第弍話 戦いの開始戦
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戦いは始まりを告げる。
魔神族は武器を取り出す。
両刃の剣。夜にも限らず、光を放つ。
「魔剣グラムか。」
デウスがそう言うと魔神族はグラムを地面に突き立てた。
「よく分かったね。魔剣や聖剣を知っている人でも魔剣グラムを見極めるのは極めて困難と言われているのに。」
「魔剣グラムは剣身に一筋の赤い線が入っているのが特徴だ。夜でも光を放つ聖なる力を持つ魔剣。」
「そこまで。別にいいけどね。」
魔神族は地面からグラムを引き抜いた。
「僕の名前はオリヴィエ。そこまで強くは無いだろうけど、御相手願おうか。」
オリヴィエはデウスにグラムを向けた。
その刃はデウスの眼球を指す。
デウスは手を開いた。
「魔剣には聖剣や魔聖剣が有効なんだが、武器がない。だから、これで相手をしてやる。」
闇が徐々にデウスの腕を巻く。そして突如物凄い勢いで形を作り、煙のように武器から抜けていく。
「へぇ。雷灰の大刀か。これは凄い。」
剣から灰を粉塵の如く撒き散らし、轟雷を流すことで粉塵感電と粉塵爆発を同時に起こすことが出来る大刀。
その恐ろしさ故に使用する際は命の保証は無いと言われる程だ。
「さて、早速始めようか。人界は少し居心地が悪いけど。」
そう言ってオリヴィエはデウスに歩み寄る。
デウスも向かってくるオリヴィエに歩み寄る。
「一刀流。」
そう言った途端、雷灰の大刀が粉を撒き散らしながら雷鳴を響かせる。
「鏡華上帝。」
魔剣グラムの輝きが更に増した。
両者同時に地面を蹴った。
「因鵝応鳳!」
「天衝雷鳴!」
魔剣グラムと雷灰の大刀がぶつかった。
雷灰の大刀からは灰が舞い散り、剣と剣の衝突による火花に触れ、着火し、爆発が起きた。
大きな音とともにデウスとオリヴィエが吹き飛ぶ。
両者共に地面に着地し、地面を蹴飛ばした。
「はあああ!」
デウスが畳み掛ける。オリヴィエは全ての攻撃を受け切る。
「は!」
オリヴィエがデウスの腹を蹴飛ばした。
「ぐおあ!」
デウスは勢いよく後方に吹き飛ぶ。
雷灰の大刀を地面に突き刺し、勢いを弱める。スピードが治まり、デウスは雷灰の大刀を地面から抜き出し、オリヴィエに突撃した。
オリヴィエはグラムを逆手で持った。
「数多の重がのしかかり、大地を砕き、世界に恐怖を轟かせる!銘火を降らせよ!『炎たる暴力』!」
グラムは炎を帯び、デウスに襲いかかった。
「不確定一刀流!雷鳴の灯火!」
デウスは雷灰の大刀を両手に持ち、上段構えを取る。
そして両者はすれ違った。
空気に残響が響く。そして両者の肩に切り傷がついた。
だが、互いに魔神族。傷は再生した。
デウスの肩に残る火玉は煙を上げて消えた。
「流石は四大魔神を倒した実力者。」
オリヴィエは振り返り、そう告げる。
その顔には楽しみの笑みが浮かび上がる。
「楽しむ余裕があんなら本気出せよ。」
デウスは左手に闇を煙のように現せる。
闇は更に形を変え、雷灰の大刀と同じ大きさの形を作り、煙のように武器から抜けていく。
「焉鈔の咆哮刀まで作り出せるなんて。」
雷灰の大刀の絶対的対抗武器とも言われる焉鈔の咆哮刀。
空間に浮くあらゆる物質を切り裂くことが出来る。物質は役目を無くし、消失する。
これが焉。
敵の戦闘能力や雷灰の大刀から発せられた灰や雷を奪い取る。
これが鈔。
しかし、抵抗武器とは矛盾し、雷灰の大刀と相性が良いとも言われている。
嘗てこの二つの太刀を扱う者がいた。その者はたった一人でモンスターの群れを破った。
ざっと数えてもモンスターの数は約百体ほど。それをたった一人、雷灰の大刀と焉鈔の咆哮刀を両手に握りしめて戦った。とても凄いことだ。
例えるならSランク級のモンスターに初心者冒険者(Lv1~10)が初期の石刀で勝利する程だ。
そう考えると、その者はもう魔神族としか思えない。
雷灰の大刀と焉鈔の咆哮刀の二つが合わさることで、特有の必殺技を使用することが出来る。
その名も『疾風迅雷』。別名『暴風吹く雷咆哮』。
ウリエルもミカエルも恐れるほどの破壊力を誇る技。普通の人間族が使用すると、軽く上半身が消える。下手をすれば体全体が塵になる。
「でも、今の君に『疾風迅雷』は使えないよ。」
その言葉にデウスが薄笑いをする。
「そう思う時がお前の運の尽きだ。」
デウスは二つの太刀を臥龍冴虎構えをする。
すると、雷灰の大刀からは緋黎い電が、焉鈔の咆哮刀からは蒼皓い真風が取り巻く。
オリヴィエはそれを見てグラムを強く握り締めた。
「まさか、使えるのか…」
グラムを握る手も、全身が微量ながらに震えていた。
ただの軟弱者と思っていたオリヴィエに取っては驚愕の真実。
しかし、こんなことで臆しては魔神族の恥。オリヴィエはデウスに攻撃の隙を与えぬよう、グラムをデウスに向け、走り出した。
「これで、終わらせる!」
オリヴィエは真っ直ぐにデウスを目指す。
「相不の二刀が善悪を見極め、命の灯火を今斬り裂く!天も地も巻き壊せ!雷風のように!『疾風迅雷』!」
デウスは地面を強く蹴り、その衝撃でオリヴィエに突撃する。
デウスは雷灰の大刀で魔剣グラムを弾き飛ばし、焉鈔の咆哮刀でオリヴィエを斬った。
その途端、竜巻がオリヴィエを持ち上げ、雷鳴が轟いた。
オリヴィエの傷口に直撃し、燃え始めた。
竜巻が一瞬の内に収まり、オリヴィエは背中から地面に落ちた。鈍い音が鳴る。
「じゃあな。俺は先に進ませてもらう。」
雷灰の大刀と焉鈔の咆哮刀は闇塵となって空に舞い上がった。
もうそろそろで朝を迎える世界。その時、勝負の終了が告げられた。
「魔神王、様には、絶対に適わな、い。」
オリヴィエの言葉にデウスは振り返った。
「適うか適わないかじゃない。勝つか負けるかの鬩ぎ合いだ。」
デウスはその言葉を残し、先に進んだ。
歩き続けても、周りは黒い霧のみ。視界も悪く、よく分からない。
すると、正面から黒い影が此方に近づいてくるのがわかった。
デウスが足を止めると、向こうも止まった。
『人ではないな。』
デウスは更に進む。すると、目の前にひとつの建物が現れた。
大きな建物だ。ギルド本部の何倍もの大きさがある。
入口からは異様な雰囲気が雪崩てくる。
デウスは一滴の汗を流した。一滴の汗は頬を伝わり、顎に到着し、地面に落ちた。
「流石は魔神族の本拠地。今までにない恐怖感だ。」
体が自然に拒否反応を起こしているのが分かる。客観的に見てもそう思われるほどだろう。
デウスは何の迷いもなく、建物に入って行った。
建物の中は松明とシャンデリアのみの明かりだった。
そして建物の端には何故か鎧が置いてあった。しかもフル装備。
高価鉱物を使用していることが見て取れる。通常の鎧とは光具合が比にならない。
『よく出来てんな。』
デウスは鎧に近づき、観察する。
作りに無駄がない。要するに砕けにくいという事だ。
剣や槍といった武器もセットで置かれている。作りも上々。刃こぼれさえもない、作られた頃の輝きを放つ。
『これ全部誰が着るんだ?』
ざっと数えても十六着はある。凄い数だ。
これ程までの鎧を、それにここまでの数を作るにはかなりの時間と労力を消費するだろう。嘸かし鎧、武器作りが大好きなのだろう。
すると、ひとつの鎧が音を立て始めた。
「なんだ。」
デウスはその方向を見る。
未だその鎧だけが音を立てている。
デウスは疑問に思い、少し距離を取りながら観察することにした。
すると、鎧の目の部分が黄色に光り始めた。
「そんなことあるか。」
デウスは右手を開いた。
すると、先程とはまた違う武器が姿を現した。
今度は両刃の片手剣。輝きは薄く、黒紫色に輝く。
そして鎧の黄色い目の光を弾く。
「行くぞ、鎧。」
「…………」
鎧は何も言わず、武器を取った。
デウスに剣を向ける鎧。金属の擦れる音を鳴らしながらデウスの方向を睨みつける。
デウスは鎧に歩いて近づく。
鎧は身動きひとつせずにずっとデウスの方向を睨みつけている。
「覚悟しろよ。」
デウスのその言葉を合図に、鎧は剣を振り、風を切った。
そして鎧もデウスに近づいた。
両者ともに歩み寄る。そして両者睨み合う。
「…………」
鎧は相変わらず一言も喋らない。
デウスは目つきの悪い鎧に悪い目付きで応対する。
「砕けば死ぬはずだ。」
デウスはそう言って武器を鎧の首元に片手剣を翳した。すると、それにつられ、鎧もデウスの首に片手剣を翳した。
そして、両者同時に距離を取った。
「はああああ!」
「…………!」
金属の音を叫びの声にしている鎧。
デウスと衝突し、風が円を描き、周囲に広がった。




