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「雪月花って言葉、知らんのか?」


すんなり教えてくれてもいいだろうに。


困り果て、僕がスマホを取り出すと、


「すぐスマホだ、いまの若いのは」


「だって、便利なんだよ」


「知ってる。オレだって持ってる」


自慢するほどではないそのことを、大威張りでマスターは口にする。

聞いててなんだか、恥ずかしくなってしまう。


その恥ずかしさから逃れるように、僕は手のなかのスマホで、雪月花について調べた。


「ないんだね、夏が」


「そういうことだ」


「そういうことって?」


「ニブい奴だな。そんなこっちゃ女にモテんぞ。夏がない。つまり、夏はお休み」


「休んで、どうすんのさ」


「この国の暑い夏からオサラバさ」


「海外? この店は? もったいないね」


「ん、もったいない? そうか、ならお前、夏休みのあいだ、この店、頼むわ」


「ええ、な、ちょ、そんな」


「なんだっていい、有料の勉強スペースにして友だち呼ぶか? 家から好きな本、持ち込んだりしてな。駄菓子かなんか仕入れて、ちっこいのに売るんでもいいな。あるもん壊さなけりゃあ、なんだっていいぞ。どうだ?」


「どうって。でも、部活あるしさ」


「毎日じゃねえだろ。週末だけとか。それも含め、お前の勝手だ。な」


これが、僕が「純喫茶雪月花」の管理人になったいきさつだ。





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