第五十三話 マルミアドワーズフェティアルス
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大きな体は日を隠す。
デウス達は驚きを隠せずにいた。
「なんだ、あのモンスター。」
デウスの問いかけにジークフリートが回答する。
「あれはソロモンの本来の姿じゃ。名はサルバール。」
ソロモンの真の姿。サルバール。
Sランク以上のモンスターだと一瞬でわかる。
「あれは俺とて勝てるか分からぬぞ。」
ジークフリートは背から剣を取り出してそう言った。
「いや、勝つぞ。」
その言葉にジークフリートはデウスの顔を見た。
そのデウスの顔は苦の顔ではなく、楽の顔だった。まるで戦うことを喜んでいるようだった。
「面白いやつじゃ。」
ジークフリートの言葉と同時にデウスは龍鱗を鞘から取り出し、口に銜えた。
「やるぞ。」
エクスカリバーとマルミアドワーズを抜き出し、走り出した。
それについて行くようにジークフリートが後を追う。
近づく事にその大きさがどれ程のものかがわかる。
「でけぇなぁ。こりゃ戦い外があるってもんだ。」
デウスは地面を蹴飛ばし、サルバールの目の前に飛んだ。
サルバールはそれに気づくやいなや攻撃を仕掛けた。
見た目はワイバーンとボールンゲオルを合わせたような見た目だった。
デウスはエクスカリバーとマルミアドワーズを交差させて防いだ。が、
「ぐわっ!」
相手の力量の方が圧倒的であり、デウスは地面に叩きつけられた。
「ここは、俺の出番かのう。」
歩いてきたジークフリートが武器を肩に打ち付けていた。
「シグルズ。」
その言葉の後、直ぐにジークフリートは飛び上がり、サルバールを切りつけた。
「ラアアアアアアア!」
サルバールは怒り、ジークフリートを攻撃した。
「危ない!」
デウスの言葉を裏返すようにジークフリートは受け躱し、腕に大きな裂き傷を付けた。
ジークフリートはその後、デウスの隣に戻ってきた。
「シグルズ。お前は一体。」
あれ程までの力量を持ったモンスターに傷を付けれるということはかなりの力量を持っている。
「俺は昔、魔神王の側近として務めていた。四大魔神の上である餐器己の一人をしていた。今では魔神王に魔力を取られてほとんど空っぽじゃがな。」
餐器己という言葉はデウスも聞いたことは無い。人間が決めた訳ではない。
魔神族の中で決められた位のようだ。
だが、魔力が空っぽの状態でデウスより強いと考えると魔力ありの状態ならどれ程強いのか。底知れないものを感じる。
「シグルズが居れば勝てる。」
デウスが立ち上がり、そう言うと、ジークフリートは小さく深呼吸した。
「あれは俺とて勝てるか分からぬ。あれは、魔神王が創造した怪物じゃ。」
希望が絶望へと変わる一言であった。
しかし、デウスは笑って武器を握り締めた。
「いや、勝てる。俺とお前が協力すれば勝てる!」
その希望に溢れた顔を見てジークフリートは笑みを零した。
「お前さんは変わらんのう。良いじゃろう。やるだけやってみるのも。」
デウスとジークフリートはサルバールを見た。
サルバールはデウス達を見つけて、腕を振り下ろしてきた。
「行くぞ!」
デウスの言葉に応じ、ジークフリートは左に走り出した。
ジークフリートに続き、デウスは逆の右に走り始めた。
大きな物音と共に砂埃が舞う。
その砂埃の中からデウスが飛び出し、サルバールを攻撃した。
サルバールの皮膚は意外にも柔らかく、切りやすい。
サルバールを切り付けた後、デウスは地面に降りた。
その後ろからジークフリートが飛び出し、サルバールの眼球を突き刺し、片目を失わせた。
サルバールは痛みなど気にする事もせず、ジークフリートを尾で弾き飛ばした。
ジークフリートは後ろに飛んだが、デウスがそれを受け止め、勢いは収まった。
「大丈夫か?」
「うむ。」
デウスはジークフリートを地面に下ろした。
「このままやり過ごすぞ。」
デウスの言葉にジークフリートは剣を振って答えた。
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日もすっかり落ち、夜になっていた。
それにも限らず戦いは続くばかりだった。
デウスとジークフリートは疲れ切り、息が続かなくなっていた。
一方サルバールは雄叫びを上げる。疲れている様子など毛頭なかった。
「体力多過ぎだろ。」
デウスが膝に手を置きながらそう言う。
「奴には体力という概念がないのじゃ。」
息は切れているものの、ジークフリートは確り立っていた。
「あれを倒すのは時間がかかるな。」
かなり攻撃し、切り傷もかなりの量を付けたつもりだが、血が垂れてくる気配はない。
一つわかる傷はジークフリートが付けた目の傷。それ以外は全く分からない。
「俺が引き付ける。お前さんは機会を伺って攻撃するのじゃ。」
ジークフリートはその言葉通りサルバールを引き付ける。
引き付けている間に何度か隙が生まれた。
デウスはそれを隙をつき、攻撃し続けた。
何度も何度も攻撃するが、弱ることもなく、ジークフリートを追いかけては攻撃していた。
「ガアアアアアア!」
サルバールはジークフリートを追いかけながらもデウスを攻撃し始めた。
尾が振り回され、デウスの攻撃する時間を遅めた。
「くそ。時間稼ぎか。」
デウスは距離を取った。斬撃を飛ばすことを選択し、デウスはエクスカリバーを強く振り下ろした。
「はあ!」
振り下ろされたエクスカリバーからは斬撃が飛ぶ。
その斬撃を見た途端、ジークフリートの反応が変わった。
「やめろ!」
言葉遣いの変化が生じた。
デウスはそれに反応したが、斬撃はとうにサルバールを目掛けて飛んでいた。
「グラアアア!」
サルバールはその斬撃を受け返し、倍にして跳ね返した。
その斬撃は大きく、とても逃げ出せない。
デウスは受け流すことを決意し、エクスカリバーを鞘に収め、鞘を抜き出し、左手に持った。
「一刀流居合。」
ジークフリートはデウスまで走るが、間に合うはずもなく、斬撃はデウスを目掛けて飛んでいく。
もう無理だと思ったジークフリートの気持ちをデウスは大きく揺るがした。
金属の音が鳴り響き、斬撃は二つに切り裂かれていた。
デウスは普通に立っていた。
ジークフリートはそれに驚きを隠せず、口を開けていた。
サルバールも流石に驚いていた。動きをピタリと止めていた。
「飢餓斬。」
割れた斬撃は後ろに飛び、その斬撃を大勢の獣人族が止めた。
何人かは怪我をしていたが、二つに割れていたため、力が分散されていた。
「驚いてる場合じゃねぇぞ。」
デウスがジークフリートにそう告げ、サルバールを睨みつけた。
倍の攻撃力を持っていた斬撃をあっさりと切られてデウスを警戒せざる負えないサルバール。
化け物に成り果てたとて感情や警戒心は流石に存在している。その微かなる感情にデウスは干渉した。
「どうした?デカ物。あれだけのことで震え上がるとは興醒めだな。」
デウスは笑ってサルバールを見た。
サルバールは激昴し、口を大きく開いた。
その口から光が漏れ、その光は段々と大きくなっていく。
デウスは鞘を収めた。
そして、マルミアドワーズだけを抜き取った。
「この武器ありがとな。」
デウスの言葉に我を取り戻したジークフリートはデウスを見た。
「何をするつもりじゃ。」
「まぁ見てな。」
デウスはサルバールの真ん前に立った。
「マルミアドワーズは神気霊魂剣。その名を付けられた意味は分かるか?」
デウスの問いかけにジークフリートは顔を横に振る。
「この武器を作ったのは炎の神であるヴァルカンだ。そのヴァルカンはこの武器をとても愛情を込めて作った。そう。この武器こそ、初代神剣の内の剣。マルミアドワーズが無ければ今この世界に神気霊魂剣という剣種は無かった。だからヴァルカンはこの武器に″マルミアドワーズ″と名付けた。その名は業火にも負けず、逞しい宝剣であること。世界に轟くようにと願われて付けられた。そしてマルミアドワーズはヘラクレス・ベルモンスが使用した。ヘラクレスは確かにヴァルカンの意志を受け継いでいた。それからも受け継がれてきたこの名は確かに世界を轟かせ、この武器を手にしたいと思うものも増えた。とても振りやすく、持ちやすい片手剣の神剣。でも、その容姿は紛れもない虚の姿であった。」
誰も知らぬその真姿。あの魔神王でさえも真の姿をお目にしたことはない。
ジークフリートも実際に見たことも無く、聞いたことも無い。
だが、デウスは知っていた。マルミアドワーズの真を。
「ヴァルカンは魔神王の敵だった。だから、ヴァルカンはバーサーカーと協力した。この武器にはもう一つの名が存在する。『黄金たる赫眼爆砕の剣』。フェティアルス。その名は誰にも明かすことのなかった心の名前。」
サルバールは会話を途絶えさせるように口の中で何かを爆発させ、それをデウスに吐き飛ばした。
大きな火の玉のようなものだった。
デウスはマルミアドワーズでその火の玉を切り、二つに割った。
その火の玉は地面に激突し、爆発した。
爆破の煙と砂埃が舞い、デウスを隠す。
少し経った時、その煙は螺旋状に回転し始め、デウスの姿を顕にした。
そのデウスの右手にはマルミアドワーズの姿があった。その見た目は片手剣とは異なっていた。
黄金の刃にそれと交わるように炎を描く赫き刃紋。そして、持ち手になるにつれて小さくなっていく。鍔も存在せず、片手剣の時の姿とはかけ離れていた。もはや大剣である。
「これがマルミアドワーズの真の姿。フェティアルスだ。」
狂気を放つマルミアドワーズは大剣と化し、敵を葬る最強の剣へと神化した。




