第五十九話 祖龍アルカナム
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あれから三時間ほど経過し、サクラにある異変が起きた。
攻撃する時、微量ながらも闇が煙のように滲む。
あと一日あれば闇を習得できるはずだ。
「これで、二十八体目、ですね。」
「よし。少し休憩するか。」
「は、はい。」
疲れ切ったサクラは脱力し、地面に崩れ落ちた。
デウスはその体を支える。
「どんな、感じですか?」
「いい感じだ。闇の習得にはあと少し時間はかかるが、かなり早いぞ。」
「そうですか。少し、寝ます。」
サクラはそう言って就寝した。
デウスはサクラを持ち上げ、岩に寄せ、横にした。
デウスはその隣に座り込んだ。
『この奴隷覚えが早いな。』
『奴隷じゃねぇ。サクラだ。』
『はいはい。』
闇にデウスが注意する。闇は少し呆れたように答える。
デウスはサクラを見た。
静かに呼吸し、安眠している。
『君主は少しも戦わぬのか?』
『俺はな。サクラが危なくなったら助けに入る。』
今のところサクラがデウスに助けを乞うていない。悪いと思っているのだろうか。
『我はこの娘を気に入ったぞ。直ぐに使いこなしよる。』
『それは何よりだ。』
『何処かお主に似ておるな。』
『そうか?』
デウスは上を見た。
『先に戦う相手を探しとくか。』
デウスは上空を見渡し、敵を探す。
エクスカリバーの言葉にはそこまで何も思わなかった。
「ぅ…ぅぅ…」
隣から唸り声が聞こえ、デウスはサクラをみた。
「酷い汗だ。」
サクラは身体中汗をかき、苦しそうに唸っていた。
デウスは運良く持っていたハンカチをサクラのデコに当てた。
すると、サクラの様態がましになり、呼吸が一定になった。
『悪夢を見てたのか。』
デウスはサクラのデコから手を離さず、ずっと置いていた。
離せばまた悪夢を見るかもしれない。
『相棒、なにか近づいてくる。』
闇の言葉にデウスは警戒する。
すると、飛硬種がこちらに飛んできた。
『なんだ、飛硬種か。』
飛硬種はデウスの前に止まり、足から紙を落とした。
そしてその飛硬種は飛んで行った。
デウスは片手で紙を拾い、折りたたんでいたものを開き、中を見た。
そこには綺麗な字でこう書いてあった。
【拝啓デウス ウリエルよ。久しぶりね。確り仲間には会えた?私はミカエルと会えたわ。元気なら、また遊びに来て。大いに歓迎するわ。 ウリエル】
紙にはそう書いてあった。
『ウリエルの奴ミカエルと合流したか。』
デウスは薄笑いし、その紙をポーチに入れた。
「…ん。」
サクラが目を覚ました。
「おはよう。」
「あ、はい。おはようございます。」
デウスはそっとサクラのデコから手を外した。
サクラは体を起こした。
「何分寝てましたか?」
「七分くらいだ。」
「そうですか。」
サクラはそう言って体を伸ばす。
「元気出たか?」
サクラは体を緩めた。
「はい。」
サクラはそう言い、立ち上がる。
それに続き、デウスが立ち上がる。
「やりましょう。」
「やる気だな。」
「はい!」
サクラは元気よく返事を返した。
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サクラはエクスカリバーで敵をバッタバッタと薙ぎ倒していた。
『かなり成長したな。』
最初の方は体が鈍っていたせいか敵を倒すのに時間がかかっていた。
でも今では最速一分で倒せるようになっていた。
サクラはエクスカリバーを両手で持った。
『あの構えは。』
サクラは大きく足を踏み込み、敵にエクスカリバーを勢いよく振り下ろした。
「『絶対的勝利』!」
敵の体には大きな切り傷がつき、倒れ込んだ。
サクラはエクスカリバーに付いた血をなぎ払った。
「よく使えたな。」
デウスはサクラに近づく。
「はい。何故か頭に言葉が出てきて、それを叫んだら斬撃が出ました。」
エクスカリバーがサクラに教えたのだろう。
「よし。いい調子だ。」
「ありがとうございます。では、次の敵を探しましょう。」
そう言ってサクラは歩き始めた。
「張り切ってんな。」
デウスはサクラについて行こうとした。
その時だった。デウスとサクラを大きな影が覆った。
「なんだ。」
デウスは上を見た。
そこには炎を胸から灯し、体中鉱石が剥き出しになっている四足歩行の竜がいた。
その竜は地面に足を付けた。
サクラは武器を構えた。
デウスは竜を見た途端、言葉を失った。
「どうして、こいつがここに。」
デウスは武器すらも取れなかった。
「はああああ!」
サクラは走り込み、その竜に攻撃を仕掛けに行った。
竜はサクラを睨み付け、尾を振った。
「やめろ!」
デウスは地面を蹴り、爆速スピードでサクラの元へ向かった。
サクラを抱き抱えようとしたが、それでは巻き添えを食らってしまう。
そう思い、デウスはサクラを投げた。
竜の尾はデウスをはじき飛ばした。
サクラは地面を滑り、うつ伏せで止まった。
デウスは飛ばされ、岩石にぶつかり、止まった。
「く、そ。なんて、力だ。」
デウスは痛む体をどうにか起こした。
「どうしてお前がここに居るっ。全龍の祖龍!」
デウスはそう言って竜を見た。
「君が呼んだのだろう?」
渋い声で竜はデウスに言葉を返す。
「俺が、呼んだ?」
「そうだ。君はこう願った。強い敵はおらないのかと。」
「まさか、それに応答したのがお前とはな。」
デウスは立ち上がった。
「君はなんと言ったか。そうだ、デウス・ペンドラゴンと言ったな。」
竜は尾を地面に叩きつけた。
「何年ぶりだ?」
竜はデウスに問いかける。
「そんなの覚えちゃいねぇよ。」
デウスは竜を睨みつける。
「あの時は君達が悪かっただろう。急に襲いかかってくるんだ。反撃せざるを得ないだろう。」
竜はデウスに近づく。
デウスはマルミアドワーズに手を伸ばす。
「戦う気ならやめた方が懸命だと思うぞ。」
竜は尾の先をサクラに向けた。
「やめろ!」
「なら手を武器から離すことだ。」
デウスはゆっくり手を武器から離した。
「それでいい。君と戦う気は無いし、君の敵ではない。」
デウスとこの竜は過去に出会ったことがある。あの時も言葉を発していた。
要するに、デウスは意思疎通で話しているわけではない。
「何が要件だ。」
「君、その子の成長を願っているんだろう?」
「そうだが、それがどうした。」
「この子と契約しても良いかな?」
その言葉にデウスは警戒した。
「契約して、どうする。」
「君達と旅をする。」
「何が目的だ。」
「何度も言わせないでくれ。君達と旅をするためだ。」
怪しい。とても信頼出来ようもない。
「どうして俺達と旅をしたい。」
「あの時の謝罪とこの子の成長のため。あと、魔神王には世話になったからね。」
魔神王に要件ありと言うことは、少なくともデウスの敵ではない。
「…分かった。ならお前の名前を教えてくれ。」
「名はアルカナム・ノヴァ。全ての龍、竜の祖龍さ。」
アルカナムは尾をサクラの上から退かした。
「この子が起きるまで待とう。」
そう言ってアルカナムは座り込んだ。そのまま眠ってしまった。
『気まぐれだな。』
闇が呑気にそう言う。
『魔神王に要ありなら敵じゃない。』
『疑うことも大事であるぞ君主。』
『あぁ。分かってる。完全に認めたわけじゃない。』
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あれから二分ほど経過した。
漸くサクラが起き上がった。
「ど、どうなったんですか?」
サクラは立ち上がった直後に武器を取った。
「待て。」
その言葉にサクラはエクスカリバーを鞘に収めた。
「どうしてですか?」
「こいつは敵じゃない。」
デウスがサクラに近づいた時、アルカナムは目を覚まし、デウスとサクラを見た。
「起きたか。」
剥き出しになった巨眼はサクラを見る。
「早速始めようか。」
アルカナムがそう言い、起き上がる。
「何をするんですか?」
冷静にサクラがアルカナムに聞く。
「今から君と契約するんだ。」
「契約?契約ってなんですか?」
妖精族の国ではジョブ概念が一切存在しないので契約者というものをサクラは全く知らない。
「契約ってのはモンスターと人間が一心同体と化すことだ。」
「一心、同体ですか。」
少し不安なのだろうか。少し言葉を詰まらせた。
「こんな私でいいんですか?本当に。」
「別に構わない。」
「妖精族なのに剣を使うんですよ?」
「なんら問題ではない。元々妖精族は剣を使って戦うのが主な戦い方だった。その中で急にオルテクトという妖精族が弓を使い、それが人気となって弓を使い始めた。剣を使うのが本来なんだ。君には素質がある。過去の妖精族の方が圧倒的に強い。君は強くなれる。」
アルカナムの言葉にサクラは一筋の涙流した。
それを必死に拭う。
「ありがとう、ございます。」
サクラは流れる涙を拭いに拭う。しかし、涙は流れ続ける。
「涙は拭わなくていい。素の君でいいんだ。」
サクラは涙を拭うのをやめた。
涙は地面に落ちた。
「デウス様に認めてもらい、次には貴方様にまで認めてもらうなんて。私、生きててよかったのかと思っていましたけど、今やっとわかりました。私、生きててよかったです。」
サクラの涙ありの笑顔にデウスとアルカナムは頷いた。
「早速始めようか。」
「はい。」
サクラはアルカナムの足の上に手を置いた。
突如光がデウス達を包み込んだ。
その光はゆっくりと消えてゆく。光が解けた。
「これで契約成功だ。」
その声の先には人が立っていた。
「急に人間になったらサクラが分からねぇだろ。」
「そうだな。」
疑問を浮かべるサクラの目の前で人間は姿を変えた。
そう、竜の姿に。
「貴方様は竜なのですか?人間ですか?」
サクラの疑問にアルカナムは快く答える。
「両方かな。」
そう言ってアルカナムはまた人の姿になる。
「貴方様の名前はなんですか?」
「アルカナム。アルカナム・ノヴァ。君は?」
「私はサクラです。これからよろしくお願いしますアルカナム様。」
「こちらこそよろしくマスター。」
アルカナム・ノヴァが仲間になった。




