第弌話 魔神族の本拠地
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それから数時間が経った。
街全体は暗い空気に侵されていた。
死者多数。負傷者五万人以上。死者の埋葬が行われた。
そこには当然デア達の名も記載されていた。
貢献した者の名前は石碑に刻まれていた。
そこには死者の名も、生きた者の名も刻まれていた。″デウス″という文字を見た時、デウスは歯を食いしばり、その場に背を向けた。
『何処が貢献出来たってんだ。誰一人も救えやしねぇ。』
デウスのその思いに答える闇もいない。誰一人もいない。
空はすっかり紅に染まっていた。
しかし、何処か暗い感じが漂っていた。雲が時折太陽の光を遮る。
デウスは下を向いたまま手をポケットに入れ、ギルド本部へ向かっていた。
宿を取り、部屋に入った。
〈デウス!早く!〉
〈主、早く寝ろよ。〉
部屋にはデアとフローレの幻覚が一瞬写った。しかし、それは忽ちにして消えた。
デウスは下を向いたままベッドに向かい、座り込んだ。
この戦いで得られたものなんてない。失ったものは数え切れず、考えるにも胸が痛む程。
デウスはいつの間にか一筋の涙を流していた。
それを拭いもせず、ベッドに倒れ込んだ。腕でデコを隠す。
あの楽しかった頃も、もうない。
残ったものは不完全燃焼感と憎しみだけだった。デウスは涙の流す勢いを強めた。
「………」
何も言えない。言いたくない。
コクド達を失った頃のようだった。
今では懐かしい情けない過去だが、今もそうなるだろう。
デウスは涙で潤う目で天井を凝視した。
そして、心に、この闇に決めた。
『死んだっていい。ただ、奴らを駆逐出来ればそれでいい。』
敵を、魔神族を殲滅することが今のデウスの目標。
仲間を失った今、死など思考の外だ。
殺せさえすればそれでいい。
デウスは滲んだ涙を流したまま眠りについた。
夜は遅く、デウスを急かすようだった。
デウスは夜遅くに目を覚ました。
『今は、何時だ?』
デウスは思わず闇に問いかけた。
しかし、当然ながら返答はなく、静かな空間がそこには広がっていた。
デウスは起き上がり、時計を探した。
デウスは時計を見つけ、時間を見た。現在の時刻は深夜の午前二時。
なんとも不気味な時間に起きてしまった。
部屋を見渡す。暗くてよく見えない。
『……』
デウスは壁にそり、ドアに向かった。
ドアに触れ、ドアノブを回した。ガチャっとドアの開く音がなり、ドアをゆっくりと手前に引く。
ドアの外も暗く、あまり見えなかったが、左側からは光と賑やかな声が聞こえた。
デウスはその光に向かい、歩く。
階段を下ったところはギルド本部だった。
そりゃあそうだ。デウスの泊まっている場所はギルド本部の宿だ。
賑やかなギルド本部の中、デウスは一人で椅子に座った。
『賑やかだな。』
デウスは周囲を見渡す。酒を飲んだり、飯を食べたり、腕相撲をしている者達もいる。
デウスは机に肘をついた。
そして手の上に顔を乗せた。
『なんで起きたんだ、俺。』
何故この時間に起きたかはよく分からない。ギルド本部が賑やかだから。では無いとデウスは思う。
別に気にする程ではない。それに部屋の中に居れば外の音はあまり入ってこない。
デウスは考える内に思考が止まり始めた。
『…考える事止めよう。』
デウスは考える事を止めた。
そしてデウスは立ち上がり、ギルド本部を出た。
外は静かだった。静まり返り、夜が深く、星が大地を照らしていた。
『少し、寒いな。』
風が吹いている訳では無い。別に冬って訳でもない。
それなのに寒気を感じる。
これもデア達がいない影響なのか。
デウスは少ない睡魔のせいであくびが出た。
そして門の方へ向かった。
街はまだ戦いの後が滲んでいた。歩いていくと、工事をしている場所が目に映る。
少し腐ったような異臭がする。人間の死体と血が混ざった臭いだ。
デウスは歩く。歩く。歩き続けた。
憎しみを踏みつけるように。その足で歩き続けた。
何時しか門の前まで歩いていた。
「漸くだ。」
デウスの顔は憎しみ混じりの笑みだった。
「この手で、確実に。」
デウスは右手を握り締めた。
門も壊れている。だが、人が通るには辛い。
デウスは瓦礫を駆け登り、頂点に達したところで足を止めた。
外は赤い目や青い目を光らせたモンスターだらけ。
デウスは手をポケットに入れて歩き出した。
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モンスターはデウスを見るも、襲わず、前を通り過ぎたり、ついて行くだけだった。
デウスの邪鬼がモンスター達の恐怖を湧き立てる。
「ブルァァァァ。」
モンスターが一体デウスに言葉をかけた。
二足歩行のモンスター。見た目は恐竜に似ているが、体全体がほとんど鋼鉄や鋼といった鉱化物で出来ている。
尾が少し特殊で、先が物凄く尖っている。まるで槍のようだ。
ジルデボリオスだ。ジルデボリオスはデウスにこう言った。
「仲間のことは残念だったな。」
デウスは足を止めずに返答する。
「あぁ。」
それ以外返す言葉が出てこなかった。
ジルデボリオスは尻尾を極端に振り回した。
「グラァァァ。(魔神族を倒しに行くんだろ?)」
「あぁ。」
「ガァァァ。(手伝うぞ?)」
「いや、いい。」
「グゥゥゥ。(そうか。)」
ジルデボリオスは足を止めた。
「ガウゥゥゥゥ!(死ぬなよ!)」
離れていくデウスにジルデボリオスは御念を言った。
デウスは左手を出し、ジルデボリオスに手の甲を見せたまま歩く。
『死ぬなよ、か。』
デウスは笑みを浮かべていた。
命がいくらあっても足りない戦い。死なぬ事など必ずないと言うのに。
ジルデボリオスの言葉はデウスの心に響いた。
『モンスターに託されるとはな。』
デウスは歩き続けた。
次の街を目指すことも無く。
何時しか草原を過ぎ、林の中に入っていた。
空も街を出た時よりほんの少しだけ明るい。
デウスは背中から闇を展開した。
闇は翼の形に変わり、デウスを空に浮かせた。
そしてまた意味もなくデウスは地面に降り立った。
デウスの背中の翼は消え去り、足を黒紫色に変えた。
「時間が勿体ないな。」
そう言ってデウスは地面を強く蹴った。
物の崩れる、いや、壊れる音が鳴り響き、デウスの姿は消える。
今まで見たことも無い速度で進むデウス。
何時しかデウスは街を数個超えていた。
魔神族の本拠地までの道のりが極限までに近づいていく。
八千キロもの道のりをデウスは分速二万メートル、秒速三百三十三メートルものスピードで進む。
休むことなく、長い時間走り続ける。
何度かモンスターがデウスのことを見て驚いていた。
気づけばデウスは三十分走り続けていた。
今は六百キロ。流石に息が切れていた。
しかし、そんなものは気にしない。
気にする余裕すらも勿体ない。今デウスは敵を殲滅するため、死ぬために走っているのだ。どれだけ疲れ果てようが本気でやる。それが今のデウスの意気込みだった。
人間の最速移動乗り物の飛行モンスターでも分速六百メートル程。
最速モンスターのウェーローキタースは例外だ。分速二万二千メートルくらい余裕で出る。
その代わり、人間は耐えきれない。
四十分、五十分と時間を重ねていく事に近づいていく。
一時間走り続けたところで、デウスの体は限界だった。
あれからスピードが落ちつつ走っていたため、現在は出発してから千キロだ。
デウスは地面に倒れ込んだ。
「はあ、はあ、はあ、っ、はあ、」
息がとても辛い。体全体が焼けるように暑くなっていた。
汗の量も尋常ではない。
デウスに一体モンスターが近づいてきた。
機械のような体、体全体が武器のような見た目のモンスター。ウェーローキタースだ。
「ジャァァァァァ。(ここで何をしてる。)」
デウスは辿々しい言葉でウェーローキタースに伝えた。
「俺は、魔神族の、本拠地に向かってる。今の俺の体は、この状態だ。場所がわかるなら、連れてってくれ。」
その言葉にウェーローキタースは呆れたような態度を取った。
「ジャァァァ。(反乱する気か?)」
「反乱じゃ、ない。仇討ちだ。」
「ジャァァァァァァ。(ほう?仇討ちとな。)」
「あぁ、そうだ。」
ウェーローキタースはデウスを持ち上げ、背中に乗せた。
「ジャァァァァ。(確り掴まっとけ。)」
その言葉にデウスは背中から闇を展開し、体を固定する。
「完了、だ。何時でも、いいぞ。」
「ジャァァァァァ。(時間はかかるが許せ。)」
そう言ってウェーローキタースは飛び始めた。
デウスよりも早く、物凄いスピードを叩き出す。
デウスは必死に耐える。
そして飛び始めてから十分が経過した。
『あと、何キロだ?』
デウスが問いかけると、ウェーローキタースは回答する。
『あと二千五百キロだ。』
かなり早い。あと五分もあれば魔神族の本拠地に到着する。
そして五分。予測が見事に的中し、魔神族の本拠地に到着した。
デウスは十五分でかなり回復した体を起こし、ウェーローキタースの背中から降りた。
「ありがとう。」
デウスの感謝の言葉を聞いた後、ウェーローキタースは頷き、その場を去った。
「ようやく来た。」
世界の空間が歪むようだった。空気も辛く、どんよりとした雰囲気が漂っている。
「やぁ、君が魔神王様が言っていたデウス君だね?」
前方から黒い影としてこちらに向かってきた者がいた。
「誰だ。」
デウスが問いかけると、その者は少し焦ったような態度を取っていた。
「そんなに急かさないで欲しいな。僕はせっかちなものは嫌いなんだ。」
そう言って姿を現した。身長はデウスより少し小さいぐらいだが、年齢で言えば明らかにデウスの方が下である。
当たり前だ。今デウスの前にいるのは魔神族なのだから。
「俺を殺す気か?」
「当たり前じゃないか。そういう命だからね。」
そう言って魔神族は武器を取り出した。




