第什話 ラストボス
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ディオスのあとを歩くデウス。
これが多分最後の決戦になるだろう。
デウスはその一戦で勝っても負けてもいいと思っている。
最初から死ぬつもりでここに来た。仲間を復活させて欲しい願いなど元から考えてもいなかった。
『……それに、こんな凡愚な俺に願いなど、あるとすれば死にたいという願いだけだ。この戦いで死ねるなら死ぬ。もし、万が一にでもディオスに勝てたなら俺は願いとして死を選ぶ。』
元より生きる気など毛頭ない。
デウスの決意は決して折れない。簡単に折れているのなら先の質問の返答は二つ目を選んでいる。
「…着いたぞ。」
ディオスの言葉にデウスは周囲を見渡した。
一見すればただの広間のようだが、かなりの大きさだ。
「やっと来たわね。」
その言葉の方向には一人の女性が立っていた。
「待たせて悪いな。少し事情があってさ。」
「その事情は後でじっくり聞かせてもらいますからね。」
「…はい。」
夫婦のような会話がデウスに耳に流れ込んでくる。
「で、あなたの後ろに居るのがデウス?」
「そうだ。」
「随分と大きくなったわね。百七十前半って所かしら。」
女性はデウスを観察してそう言う。
間違いではない。確かにデウスの身長は百七十三センチメートル。正確に合っていた訳では無いが、ほとんど合っている。
「えっと、誰?」
「あら、忘れた?実の母を忘れるなんて酷いわね。」
「え?…実の、母親?」
デウスは実の母親のことは何も知らなかった。父親が魔神王としか知らない。
「息子に自己紹介するのも変ね。私はディオサ・ペンドラゴン。魔神王であるディオス・ペンドラゴンの妻にして最高神を務めているわ。」
「ふーん。…え?」
ディオサ・ペンドラゴン。少し納得した自分が居たが、最高神の時点で頭がこんがらがる。
「最高神?」
「えぇ。最高神よ。」
最高神はディオスの最高のペアだとはガレルから聞いている。
だが、その最高神が魔神王の妻だとは思わなかった。
古書に記載されていた最高神は女というより男という印象が強かった。
だが、今デウスの目の前にいる最高神は紛れもない女性。
「す、少し待ってくれ。整理させてくれ。」
デウスは少し頭を抱えた。
「戦っているうちに整理がつく。」
ディオスの言葉にデウスは軽く頷いた。
「そうだな。」
デウスは兇敵ノワ・ルーナを確り握った。
「それが神器か?」
「…いや、違う。何時から持ってたかはあんまり覚えてない。多分、覊凝で作り上げた産物、だと思う。」
デウスもあまり覚えていない。あの時は暴走状態だったため、意識遮断が発生していた。
「そうなのか。残念だ。俺は神器で戦わせてもらうぞ。」
そう言ってディオスは地面に右足を叩きつけた。
その途端、ディオスの足元に爆速スピードで物体が飛んできた。
ディオスはそれを引き抜き、肩にかけた。
「これが俺の神器『黒く轟く号哭の獰剣』だ。」
黒く輝く骨格とそれを更に目立たせるような剣身。一種の剣とは片付けがたい武器だ。
「よし、やるか。」
デウスがそう言うと、ディオスは手を挙げた。
「すまんが、お前の武器の効果は封じさせてもらった。」
「武器の効果?」
「知らんのか。ならいい。」
デウスは頭の上にハテナを浮かべながら構える。
その時、デウスは少し驚いた。
「その構えは、臥龍冴虎構え。」
ディオスとデウス、同じ構えを取っていた。
どうしてディオスが臥龍冴虎構えを使えるのかは分からないが、とにかく親と子は似るものだ。
「そんなことはいい。どっからでも掛かってこい。」
「……ならっ!」
デウスは地面を蹴り、ディオスに急接近した。
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衝突し合う二人、デウスは兇敵ノワ・ルーナを両手で押しているが、ディオスは片手で軽々防いでいる。
「力はあるが、技術が無いな。」
そう言ってディオスは神器を上に上げ、鍔で剣を弾いた。
「おわっ!」
鉄の弾ける音がなり、追い打ちとばかりにディオスはデウスの腹を蹴り飛ばした。
「かっ!」
デウスは軽く後ろに飛び、地面に激突した。
「ディオス!あんまり虐めちゃ駄目よ!」
「分かってるよ!」
デウスのことを心配してディオサがディオスに忠告する。
「ごほ、ごはっ!…はぁ、はぁ。」
デウスは口から血を吐き出し、立ち上がる。
「一刀流。」
その言葉にデウスは体を動かし、上に大きく飛んだ。
その下で空気を切り裂くような音が轟音とばかりに鳴り響いた。
「臥龍点睛。」
その直後、爆発したような音と共に何かが崩れ落ちた。
「もう。これだから争い事は嫌いなのよ。」
どうやら明かりの一部が切られたことによって爆発したようだ。
爆発するような素材を使用している訳では無いのだが。
「一刀流!」
デウスが上から兇敵ノワ・ルーナを突き立てた。
地面に兇敵ノワ・ルーナを突き刺し、デウスは足を着いた。
「鍼進極鋭!」
ディオスはギリギリでそれを躱し、体を回して兇敵ノワ・ルーナに神器をぶつけた。
デウスはその直後に兇敵ノワ・ルーナを逆手に持ち替え、力を最小限に抑えて防いだ。
硝子が砕けるような音が鳴り、デウスの体に衝撃が走った。
「武器に意識を向け過ぎだっ!」
ディオスはそう言って余っている左の手を拳に変えてデウスに突き出した。
「そんなことは、ない!」
デウスは右足でその攻撃を中断させ、兇敵ノワ・ルーナを地面へと更に差し込んだ。
衝撃でディオスの体が宙に浮く。
「おっ!」
「はああっ!」
デウスはディオスの懐を蹴り、突き飛ばす。
ディオスは勢いよく飛び、地面に激突したと同時に転がった。
「私の出番かな?」
ディオサがそう言ってデウスの方に歩いてくる。
「お前は手を出すな。」
その言葉にディオサは足を止めた。
ディオスが立ち上がり、神器を肩にかける。
「そう。精々殺されないようにねぇ。」
この戦いの条件は【どちらかが一度でも殺されれば終わり】という条件の元戦っている。
デウスも別に不本意という訳ではなかったため、承諾した。
元より、完全に勝てるとは到底思えない。
今現時点でほとんど平等に戦えているが、それはディオスがまだ三割程度を出した状態で、だ。ディオスが本気を出していればデウスなど即座に殺されていることだろう。
「少し本気を出させてもらう。」
そう言ったディオスの姿が一瞬で消えた。
『何処だっ!』
デウスは当たりを見回す。当然ながら見えるはずもなく、ただただ周囲を見ているだけ。
その時、気配を感じ、デウスは体を横にして回避した。
先程までデウスの体があった場所に飛んでくる剣筋。少しでも回避が遅れていれば確実に殺されていた。
「やああ!」
デウスが兇敵ノワ・ルーナを振ると、もうそこには何も無かった。
『な、なんて速さだ。』
速さが凄まじいため、風すらも感じられない。
デウスは気配に気づくことが出来、何とか回避は出来るものの、攻撃するとまではいかない。
その時。
「ーーッ!あ、頭が、」
デウスが突如として頭を抱え始めた。
ディオスは一度足を止めた。
「おい!どうした!」
「な、んだ、これ、は…」
デウスは段々と体を小さく、丸めていく。
「…これは少しまずいわね。ねぇ、ディオス。ちゃんと『不制御狂乱暴君者』の効果は遮断した?」
「あぁ。確りと暴走しないように遮断したが、」
そこでディオスは昔バーサーカー・ウガラ・ベークツゥリオから聞いたことがある。
『この特殊スキルに能力門っていうものが存在する。今はまだ第六の門しか開けられてないけど、五十個もの能力門がこの特殊スキルには存在する。』
ディオスはその言葉を思い出して、嫌な予感を察知した。
「まさか……」
『不制御狂乱暴君者』は対魔神王に作成された特殊スキル。魔神王のことを熟知しているバーサーカーがこのスキルを作成した。
となればディオスの特殊スキルである『覇王』の対策もされているはずだ。
ならば、その一部の効果を無効化するというものがあってもおかしくはない。
今現時点で『不制御狂乱暴君者』の能力門の内一つが開放された。
その名は『失効』。敵の持つスキルの効果を自由に消し去ることが出来る。この効果の発動を辞めれば、自動的にそのスキルの効果は元に戻る。
「gaAAaaaAaaa。」
デウスは頭から手を離し、立ち上がってから唸りを上げる。
「めんどくさい事になったわね。」
「あぁ。意外にもな。」
『不制御狂乱暴君者』はいつ、どんなに条件で能力門が開放されるか全くの不明だ。
もしかするとディオスの八割の力でも『狂乱』状態のデウスを倒すのはまずほとんどの確率で不可能だろう。
「くそ。『覇王』の能力を消しやがって。めんどくさい。」
ディオスの九割の力でやっとデウスと渡り合えるようになるだろう。だが、今のディオスは歯止めを付けているため、どうしても七割から上の力を発揮することが出来ない。
こうなればとことん暴れるしかなくなる。
「GuuUuuAAaaAAaAa!」
デウスは威嚇とも取れる声でディオスに叫んだ。
ディオスは見事に顰め面をデウスに向ける。
めんどくさいとはこのことである。
「こうなりゃやってる!」
ディオスはそう言って地面を蹴り、デウスに急接近した。
デウスとディオスは互いに武器をぶつけ合った。




