第五十五話 全員集合
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一ヶ月後。
地面に突き刺さった大剣を抜き出した男。
「もう一ヶ月か。早いな。」
男は大剣を鞘に音高く収めた。
「感想など良い。早う行くぞ。」
「あぁ。分かってるよ。」
木が生い茂った場所を掻き分け、広い平地に出た。
『こっからアラビア国まで何キロだ?』
『ここからなら多分二十キロもないんじゃないか?』
「二十キロもない、か。」
男は空を見上げていた。
「何を惚けている。行かねばならんのじゃろ?デウス。」
「お前が仲間になったなんて知ったら全員びっくりするかもな。シグルズ。」
デウスは笑いながらそう言う。
「そうじゃの。」
ジークフリートは背中から黒紫の翼を作ってそう言う。
デウスもそれにつられて背中から黒紫の翼を生み出した。
「たった一ヶ月でここまで成長するとはのう。」
その翼はジークフリートの作り出した翼よりも綺麗で美しい。
「さて、行こうか。」
デウスは翼をはためかせ、空に飛び立った。
バサバサと大きな音が鳴り響き、木々が揺れ、草が音を立てる。
「ここからそのアラビア国までは南東に十八キロ程かの。」
ジークフリートは空へ軽やかに飛び上がり、南東方向を見た。
デウスもその方向を見る。
「十八キロか。遠くないな。」
デウスはそう言って進み始めた。
ジークフリートはその後ろに続く。
デウス達に比べれば十八キロなど近いもの。直ぐに到着する。
飛ぶスピードを上げてアラビア国へ向かった。
飛び続けること五分。壊滅したアラビア国が目に入った。
「ひでぇもんだな。」
デウスはあることに気づき、アラビア国の少し手前で降り立った。
「一ヶ月待ってたぜ。デウスとジークフリート。」
壊滅した街の最高地点にいた男。
座り込み、恰も昔からいたと言わんばかりであった。
「待ってもらってても困るんだがなぁ。」
デウスはそう言って武器に手を翳す。
「早速だが死んでくれ。魔神王様からのお告げだ。」
男は立ち上がると同時にデウスの目の前に移動していた。
「喉を潰してやるよ。」
男は右手で首を絞める形を取る。
デウスは笑みを浮かべた。
「悪いな。死ぬのはお前なんだわ。」
その瞬間、男の右腕が吹き飛び、男の右腕からは大量の血液が吹き出た。
「ぐあっ!」
男は即座に距離を取った。
「なんだ。今の一瞬で何をした。」
「簡単なことだ。」
驚きを隠せずにいる男にデウスは右手に持つものを見せた。
「その武器は、なんだ。」
鋭い刃がついた剣身に持ち手になって行くにつれ小さくなっていく剣。鐔が存在せず、持ち手の部分に細長い丸い穴が空いている。
「これはな。マルミアドワーズの真の姿だ。」
「マルミ、アドワーズの?」
デウスしか知らない伝説の武器の真相。
「とにかく、仲間との再開にお前は邪魔だ。死ぬか失せるか。選べ。」
デウスの言葉に男は笑いながら左手を切れた右腕に翳す。
「何を言い出すかと思えば、死ぬのはお前だデウス!」
「そうか。残念だ。お前とは良い敵同士になれると思っていたが、違ったみたいだな。」
その言葉の直後、男の体がバラバラに切り刻まれた。
しかし、その体は直ぐに再生した。
『見えなかった。速すぎる。たった一ヶ月で何があって言うんだ!』
「疑問に思ってんだろ。俺の強化に。」
大剣を肩に掛けた。
「ふ。ジークフリートがついている時点で強くなるのは分かっていた。この程度は計算内だ。」
「そうか。なら早く失せろ!」
デウスの目力は男の体の神経まで達し、麻痺させて気道までも細くした。
男は息苦しそうに左手で喉を抑える。
「何、を。」
「もう一度言うぞ。失せろ!」
次の目力に男は負け、気絶した。
覊鏖が持つ強化力によって強化された覊繃だ。
デウスはため息をつき、大剣を鞘に収めた。
「じゃあな。」
デウスは男を持ち上げ、投げ飛ばした。
投げ飛ばした男は物凄い勢いで飛び、即座に見えなくなった。
生かすことを選んだ。
「生かして良いのか?」
「あいつは俺をあまり敵視してなかった。それに、魔神王様って言う時だけ嫌悪感が出ていた。」
デウスには男への希望があった。魔神王に嫌悪感を抱いているということは裏切りの可能性がある。
デウスが周囲を見渡していると、遠くから手を振ってくる者がいた。
「あれはバグラか。」
肩に弓を携えているバグラが手を振ってデウスに近づいてくる。
「お久しぶりです。デウスさん。」
「久しぶりだな。」
デウスとバグラは握手を交わした。
「それと、気になったことがあるのですが。」
「なんだ?」
「さっき上空を誰かが頭から飛んでいたんですが、あれは誰ですか?」
飛んできた方向を逆算してここと暫定したというバグラ。
「い、いや。知らないぞ。」
少し白々しいデウスにバグラは少し疑問な顔をしていた。
「まぁいいです。他の方はまだですか?」
「あぁ。まだだ。」
そう言っている矢先に龍がこちらに向かってきた。
地面に降り立ち、姿を変えた。男の姿だった。
「よおフローレ。元気そうだな。」
「主こそ元気そうで何よりだ。」
龍の姿をしてきたのはフローレだった。
「で、なんでジークフリートが?」
「俺は新たに仲間になったのじゃよ。これからよろしく頼むの。」
ジークフリートとフローレはさり気なく握手を交わした。
「そこのお二人さんも、バグラちゃんも元気そうね。あとジークフリートさんも。」
「イリビード。」
龍の姿ではないイリビードが歩いてやって来た。
「龍の姿じゃないのな。」
「たまにはいいかなってね。」
軽そうな袋を肩にかけて紐を手に持っているイリビード。荷物を持っているところを見たことがない。
「そろそろヘルト達も来るんじゃない?」
「どうしてイリビードがそんなことーー」
言葉を切るようにヘルトとアブァリティアが走ってきた。
「速いぞ色欲!」
デウス達の前に辿り着くやいなや疲れて座り込んだヘルトとアブァリティア。
「お前走ってきたな?」
フローレがイリビードに問いかけると、イリビードは舌を出して片目を閉じた。
「お前は我ほどではないが足が早いんだ。ヘルト達が追いつけるわけないだろう。一緒にこれば良かっただろう?」
「だって早くフローレに会いたかったんだもん!」
イリビードはそう言ってフローレに飛びついた。
「ぉ。」
フローレはイリビードを受け止めた。
『前よりも感情を表に出すようになったな。』
デウスは笑みを浮かべながらイリビードを見た。
フローレは疑問でしか無かった。
「おいおいどうした急に。」
「ふふ。なんでもない。」
そういうもののフローレから一向に離れようとしないイリビード。
その現場の状況を変えるように新たに一人その場についた。
「お久し、ぶり、ですね。」
憂鬱の罪のイラデゥエトスが歩いてきた。
「おう。で、それは?」
デウスは指さした先には袋に入った何かだった。大きく、地面を引きずりながら袋を持ってくるイラデゥエトス。袋が通ったあとの地面は赤い血痕が滲んでいた。
「これで、すか?手見上げ、として、いいかな、と、思い、まして。」
恐らくモンスターであろう予測は出来ていたが、かなりの数。
「モンスター手見上げってどうなってんだよ。」
「この、モンスター達、とても、美味し、いいんで、すよ。」
「そうだったとしてもだな。」
デウスは頭を搔く。
初めてのことで何をどうすればいいかが全く頭に出てこない。
「別に良いんじゃねぇか?これがイラデゥエトスの再会の挨拶的なやつなんだよ。」
左手にStG44。右手にL96A1を手にし、肩にかけて歩いてきた男がいた。
「武器新しくしたんだビングル。」
「あぁ。でも狙撃銃が中々無くてな。作ってもらったんだ。」
両手アサルトライフルではなく片手アサルトライフルでもう片手には狙撃銃という形になったビングル。
何故か様になっている。
「ガヤガヤしてると思ったら、お前らか。」
見慣れた悪魔のような龍の姿。その背にはあまり見慣れていない人影。
「スペルビアとエネルヴァ。」
「お久しぶりでございます。」
『なんか、エネルヴァ雰囲気変わった?明らかに敬語も執事みたいな感じになってるし。』
『飛ばされた表紙に頭でも打ったんじゃねぇか?』
闇が巫山戯てそう言うが、間違いとは言いきれない。
「刳は何番目だ?」
龍の姿でデウスの上部にいた何者かがそう言う。
「ゾルディブ。」
デウスが上を見てそう言う。
「多分十一番目くらいだと思いますよ。」
「おお。主じゃないか。」
ゾルディブとバグラの再会はさて置き、シャティスを抱き抱えて歩いてきたインビディア。グーラと共にやって来たアミナル。これで十六人揃った。あとはデアだけである。
「デア遅いな。」
皆が集まってから十分以上経過している。
何かあったのかと疑うほどに長い。
「あれ?もう皆集まってたんだ。」
西側から声。その方向を見ると、空を飛んでいるデアが目に映った。
それはまるで魔神族のようだった。
「デア!」
やっと来たデアにデウスは安堵の表情を浮かべる。
「久しぶり!」
デアは背中の翼を解除し、デウスに飛びついた。
デアを抱き締めたデウスは勢いに負け、地面に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だ。」
デウスは倒れたままそう受け答えする。
「デア、今のは?」
「なんか修行してたら出来るようになってた。覊鏖の力?って言うんでしょ?」
まさかデアが覊鏖の力を習得しているとは誰も思わなかった。
「それにしても久しぶりだな。これで皆揃ったな。」
デアが立ち上がると、デウスはそれを見計らったように立ち上がる。
「全員、俺の意見に反論しないでくれてありがとう。」
「先ず反論出来たもんじゃねぇだろ。全員バラバラだったんだから。」
「そうだな。」
デウス達は笑い流した。
「アラビア国は破壊されたが、他の街はまだ生きてるはずだ。アラビア国には悪いが、俺達はこのまま旅を続ける。それでいいな?」
満場一致で賛成であった。




