第五十話 修行(デア編)
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明るい日差しが目の中に差し込む。
「ここは、」
体を起こし、周囲を確認した。
周り一体はどこかの部屋のようになっていた。
「おぉう。目覚めたか。」
部屋のドアを開いて入室してきたおじさんは飲み物を持っていた。
「貴方は?」
「俺はゴロギアル国の街長だ。」
おじさんの言葉を聞いて頭を抑えた。
「ゴロギアル国。確か私は、」
思い出したようにおじさんに問いかけた。
「ここからアラビア国まで何キロあるの!?」
「なんだ?アラビア国へ向かっていたのか?そうだなぁ。七十キロはあるか。」
おじさんの回答に脱力するように倒れ込む。
「おい、大丈夫か?」
「え、えぇ。大丈夫よ。」
おじさんは髭をなで下ろした。
「お前さん。名はなんというんだ?」
「デアよ。デア・ルナティック。」
デアはもう一度体を起こした。
「そうか。デアというのか。何故アラビア国に行きたいんだ?」
「大切な用事があるの。でも七十キロも先となると用事も果たせそうにないわね。」
デアは立ち上がり、おじさんが持ってきた飲み物を飲み干した。
「今は何時?」
「今は午後の二時前ぐらいだ。」
窓の外は見たことも無い街の光景だった。
民衆が街を歩き回り、建物の前を通り過ぎる。
「あれ?」
デアはそこであることに気づいた。
「私の武器がない。」
腰に掛けていた干将・莫耶が無くなっていた。
「お前さんの武器ならここにある。」
そう言っておじさんは棚に掛けていた武器を取った。
それは確かに干将・莫耶だ。
「貴方名前は?」
「俺か?俺はルミスト・ローミネンスだ。」
デアはルミストから武器を受け取った。
「ここは平和ね。」
「俺が取り仕切る国だからな。法律にも厳しくだ。」
ルミストは立ち上がった。
「俺は仕事に戻る。お前さんは少し気分転換に散歩するといい。」
そう言ってルミストは部屋を出た。
デアは干将・莫耶を腰に掛け、ドアの前に立った。
デアはドアを開いた。家の中に繋がっているドア。廊下を通り、家を出るドアを開いた。
デアは腕で日光を遮った。
「日差し強いわね。」
人混みも多い。動くのも大変そうだ。
デアは息抜きついでに街を歩くことにした。
街には至る所に店が並んでいた。展開店のようだった。
そこには食べ物の他に武器や装飾品、はたまた素材といったものも売っていた。
『なんでもあるのね。』
周囲を見ながら歩いていると、ある貼り紙に目がいった。
人混みを抜け、貼り紙を見た。
「法律。」
そこには法律が書いてあった。
意外と長々とした法律だ。
デアは一応念の為に法律を確認した。
【弌:物を盗んで行けない。弍:人を殺してはならない。弎:街を棄ててはならない。亖:恋人以外とヤってはいけない。伍:街の転覆を図ってはならない。仂:街の危機には必ず一致団結をすること。終:命は街と共に。】
デアは最後だけ理解ができなかった。
『街と、共に?』
デアはこう解釈した。
街が滅びれば村民の命も滅びなければならない。街が死ねば村民も死ななければならない。
デアはそう解釈した。
「最後だけ押し付けみたいになってるわね。」
デアは後ろを振り返った。
見たところこの法律にケチをつけるものは居らず、平然と暮らしていた。
「不思議なものね。」
デアは人混みを避け、路地裏を抜けることにした。
昼間にも限らず薄暗い路地裏。当然人がいるはずもない。と思っていた。
男性三人がぞろぞろとデアの前に立った。
「あんちゃんいいボディしてんねぇ。俺達と楽しいことしない?」
デアはため息をついた。
「やっぱり、法律を無視する人もいるのね。」
デアは男達を見た。
「ごめんなさい。貴方達と遊ぶ気は無いわ。」
デアはそう言って歩き出した。
しかし、男達は一歩もひかない。
「ちょっとだけだってぇ。良いだろ?」
「はぁ。貴方達みたいな捻くれ者とは遊ばないわ。分かったら早くそこ退きなさい。」
「俺達の言うことを聞かないのなら仕方ない。力ずくだ。」
男達はナイフを取り出した。リーチもそこまで無い。
「あんちゃん。少し痛い目見るけど我慢してくれよ。これも巡り合わせだ!」
真ん中に立つ男がデアに襲いかかった。
デアは黒き莫耶で防いだ。
「あんちゃん、冒険者か!」
「えぇ。貴方達は冒険者とは真逆の存在ね。とりあえず雑魚には変わりないわ。」
デアはナイフを弾き、地面に落とした。
男は後ろに下がり、腰に手を当てた。
「抜くのが遅いわよ。」
男の耳元で囁くデアに驚き、距離を取ろうとした。しかし、男はのろまだった。
デアに蹴り飛ばされ、壁に激突し、失神した。
デアは莫耶を鞘に収める。
「まだやるのかしら?」
男達はナイフを落とし、失神した男を抱えて逃げていった。
「やっぱり間抜けね。」
デアは路地裏を通って外に出た。
通り道が大きくなっており、人混みに流されることは無さそうだ。
デアは大通りを歩く。周りには人と建物があった。
賑わっている。
デアが歩いていると、何かが飛んでくるのが見えた。
「あれは、」
飛硬種だ。それも何か紙を持っていた。
デアの前に飛んできて、
「キャウキャウ!」
と鳴きながら紙を落として行った。
周囲の人はそれを見ていなかった。
デアはその紙を拾い上げ、開いた。そこにはこう書いてあった。
【一ヶ月後、アラビア国】と。
デアはその紙を見てすぐに悟った。
デウスが寄越した手紙だと。
「要するに修行をして行けばいいわけね。」
デウスとデアはもう長い付き合いになる。何故一ヶ月後なのか。期限を設定していることから力を身につけておけというメッセージを感じる。
「なら、一度街を出ましょうか。」
デアは大通りを進み、門の前に辿り着いた。
デアは門番に言って、門を開いてもらった。
外に出たデアはあることに気づいた。
周囲にはモンスターが何体か居たが、どれもこれも獰猛なモンスターだらけ。
街が今すぐに襲われてもおかしくはないのだが、門や壁は全くの無傷だった。
「珍しいこともあるのね。」
デアは少し歩いてから干将・莫耶を鞘から抜き出した。
「ざっと見てもAランクモンスターが多いわね。修行には最適な敵ばかり。」
デアが足を地面に叩きつけると、その音に臨場してモンスター達がデアに歩み寄る。
「ガアァァァァ。」
威嚇のように喉を鳴らすボルギストメール。
Aランクのモンスターの中でも強い部類に入る。
「ガアアアアア!」
ボルギストメールは虎の見た目をしたモンスター。少し違う点は大きさと三又の尾。
デアは襲いかかるボルギストメールに走り寄り、腹の下に潜り込む。
「はああああ!」
干将で切り裂いたが、腹部には大した傷はついていない。
「ガアアア!」
ボルギストメールは後脚でデアを踏みつけた。
デアは干将・莫耶を交差させ、何とか防ぐ。
「Aランクとなれば、流石に強いわねっ。」
デアはボルギストメールを弾き返し、その足を切った。
足にはクロスの傷がつく。
「グラアァァァァ!」
ボルギストメールは三又の尾を自由自在に扱い、鞭のようにしてデアを攻撃する。
デアは躱し、ボルギストメールの顔まで走り寄った。
「やあああ!」
デアは莫耶でボルギストメールの左眼に切り傷を付けた。
「ガアアアアア!」
ボルギストメールは怯み、少しよろめいた。
デアはそこを逃がさず、喉元を刺した。
「はああ!」
剣に刺された喉元からは血が溢れる。
「ガアアアアア!」
ボルギストメールは怒り、尻尾でデアを飛ばした。
「きゃっ!」
デアは尻尾攻撃が直撃し、吹き飛ぶ。
Aランクと言えど超呀流種に入るボルギストメール。そこらのAランクモンスターとは訳が違う。
デアは倒れた体を起こし、ボルギストメールに走り近づいた。
ボルギストメールは前足を高々と上げ、デアに叩き落とした。
地面には埃煙が漂い、辺り一帯が見えなくなった。
その時だった。ボルギストメールは何者かに首を輪っか状に切られ、地面に倒れ込んだ。
埃煙が履け、ボルギストメールの首を切った者の姿を表す。
そこには息の切れたデアの姿があった。
「はぁ、はぁ、っ、はぁ。」
デアは地面に座り込んだ。
干将・莫耶にはボルギストメールの血が付着していた。
「これ、疲れる。」
息を整えて地面に寝転ぶデア。しかし、そんな時間もないというようにモンスターがデア目掛けて炎を放った。
デアはギリギリで躱し、モンスターを見た。
そこにはAランクモンスターであるメグロドラゴルオンが居た。
見た目はワイバーンに似ている。
デアは立ち上がり、構えた。
「休む暇も無いのねっ!」
デアは莫耶で腕を切り付け、追撃として干将で腕に更なる傷を与えた。
だが、メグロドラゴルオンは怯むことも無く、デアを睨みつけた。
「ヴァオォォォォ!」
メグロドラゴルオンは腕を振り、デアを薙ぎ払った。
「きゃああ!」
デアは吹き飛ばされ、背中から地面に激突した。
「ガァガァガァ!」
小笑にするようにメグロドラゴルオンは鳴き、デアに近づいた。
デアは何とか立ち上がった。
「くっ、はぁ、はぁ、」
先程よりも息が荒くなる。
「グルァァァァ!」
腕を振り下ろしてくるメグロドラゴルオンを前にしてデアは目を瞑った。
そして、次の瞬間、メグロドラゴルオンの腕を切り飛ばし、首を打ち取った。
干将・莫耶の見た目が変化した。
柄や剣身の長さが変り、白い干将には青い線が入り、黒い莫耶には赤い線が入る。鍔からはレプトリオンのような逆だった棘が無数に生えてきた。赤黒い棘と青白い棘。
放つオーラの色も変えた。これのことを秘暁奇という。
干将・莫耶秘暁奇解放。




