第弎話 右眼に宿る力
✣ ✣ ✣
鎧は地面に強く足を叩きつけ、地響きと共に地面を抉る。
「のわっ!」
デウスが持ち上がる。それを見逃さず、鎧はデウスの腹を蹴飛ばした。
「ぐはっ!」
デウスは合金鋼に蹴飛ばされ、鈍い音と嫌に現実感のある飛距離で地面に落ちた。
「ごはっ!がはっ!」
咳とともに血が混ざり、口から飛び出る。
鎧は黄色い目を更に光らせ、デウスに近づく。そして武器をデウスの真上に翳した。
「…………」
鎧は何も言わず、武器を上に挙げた。
「さっさと、降り下ろせよっ!」
デウスはそう言って鎧の足に蹴りを入れた。
しかし、鎧は全く動かない。重く、硬い体はまさに金属そのもの。
鎧は躊躇い無く、片手剣を突き落とした。
だが、その攻撃はデウスにヒットせず、地面を砕いた。
デウスが万一で回避した。
鎧は少し怒ったのか、目の色を少し赤めた。
デウスは寝転んだ状態から足を曲げ、後ろに重心を動かす。そして地面に手を付き、飛び起き、鎧の頭部に覊凝で作り上げた片手剣を叩き付けた。
鎧には切り傷が数ミリ入り、鎧の破片が音を立てて地面に落ちる。
デウスは反撃を警戒し、距離を取った。
到頭ブチ切れた鎧は目の色を真っ赤にし、デウスを睨みつけた。
鎧とは思えないほどに滑らかな動きで首を動かし、デウスを見た。
デウスの背筋には少しの寒気が通った。
その寒気に嫌な気を感じ、冷や汗を掻きながら苦笑いする。
「そう、怒りっぽいのは、良くないぞ。」
何かが違う。先程とは違う気迫がデウスを襲う。心臓さえも止まってしまいそうな圧迫がデウスの恐怖感を一層唆る。
「……!……!……!」
鎧を何度も擦りながらデウスに走り寄った。
デウスは片手剣を鎧に向け、戦闘態勢に入る。
「はあああ!」
「!!!」
鎧とデウスは同時に片手剣を突き出した。突き出した片手剣は両者の片手剣を滑り、腕も滑り進み、首を切る。
デウスの首からは血が、鎧の首からは金属の破片が飛び散る。
そして両者同時に片手剣を逆手に持ち、反対側から首元に刃を向けた。
両者同時にしゃがみ、攻撃を回避。体を起こし、片手剣を重ねる。
金属のぶつかる音がなり、擦れる音とともに火花を散らす。
「中々、やるな!」
「…!…!」
鎧は『お前もな』と言いたげな目でデウスを見る。その目が片目だけ一瞬青い光を放った。
デウスは鎧の腹を蹴る。しかし、鎧も同じことを考え、リンクし、両者の足を蹴り合った。
両手、そして片足が塞がった状態の緊迫した状況。これはかなり白熱した戦いだ。
「これで、どうだ!」
デウスは飛び跳ね、もう一方の足で鎧を蹴る。しかし、鎧は剣から片手を離し、足を掴む。
「なにっ!?」
デウスは体勢を崩し、後ろに倒れる。
それを押さえつけるように鎧がデウスに伸し掛る。
「ぐああああ!」
とんでもない重さの鎧がデウスの腹を抑える。痛さが声となり、響き渡る。
鎧は『これで最後だ!』と言わんばかりに片手剣を上に翳した。
「負け、るか、よ!」
デウスは力を振り絞り、鎧を持ち上げ、投げ飛ばした。
鎧は遠くに飛び、別の鎧とぶつかった。ガシャガシャと音を立て、鎧の崩れる音が響いた。
鎧は崩れた鎧を押さえ付け、立ち上がる。
「ーー!」
鎧は目の前に居たデウスに驚いた。
デウスは鎧を吹き飛ばしたと同時に地面を蹴り、追撃していた。
鎧は何とか躱し、片手剣を振った。
地面に着地したデウスはそれに対応し、黒紫色の片手剣で銀色の片手剣を防ぐ。
また両者共耐える鬩ぎ合いが勃発した。
「脅威が伸し掛り、全身を潰す。いいねぇ。この緊迫した状況!求めていた、このクソッタレな状況を!」
「……ァ……!」
その時、鎧が声を発したような気がした。
「お前も燃えてんのか。ならもっとだ!」
「…ァ……ァ……!!」
デウスと鎧は何度も何度も武器を重ね続けた。
後方に飛ぶこともあった。しかし、その度その度何度も近寄り合い、武器と武器を重ねた。
その間に何度か鎧が、肉体が切れる。
「おらっ!」
デウスが強い一撃を与え、鎧は弾かれる。
「ーー!!」
両腕を遠方に弾かれ、胴をがら空きにする鎧。体勢を崩し、地面に倒れそうになる。
その機を逃すまいとデウスは片手剣を鎧の中部に突き立てた。
「はあああ!」
鎧は負ける訳にはいかないと、武器を持たぬ左腕でデウスの片手剣を防いだ。
「なっ!?」
自らの体を傷つけても敵の攻撃を防ぎ、勝つという気力が伝わってくる。
鎧は右足を後ろに引き、倒れぬように体勢を整え、右手に持つ片手剣をデウスの首元目がけて振った。
片手剣はデウスの首に直撃した。
空中に舞ったのは血。ではなく、金属の破片と剣身だった。
鎧は下を向いたまま、片手剣を右側に留めていた。
デウスは鎧の腕から片手剣を抜き、体を左に回し、そのまま鎧の首を切り落とした。
鎧は膝を着き、地面に大きな音を立てて倒れ込んだ。
宙を舞った兜は地面に落ち、それを抑え込むように砕けた剣身が鎧の片目に突き刺さり、地面まで貫通した。
鎧の目の光が徐々に薄れていく。
その鎧の顔は何一つ変わらなかったが、何処か満足したような顔だった。
デウスは武器を塵に変え、消し去った。
そして鎧の兜を見た。
「確り眠れよ。」
「…………」
微かに光る目の光が赤色から黄色に変わり、デウスの言葉を受け止めた途端、光を一瞬にして失った。どうやらデウスの言葉は鎧に届いたらしい。
デウスはデア達を失って初めて虚無の笑みを浮かべた。
そしてデウスは先に進んだ。
鎧は最期にデウスにこう言った気がした。
『奴等を討ち取ってこい!』と。
✣ ✣ ✣
デウスは武器もなしに先へと進む。
暗いが松明が灯るたった一本の廊下。冷気が奥から流れ込んでくる。出口ではないはず。なのに何故か冷気が流れ込む。
そして歩き続けていると、奥に大きな部屋があるのに気づいた。
しかし、少し異変があった。
地面が青白く光り輝いている。それは白い冷気を漂わせる。
デウスは巨部屋の入口に立ち、青白いものを踏んだ。
『…滑る。氷か?』
とても滑る。ツルツルとした床だ。
強く一歩をふむと、バリバリと音を鳴らしてヒビを入れる。
「よくここまで来たな坊主。」
声に反応し、デウスは正面を見た。
氷で出来た武器を持つ一人の黒髭を生やした老人が立っていた。そしてその後ろには氷の体を持つモンスターが座っていた。
年齢は六十代程だろうか。見た目は少し若々しい。
デウスは一歩を強く踏み入れながらその老人に近づく。
「あんたは?」
「俺はソーマ・カリバリファ。氷を司る狂神者だ。此奴が氷戒龍ボルセリオンだ。」
「…………」
先の鎧のように何も発しないボルセリオン。ただただ深海色の淡い瞳でデウスを見つめる。
「そうか。俺のことは知ってるだろ。」
「あぁ。流石にな。魔神族の中でもかなり有名だぜ。坊主の噂は。」
『噂?』
デウスはソーマとボルセリオンをただただ睨みつける。
「そんな怖い目で睨まんでくれ。俺はただお前と楽しみたいだけなんだよ。」
「俺は楽しんでいる時間なんて疾うにないんだ。」
「…………」
ソーマの言葉にデウスは怒りを飛ばす。相変わらずボルセリオンは何も言わない。
「ふむ。そうだなぁ。ならこうしよう。」
ソーマが人差し指を立てた。
「坊主、お前を今ここで消し去る。」
「やれるもんならやってみなジジイ。」
ソーマは爆速でデウスに斬りかかった。デウスは左手を黒紫色に染色させ、攻撃を防ぐ。
「中々に硬いなぁ。」
「ちっ。冷てぇ武器だな。」
氷の武器ともあってかなりの低温度。今にも腕が凍りそうだ。
「ならこういうのはどうだ?」
ソーマは氷の剣をデウスの腕に押し付けた。氷の剣は折れ、ソーマは折れた剣身を掴み取り、デウスを蹴り飛ばす。
「っ!」
デウスは何とか耐え、地面の氷を砕きながら移動する。
そして顔を上げた途端、ソーマはデウスの目の前にいた。
左手に握る刃をデウスに振り下ろした。
デウスは両腕を交差させ、その間に刃を留めた。
ソーマの両手には氷の短剣があった。
「へぇ、結構やるんだ。もっと弱いのかと思ってたよ。」
「巫山戯んなよ。」
デウスは右眼を開いた。
「……その眼は。」
その直後、ソーマの顔が真剣になり真面目な声でデウスに言った。
「おらああ!」
デウスはソーマを弾き飛ばした。
地面に足を着けたソーマは武器を下に下ろした。
「…その眼、何処で手に入れた。」
「あ?この眼は俺の眼だ。」
その言葉にソーマは硬直した。心做しか多少身震いをしているように見える。
「……それが、元々の、眼?」
「あぁ。そうだ。」
デウスは訳の分からない事を何度も言われて疑問を抱く。
「……いいか、坊主。」
「…なんだよ。」
ソーマの真面目な反応に思わずデウスも真面目になる。
「…その眼はな、『森羅万象を見透す神邪眼』って言ってな、本来は全世界の支配者たるゼウスが手にしていた眼球だ。」
「『森羅万象を見透す神邪眼』。」
ゼウスが持っていた右眼である万物を見透すことの出来る神邪眼。
ちなみに左眼は逆に『一切皆空を看破する悪正眼』と言って、あらゆる情報を遮断する能力を持っている。
「その右眼は遠い昔に封印されたはずだった。」
だが、今その『森羅万象を見透す神邪眼』はデウスの右眼にある。
信じれぬ事だった。
神すらも恐れる大秘宝とも言われる右眼。
力を解放すれば、魔神王さえも簡単に倒せてしまう。
「そんな右眼は潰す!」
先程とは様子がまるで違う。余裕のあった喋り方が変わり、全く余裕がない声へと変わった。
「その前にぶった斬る!」
デウスはソーマに合わせて地面を蹴飛ばした。




