ノルン
ノルンは『遊天』の観測と調整を担当している。
遊天は非常に文化強度が高い。
世界の中で唯一、目まぐるしい程に文明が移り変わっているのがその所以だろう。
その為、特例として遊天への干渉・調整をノルンには許可している。
更に、ノルンについている観測補助者にも干渉権限を与えたため、世界への干渉を行いたい観測補助者には大変人気な場所となっている。
――以下、記憶抜粋――
「ネリス、見て」
ノルンは珍しく興奮したような様子で僕の書斎へ来た。
「どうした?」
「面白い事になった」
そう言ってノルンが手に握った端末を部屋のモニターに接続すると、ある映像が展開された。
「これは……ゲーム?」
そこには二人の人間が映し出されている。
互いに向かい合い、間にある盤面で何かを行っている。
その顔は苦悶の表情に満ちていた。
「もしかして…これ、ノアの映像?」
「うん、そう」
ノルンは映像を様々な角度から見られるように調整し、話を続ける。
「この前遊天に送ったゲームにご褒美付けたら、ようやく遊ぶ人が出てきた」
そう言い切ると端末を操作しモニターのうちの一つを切り替え、説明書のようなものを映し出した。
こんなものは僕は見た憶えがない。
おそらく最近ノルン達の誰かが遊天に介入したのだろう。
「ノルンこれ…本当に大丈夫?」
僕はその説明書を見て、少し不安を覚えた。
あそこは非常に文明強度が高いので、余程の事がない限り世界は壊れないはず。
そういう考えの下、遊天はノルンと補助観測員が好きに介入出来るようにしている。
――しかしこれは……
更に説明書を読み進めていくと、ある部分が目についた。
「……この報酬って」
「あ、気付いた。向こうでも『それ』がなかなか人気」
「大丈夫なの?他の担当は……」
「『多分影響はない』って言ってるから、大丈夫」
「そっか……まあそれならいいんだけど」
食い気味に答えたのを見るに、今回の調整は余程のお気に入りのようだ。
他の担当にも根回しをしているのがその証拠だ。
若干の不安は拭えないが、まあそういう事なら様子を見る事にしよう。
「あまりやり過ぎないようにね」
「うん、分かってる。アルヴェラには怒られないようにする」
ノルンは端末をモニターから外しながら答えた。
――アルヴェラの目があるなら、大丈夫か……
そう思った僕は、ふとノルンに聞いた。
「他の担当には許可取ったって聞いたけど……アルヴェラには?」
僕の言葉でノルンがピタッと止まる。
そして、バレないようにと思ったのかいそいそと片付けを終えて書斎の出口へと足を向けた。
「ノルン?」
「……怒られたら、言う」
そう言ってノルンはサッと書斎を出て行った。
「……ノルンが怒られる時、僕もついでに怒られるんだけど」
僕の呟きに返す者はいない。
たった今脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「まあ、いいか……」
僕は先ほどの映像に不安を覚えつつも、
――ちょっと、面白そうだし
遊天の今後の観測に、若干の期待を感じていた。




