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坂を下った先で、海が、僕を呼んでいる。

潮の香りが、やけに強く感じられる。

さわがしい脈の音が、重く冴えのないおなかの痛みが、そう思わせているようだ。


白い看板が見えてきた。

すこし色が褪せて、それでいて、味がある。

マスターみたいだな、と思い、僕とは、ずいぶん距離があるな、と思う。


夏休み、はじめての週末。

部活が休みのその日、僕は、店に行ってみた。


「純喫茶雪月花」


週末だけの、夏休みだけの、管理人。

ここが、と体が硬くなる。


とはいっても、喫茶店をするつもりはない。

といって、何をやる、ということもないまま、ここに来てしまった。


あたり前に、なかは静かで、でも狭い店内は、いつもより、やたらと広く感じる。


扇風機が濁った空気をかき回す。

その渦が、僕の気持ちをもてあそび、かき乱してくる。


窓を開け、簡単に掃除をして、気持ちを整えていく。


誰か、来てほしい気持ち。

誰も、来なくていいとの思い。


ただ、ここにいることで。

ただ、ここにいることが。


波の音が、僕を、やさしく抱きしめてくれようとするのを、すこし、鬱陶しく思う。


誰も来ないまま、何も起こらないまま、ゆるやかに、時間は、すぎていった。





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