思い知ったか!」
正確にはそのうち問答だけでつぶれた期間もあるんだけど、そこはそれ。
額をおさえて抗議するディノに思いっきり言い放つと少し気分が晴れた。
「あぁ、すっきりした」
「……まぁ、言いたいことはわかるので文句は言いませんが……。
話を続けてもかまいませんか?」
けっこう痛いのか、額をさすりさすり苦笑いのディノが言う。
「……なんか、慣れたリアクションだねぇ?」
「うちは妹が大勢いますし、時には姉も加わって、筋が通っているのかいないのかわかりにくい理由で文句を言われたり叩かれたりしますからね。
理由に納得がいくぶんあまり気にはなりません」
……達観してるなぁ。
「で、今度はその悟ったリアクションが気にくわない、とか言って余計あれこれ言われるんじゃ?」
「……その通りです」
あ、やっぱりそういうもんだよねぇ。
「まぁ、それはともかく……。
魔術具は右手用ということでかまいませんか?」
「どっちの手用とかって重要?」
「どちらか、というよりは利き手かどうかですね。
利き手だといろんな事に使いますから、極力動きを妨げないものがいいでしょう?」
「なるほど。それは確かにそうだね。
まぁ、そこらはディノに任せるよ。私にはわからない所だから」
「わかりました。
では、右手用で直接手で投げるか打ち出すかする形式の魔術具という方向で検討してみます。
明日にはいくつか試作品を仕上げておきますね。
今日はゆっくり休んでおいてください」
「了解。ありがとうね」
「たいしたことじゃありませんから、お気になさらずに」
立ち上がったディノにお礼を言うと、気にした様子もなく笑顔を残して出て行った。
……しっかし、庭付き一戸建てが軽く買えちゃうような武器ですか……。
すごい話になってきたなぁ。
そうして、翌日の昼過ぎ、私はディノとザームさんと三人で神殿内にある訓練施設にやってきた。
ディノによると、神殿に所属する魔術師達が魔術や魔術具の試し打ちをするための場所なんだそうだ。
私の見た感じだと、弓道場に似てる気がする。
横一列に試し打ち用のブースが並んでいて、その先に的が並んでいた。
距離はざっと三十メートルほどだろうか。
それぞれのブースの間がネットで仕切られているのは、何かあった時に被害拡大を防ぐための結界でもあるらしい。
一つのブースはまぁ、大人三人が入ってもちょっと余裕があるくらい。
……あれ? バッティングセンターの方が似てるかな?
まぁ、ここでなら少々の暴発は結界が張ってあるので問題ないんだとか。
ちなみに今日のディノはなにやら結構大きめの鞄を持っている。
ブースの端にある台に置いた鞄にはあれこれつまっているらしい。
「でも何でザームさんまで?」
「ディノ君が久しぶりに攻撃用魔術具を作るって言うからね。
折角だし見学しておこうかと」
「……ふぅん?」
「あとはミュルカちゃんの魔術の実力に興味もあるしね」
楽しそうに言われても……。
「あとはまぁ、何かあった時に治療魔術がすぐ使える方がいいだろう?
ミュルカちゃんは攻撃魔術自体初めてって言ってもいいくらいだし、用心に越したことはないからね」
にっこり笑顔で言われて、そんなものかな、と思う。
なんか結構注目を浴びてる気がするのは……気のせいだと思いたい。
さて、魔術の練習って何をするんだろうなぁ?
お読みいただきありがとうございます♪




