3/8
:3
坂を下った先で、海が、僕を呼んでいる。
潮の香りが、やけに強く感じられる。
さわがしい脈の音が、重く冴えのないおなかの痛みが、そう思わせているようだ。
白い看板が見えてきた。
すこし色が褪せて、それでいて、味がある。
マスターみたいだな、と思い、僕とは、ずいぶん距離があるな、と思う。
夏休み、はじめての週末。
部活が休みのその日、僕は、店に行ってみた。
「純喫茶雪月花」
週末だけの、夏休みだけの、管理人。
ここが、と体が硬くなる。
とはいっても、喫茶店をするつもりはない。
といって、何をやる、ということもないまま、ここに来てしまった。
あたり前に、なかは静かで、でも狭い店内は、いつもより、やたらと広く感じる。
扇風機が濁った空気をかき回す。
その渦が、僕の気持ちをもてあそび、かき乱してくる。
窓を開け、簡単に掃除をして、気持ちを整えていく。
誰か、来てほしい気持ち。
誰も、来なくていいとの思い。
ただ、ここにいることで。
ただ、ここにいることが。
波の音が、僕を、やさしく抱きしめてくれようとするのを、すこし、鬱陶しく思う。
誰も来ないまま、何も起こらないまま、ゆるやかに、時間は、すぎていった。




