第五十二話 宴は本戦の前
✣ ✣ ✣
デウスは飛んできた何者かを龍鱗で攻撃した。
デウスを通り過ぎる何者か。大きな巨体と蛇のように長い体。蛇とは違い、硬い鱗に覆われている。
龍鱗で傷をつけたものの、あまり効いていない様子だった。
その何者かは海に戻り、デウスを見つめ、大声を上げて威嚇した。
「あれはボールンゲオル。」
Sランク級のモンスターで、別名、海王と呼ばれている。
デウスは龍鱗を鞘に閉じた。
「アァァァァ。」
小さい声がデウスの耳に飛び込む。敵対対象にされたデウス。全力で殺しにかかってくるだろう。
「よりによってなんでだよ。」
デウスはエクスカリバーを抜き出した。
ボールンゲオルは一度海に潜った。
その隙を見計らい、デウスはエクスカリバーを両手に持った。
バシャンと大きく水を叩く音と共にボールンゲオルはデウスに飛び込んだ。
デウスは正面からエクスカリバーを振り下ろした。
「はああああ!」
攻撃はボールンゲオルに命中したが、口を少し切ったぐらいだった。
デウスはボールンゲオルの攻撃を躱し、尾にエクスカリバーを振り下ろした。
尾の先が切れた。
ボールンゲオルは海に入った直後に方向を変え、勢いのままデウスにまた飛び込んだ。
デウスはエクスカリバーを強く握った。
エクスカリバーは光を放ち、敵の眼を機能停止させる。
「『絶対的勝利』!」
デウスはそう言い、エクスカリバーを振り下ろした。
ボールンゲオルの顔を割り、討伐した。
デウスはエクスカリバーを鞘に収めた。
真っ直ぐ海に落ちたボールンゲオル。その死体を襲う生き物はおらず、海に浮き上がる。
「ふぅ。行こう。」
デウスは右を見た。
飛び始め、アグロル国へデウスは進んだ。
十分ほど時間を取られたデウス。スピードをかなり早め、アグロル国へ急いだ。
かなり進んだが、まだ一向に街は見えてこない。陸さえも見えない。
『遠いな。』
デウスは文句を頭で言いながら飛び続ける。
✣ ✣ ✣
デウスはようやっとの思いでアグロル国に着いた。
飛び続けて約一時間。日も傾いて紅の色をしていた。
空を飛びながら街を見ると、砂埃が大きく上がっていた。
『ドンパチやってるみてぇだな。』
闇がそう言う。デウスは砂埃の中にある人影を見つけた。
二つの人影。街の外だが、壮大な戦いだ。
『あれは魔神族だ。もう一人は誰だ?』
デウスは確認してもただの人間にしか見えない。闇を使っていないとすると獣人族の可能性は高い。
『乱入すれば良いであろう?』
マルミアドワーズはそうデウスに言い告げる。
『そうだな。面白そうだし。』
デウスはそう言ってマルミアドワーズを右手に持った。
一方その頃。
「もう終わらせたいんですけど、駄目ですか?」
「終わらせれるわけないじゃろ。四大魔神如きにゃぁ、俺は倒せない。」
四大魔神であるソロモンが男と戦っていた。
男の右手には青い剣があった。
ソロモンの左手には戦斧があった。
二人が同時に足を地面に叩きつけた時だった。何か気配を感じ、二人同時に後退した。
その中央に一本の剣を手にした男が降ってきた。
大きな音が鳴り響き、砂埃が舞う。
その砂埃は風に揉まれ、流された。
「お久しぶりですね。デウスくん。」
「てめぇとは二度と会いたくなかったな。ソロモン。」
デウスはマルミアドワーズをソロモンに向けた。
「あの時の。」
男はデウスを見るとそう口にした。
「俺は下がろうかのう。」
そう言って男は武器を背中に収めた。
「結局一騎打ちになるんですね。」
「うるせぇ。したくてなってんじゃねぇんだ。」
デウスはエクスカリバーを抜き出した。
「さて、まずはこちらから行きましょうか。」
その言葉の瞬間、デウスの目の前にソロモンは即座に移動し、戦斧を振り下ろした。
デウスはエクスカリバーで受け止めた。
「あの時よりも成長してるんじゃないですか?」
「お前に褒められるのはパッとしねぇな。」
デウスはソロモンの足を掛け、少し体勢を崩した。
ソロモンは慣れたように体勢を立て直し、戦斧に力を加えた。
「横に気をつけろ。」
デウスの言葉にソロモンは少し横目をした。
デウスはマルミアドワーズを大きく後ろに回し、ソロモンに振った。
「『神気霊魂』!」
剣先がソロモンを傷つけた。
ソロモンは剣に反応したが、少し行動が遅く、腹部を浅くだが裂かれた。
「痛いじゃないですか。」
「殺す気でやってるんだ。痛いだけじゃすまねぇぞ。」
デウスはマルミアドワーズを鞘に収めた。
「何をする気ですか?」
デウスはその言葉を鼻で笑い、エクスカリバーを両手で持った。
「絶対的な勝利はもう飽きただろ?だから、新しい物をくれてやる。」
デウスのその笑みを汲み取って、ソロモンはあることに気づき、戦斧を振りかざした。
「させません!」
少し焦ったようにソロモンは戦斧をデウスに下ろした。
デウスはそれを躱し、ソロモンに急接近した。
「全華の理よ。空虚無き世に聖火を絶たぬれん!『運命的捷利』!」
振り下ろされたエクスカリバーは真っ直ぐソロモンを切り付け、後方へ飛ばした。
「っ!!」
ソロモンは勢い良く後方に吹き飛び、戦斧を地面に突き刺して地面に倒れ込む。
「次はその脳天でも切りつけてやろうか。」
デウスは片手でエクスカリバーを持ち、上に掲げた。
ソロモンは再生の遅い傷を抑えながら立ち上がろうとする。
しかし、身体は言うことを聞かず、直ぐに地面に倒れ込んでしまう。
「『運命的捷利』!」
デウスはソロモンの頭目掛けてエクスカリバーを振り下ろした。
ソロモンは呆気なく頭を切られ、地面に力なく脱力した。
それは、ソロモンの死を意味する。
ソロモンもかなり死んでいた様子だった。その証拠が傷の遅い再生。エクスカリバーの力でもあるが、それにしては遅すぎる。
ということはかなり死んでいるということとなる。
デウスはエクスカリバーに付着した血痕を振り落とし、鞘に収めた。
「強いんじゃなぁ。」
そう言って先程までソロモンと戦っていた男が歩み寄ってきた。
「お前誰だ?」
デウスはなんの気もなしに名前を問いかける。
「なんじゃ?覚えとらんのか?まぁあの時は気を失っておったからな。」
デウスにはわけも分からなかった。
「どういう?」
「俺の名前はジークフリート。気楽にシグルズと呼んでもらっても構わん。」
「てことは、あんたが俺の命の恩人か。」
「あの娘はそう言っておったのか。嬉しいのう。」
ジークフリートは大きな声で笑った。
「ジークフリート、じゃない。シグルズは魔神族なのか?」
「うむ。そうじゃが、お前さんと同じく魔神王に反逆する者ぞ。」
ジークフリートは腕を組んだ。
「そ、そうか。」
そう話していると、後ろから急な歓声がわっと沸いた。
「こいつらのこと庇ってたのか?」
「うむ。」
ジークフリートは大勢の獣人族を見た。
「敵は沈められた!我らの勝利である!」
その言葉に獣人族はさらに喜びと歓声を上げた。
デウスは思いついたようにジークフリートに言った。
「シグルズさ。俺の仲間にならねぇ?」
「仲間か。良いのう良いのう。いかにも楽しそうじゃ。」
そう言ってジークフリートは仲間になることを承諾した。
「決まりだな。ま、全員に会うのはあと二十七日後だけどな。」
デウスは獣人族に手招きされ、その場に赴くことにした。
デウスは振り返り、シグルズを見た。
「お前も来いよ!」
デウスの笑顔を見たジークフリートは腕組をやめ、歩き出した。
「こんな反逆者でも、一時を楽しむぐらい許してくれるじゃろう。」
小声でそう言い、デウスの元に歩み寄った。
「とても暇している時間はないんだが、少しでも楽しもう。」
デウスがそう言うと、ジークフリートは軽く頷いた。
「楽しんでいってくれるのですか?」
街長らしき人がとても喜んだ顔でそう言う。周りの獣人族も喜びの笑みを浮かべていた。
早速宴の準備を始める獣人族。デウスとジークフリートは暫し待つこととなった。
待ち時間中に話をし、意外と話が盛り上がった。
「…でのう、それが面白いのなんのってのう。」
「それは面白そうだな。」
そう会話をしていると、街長がデウスとジークフリートの元に歩いてきた。
「宴の準備が出来ました。どうぞこちらへ。」
デウスとジークフリートは街長に連れられて長机と何席もの椅子が置かれた場所に連れてこられた。
そして、豪華な二つの椅子に座らされた。
「では!我々の命の恩人に大きな一杯を!」
長のその言葉に合わせ、獣人族はコップを手にし、上に掲げ、
「乾杯!」
と大声で叫んだ。
そして久しぶりの宴が始まった。
デウスとジークフリートは大いに楽しんでいた。
その時だった。
「グラアアアアアアアアア!」
大地が揺れるほどの大きな雄叫びを上げる何かがいた。
デウスとジークフリートは即座に声のする方向を見た。距離にして約八十メートル。
かなりの巨体を持ったモンスターの姿だった。見たことも無いモンスターだった。
背で夕陽を隠し、街を暗闇に落とした。




