第五十六話 十八人目の仲間
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デウス達はアラビア国を出発し、メルバリング國を目指した。世界にある国の中でも大規模なものは国ではなく國という表記になる。
距離にて五十キロメートルだったが、デウス達のスピードであれば十三分そこらで着く。
メルバリング國は世界の中で五番目に大規模な街。情報量も多いし、強者がかなり集まっている。下位の魔神族に負けるようなことはない。
デウス達は四時の方向に十三分ほどかけてメルバリング國に着いた。
外から見てもかなり大きな街だ。
「久々に来るわ。」
イリビードがそう口にする。
「五十年とかそこら辺だろ?最近って。」
「よく分かったわね。」
龍のことを熟知してきたデウスがそう言う。
イリビードはそれに返答する。
「君達、旅人のものか?」
腰に片手剣を携えた身長の高い男性が歩み寄ってきた。
「あぁ。そうだが、どうして分かった?」
「新聞で君達のことはよく見かけるよ。」
デウス達は新聞に載っているみたいで、知られてはいるらしい。
「で、何日の滞在かね?」
男の問いかけにデウスは少し考え、応答した。
「三日間だ。」
「それだけでよろしいのか?」
「あぁ。それぐらいが丁度いい。」
デウスの答えに男は受け答えし、もう一人門の前に立つ男に命令し、門を開かせた。
「では、ごゆっくり。」
堂々とした男の振る舞いにデウスは笑顔で答え、街に入った。
街に入ると、後ろの門は音を立てて閉まった。
「さて、どうしたもんか。」
街に入ったのは良いものの、何をするかは全く考えていなかった。
「デウス、あれ見てみろよ。」
ビングルの指さす先には女性が男達に囲まれていた。
「あれはまた大胆だな。」
公表の場でよくするものだとデウスは見ていた。
「助けなくていいのか?」
ヘルトの問いにデウスは首を横に振った。
「あれは大丈夫だ。」
「どうして分かる?」
分かったように言うデウスにヘルトが問いかけると、デウスは即座に返答を返した。
「あの女は四大天使だ。」
ヘルトもビングルも驚いた。
「なんで四大天使が?」
「そんなのは俺が知ってると思うか?」
四大天使は今各地に散らばっているため、何処に居るかは全くの不明。
先ず襲われている女性が四大天使かも分からない。
しかし、デウスには分かっていた。
「いや、でも、あの女寝てねぇか?」
四大天使には一人一人別名がある。
ウリエルの別名は攻撃回復。出てきては居ないが、ラファエルは睡眠賢者。ミカエルは極絶。ガブリエルが世界情報。
あれはラファエルの可能性が高い。
「あ、連れていかれた。」
ゾルディブが不意にそう言う。デウスが見ると、女性は大勢の男性に連れていかれていた。
「俺ちょっくら行ってくるわ。」
ビングルが肩に銃を掛けていざこざの元へ歩いていった。
「気をつけろよ。」
デウスがそう言うと、ビングルは狙撃銃を上にあげた。
了解という意味だろう。
そのいざこざはビングルの手によって本の一分足らずで治められた。
ビングルは女性を起こし、名前などを聞くと、女性はラファエルであった。
デウスの絶対的予想は見事に的中した。
結局的ラファエルはまた寝始めた。
「こりゃあ駄目だ。」
ビングルは諦め、ラファエルを壁に持たれ掛けさせて戻ってきた。
「あれ?女性は?」
デウスが問いかけると、ビングルは首を振った。
「あれは無理だ。睡魔に取り憑かれてる。」
「そ、そうか。」
デウス達は移動し始めた。
その後ラファエルがどうなったかは誰も知らない話。
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「デアは修行で何してたんだ?」
不意と思い出したようにデウスはデアに疑問を投げかける。
「えっとね。AからSランクのモンスターを傷だらけの体で戦ってた。」
「だから覊鏖を習得していたのか。」
納得したデウスはあることに気づいて足を止めた。
「どうした?」
フローレの問いかけにデウスはフローレを見た。
「フローレ、お前今金銭はどうなってる?」
「急に金の要求か?」
「仲間の為だ。」
デウスのその言葉にフローレは渋々金銭を全て出した。
すると、袋の中に見たことの無いプラチナの輝きを放つ金銭があった。
「これは?」
「これは純金貨だ。」
「どうして純金貨を?」
かなりレアな純金貨を持っていることに驚きを顕にするデウス。それが袋いっぱいに入っていた。
「飛ばされた先でバイト的なことをしていたらいつの間にか純金貨が五千枚くらい溜まっていてな。」
「いや待て。お前どんなバイトしてきたんだ?」
「SGランクのモンスターをな。」
SGランクモンスターとは、Sランクの枠を超えたSランクモンスターのことである。
聖騎士の副隊長でやっと勝てる程の敵だ。
デウス達からすれば強くない。ただ、呪約がなければの話だが。
「それで純金貨何枚だ?」
「一体につき純金貨五枚だ。」
「…へ?」
今フローレが所持している純金貨は約五千枚。一体につき純金貨五枚となると単純計算で千体は倒していることになる。
良くもそこまでSGランクモンスターが居たものだ。
「お前すげぇわ。」
デウスが尊敬の念も無しにそう言う。
「それより、これ何に使うの?」
イリビードの問いにデウスは微笑んだ。
「取り敢えずついてこい。」
デウスの進む後を追いかけるデア達。
すると、あるひとつの古びたドアの前に立った。
今時には珍しい真っ黒のドアだった。
何処か空気がどんよりしていて、近づきたくなくなる。
「何、ここ。」
「行くか。」
インビディアの嫌そうな声をガン無視してデウスはドアを開いた。
ドアの奥には広い廊下があった。
「良くぞここにこられましたね。」
黒いサングラスを付けた黒服の男がまるでデウス達の入場を知っていたような口ぶりでそう言う。
「それ程物好きな方達なのでしょうね。」
「小話はいい。」
「お冷たいのですね。」
男は一歩後ろに下がった。
「ここから真っ直ぐのドアをお目指し下さい。それ以外のドアを開けることはおやめ下さい。でないと大変なことになってしまいますので。」
「了解だ。」
「欲しいものがあれば手をお上げになって金額をお叫びください。あなた方達以外の者がお手を上げられましたらお手をお下げください。」
説明も丁寧だ。ただ、どんよりとした空気は相変わらずであった。
「それでは。」
男の礼と共にデウスは歩き始めた。デア達は何も分からずにデウスについて行く。
男の言葉通り何個かドアがあったが、大変なことが何か分からず、空気感に押されて開きたくもなかった。
長い廊下を進んでやっと奥に着いた。
奥からは金額を叫ぶ声が聞こえる。
「ねぇ、デウス。これは、なんなの?」
デアの問いかけにデウスは答えることも無く、ドアを開いた。
眩しい光にデア達は腕を目上に当て、光を遮る。
デウスは真っ直ぐ前を見ていた。
そこでデア達が見たものは、多くの人が手を挙げて金額を述べている中、一番奥に鎖を付けられた人間がいた。
「これは、」
デアが息を呑むと、デウスがそのあとの言葉を言った。
「競りだ。」
国によっては禁じられている競りだが、メルバリング國では法で許可されている。程々な程度にということだが。
大体競りに出されるのは女性の人間だが、極稀にモンスターや別種族の女性が競りに出される。
「どうしてこんな所に。」
イリビードの問いにデウスは軽くため息をついて答えた。
「競りに出される者は大抵が自ら売り出されたいという願望を持った奴らだ。てことは俺みたいな過去を持ってるやつも居るはずだ。」
その言葉の意味を理解できなかった女性陣だったが、男性陣は理解出来た。
「覊鏖の力の解放が手っ取り早いってことか。」
「ご名答。」
ビングルの答えにデウスは当たり前のように言う。
一番後ろの席が空いていたため、座った。
全員座れる椅子の数が空いていた。
だが、デウスは手を挙げない。
「何故挙げない?」
アブァリティアが疑問に思い、デウスに聞くと、デウスは前を向いたまま答えた。
「多分これは競りをし始めてかなりの時間がかかってる。ということは今競りに出てる奴の買取手は直ぐに決まるだろう。」
その矢先に買取手が決まった。
払った金額は純金貨五十枚。かなりの額だ。
「では、次の競りに移りたいと思います!」
司会者がマイクを通して大きな声でそう言うと、鎖に繋がれた女性が出てきた。
「あれは、妖精族か。」
競りに出ることは稀ではある妖精族。
すると、前の男性達の小さな声が聞こえた。
「おい妖精族だぞ。」
「最近は少ないって噂だ。」
数々の種族の中で人間族の次に多いと言われているのが妖精族。
「今更って感じもあるけどな。」
「お前、妖精族を手に入れたらどうするよ。」
「普通の奴隷として働かせるかな。」
「何を持ったいねぇ。」
「どういうことだ?」
「妖精は妖艶の妖怪と言われてる。今回の奴はまだ少し幼いが、成長すればムチムチのボディになる。男にとっては絶好の獲物だ。」
「と言うと?」
「妖精族を買ったやつは大抵こう言っている。性奴隷にした方がいいってな。」
「性奴隷?」
「あぁ。専属の男の性に尽くしてくれる奴隷だ。」
「それは知ってるけどよ。なんか勿体なくねぇか?金稼ぎにもなんねぇし。」
「お前には価値観ってのがねぇのか?」
前の男達の会話を聞いていると、司会者が声を上げた。
「では、競りを始めたいと思います!最初のお方は!?」
その言葉の直後、男が手を挙げた。
「純金貨七十枚だ!」
その言葉にドン引きをする会場全体。
司会者は驚くことも無く周りを見回す。
「他に居ませんか!」
「フローレ、お前の純金貨貰うぞ。」
「要らない金だ。幾らでもやるよ。」
デウスが手を挙げた。
「そこの人!金額は!」
出来るだけ誰ももう手を挙げれない金額を考えたところ、デウスの決断は会場全体を震わせた。
「純金貨、二百枚だ。」
誰一人として何も言わず、デウスの方向を唖然とした表情で見ていた。
司会者も今まで純金貨二百枚を払うものは居らず、動揺している。
「ほ、他に居ませんか!」
誰一人として手を上げることも無い。
会場全体が静寂に包まれた。
「では、決まりです!そこの方、前へ!」
デウスは立ち上がる。
「お前らは外で待っててくれ。」
デウスの言葉にデア達はそっと移動し、会場を出た。
デウスは前に行き、妖精族の前に行く。体が少し小柄で細く、下を向いていた。
デウスよりも身長が小さい。デウスの身長は百七十二だが、その妖精族は百五十八ぐらいだろう。
意外と大きい体格差。
デウスは妖精族の頭の上に手を置いた。
「それでは、純金貨二百枚を。」
「これでいいか?」
デウスはフローレから貰った純金貨を二百枚司会者に渡した。
「では、鎖を解きます。」
司会者はゆっくりと腕、足、首についている鎖を解いた。
「それでは、そちらが出口ですので。」
会場の横を刺した司会者。
デウスは妖精族の肩を持って出口に向かった。
赤いカーテンを退け、奥に進んでいく。
ドアが見え、そのドアを開くと先程の路地裏に繋がっていた。
デウスは妖精族の前に立ち、頭の上に手をまた置いた。
「これから宜しく。」
そう言うと、妖精族は小さな声でこう言った。
「私、は、これから、どうなるん、ですか。」
不安なのだろうか。少し震えた声だった。
デウスは頭を軽く二、三回叩く。
「お前が決めろ。」
その言葉に妖精族は顔を上げた。
綺麗な青い瞳をキラキラとデウスに向けていた。
「俺はお前を買ったからと言ってこき使うことはしない。だから、お前が決めるんだ。自分の道を。」
「もし、私が、貴方から、逃げたら?」
「それはお前の勝手さ。逃げるも良し。俺の仲間になるも良し。俺以外の主人を探すなら探せばいい。全てお前の自由なんだ。」
その言葉に目をキラキラさせて妖精族はデウスを見た。
「本当は仲間になって欲しいけど、無理矢理は俺が嫌だしな。」
妖精族は軽く下を向いた。
「こんな、私で、良いの、ですか?」
「あぁ。お前が過去にどんなことがあったか知らねぇが、俺は過去がどうだからと言って投げ捨てるようなことはしないし、したくない。」
妖精族は頬に涙を流していた。
デウスはそれに微笑み、妖精族にもう一度聞いた。
「俺の仲間になるか?」
そこで妖精族は初めて笑顔を見せた。
「はい!」
これで十八人目の仲間が出来た。




