第四十七話 能力門
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暗い世界で誰かの呼ぶ声が聞こえる。
小さくも、訴えるような声が。
『なん、だ。』
徐々に暗闇に光を加えていくと、人の姿が目に浮かんだ。
「デウス!」
その目の先にはデア達が見下ろすように囲んでいた。
「デ、ア。」
薄らとした意識の中で言葉を発した。
デウスは力がまだ入らない体を無理やり動かし、体を起こした。
「デウス!」
デアはデウスに抱きついた。
「おわっ。」
力に負け、デウスはまた地面に背をつけた。
「ほんとに、死んじゃうかと思った!」
デアは涙を流しながらデウスの懐に顔をうずくめる。
デウスはそのデアの頭を左手で撫でた。
「悪、かったな。」
まだ力が入らないのか、少したどたどしい言葉遣いになっている。
「お前はどれだけデアを泣かせれば気が済むんだ?」
ビングルが少し苦笑いを零してそう言った。
「別に、泣かせたくて、泣かせてるわけじゃ、ねぇよ。」
デウスはデアの頭に手を乗せたまま喋る。
「そうだ。アストルフォは?」
言葉に力が入るようになってきたデウスがかなり疑問を抱いて問う。
「アストルフォはって、お前が倒したんだろ?」
ヘルトの言葉にデウスは記憶を探る。
「いや、俺は一度殺されて、」
デウスは右手で頭を抑えた。
殺されてからの記憶が全くとしてない。
『何か知ってるか闇。』
『分からない。』
闇も記憶がないみたいだった。
デウスが悩んでいると、一人の戦士が歩み寄ってきた。
「私見たわ。どんよりとした声でアストルフォに威嚇してた。」
「他は?」
「左腕が黒くて邪気を出してたわ。それ以外は分からないわ。」
ヘルトが戦士の話を聞き終えた時、デウスは突如胸を抑え、唸り始めた。
「が、ああああ、」
息が吸えない。心臓が痛み、体に電気が走る。
デアはデウスを強く抱き締めた。
その苦しみはすぐに止み、デウスは肩で息をする。
「な、なんだったんだ。今のは。」
疲れ切ったような言葉で疑問をぶつける。
何もかもがわからない。考えることも出来なくなっていた。
『相棒。これは、なんだ。』
闇が震えた声でデウスに問いかける。
『これって、なんだ。』
デウスは恐る恐る闇に聞いた。
『相棒の特殊スキルの『不制御狂乱暴君者』に新たな効果がついてる。門のひとつが開いてる。でも、』
闇は一間置いた。
『普通の門と違う。』
『何が、何が違うんだ。』
『…門の色がまず違う。周りの門の色は青色だ。でも、その門だけ黒と赤の門。開かれた所からは謎のオーラを放ってる。』
能力門と呼ばれる門は通常青色をしている。
他の特殊スキルにも能力門が二つから三つ存在する。
今まで赤黒の能力門はない。何かが違うという軽い言葉では片付けれぬ色だった。
デアは体を起こした。
「……オーラが違う。」
デアはその言葉を吐いて正座をした。
デウスは体を起こした。
「どういう、ことだ。」
「貴方のオーラは綺麗な色だった。でも、今は邪悪な色にしか見えない。とても、怖い。」
オーラはその者の生き様を表すとされる。
邪悪であれば邪悪であるほどその者は最悪の道を辿ると言われている。
「龍に似たオーラ。いえ、魔神族に似たオーラの色。」
通常の人間のオーラの色は青色か紫色のどちらか。龍のオーラの色は灰色。魔神族のオーラの色は黒色。
デウスからは黒色のオーラを感じるという。
『相棒の特殊スキルに新たに追加された効果の名前は″狂乱″』
死んだ時に発動される効果。必ず暴走し、敵味方関係なく殺し尽くす化物となる。長い時間経てば勝手に効果が切れる。闇を絶対的に操ることができるようになり、声が唸るような声になり、言葉として捉えるのが難しくなる。
『これ以上死ぬな。仕舞いにはデア達も殺すことになる。』
闇は至って普通ではない声の高さでデウスに忠告する。
「とりあえず、これ。」
話を変えるようにデアがデウスにあるものを渡した。
「これは?」
デウスはデアに渡されたものを見る。
片手剣だ。
「貴方を救ってくれた人からの贈り物よ。」
「救ってくれた、人?」
デウスには記憶が無い。
誰がデウスを助けてくれたかなんてデウスには分かりはしない。
「えぇ。ジークフリートっていう名前の人よ。」
「で、ジークフリート?がなんで俺に武器なんかを?」
「魔神王を倒してくれるだろうって。」
デウスには聞き覚えのない名前だった。なのに、何処か懐かしい名前だった。
デウスは鞘から剣を引き抜いた。
「これは、マルミアドワーズ。」
デウスはマルミアドワーズを知っていた。
「これほどの武器を。」
デウス以外はマルミアドワーズのことをあまり理解をしていない。
「マルミアドワーズは聖剣なの?」
デアの問いにデウスは首を横に振った。
「マルミアドワーズは『神気霊魂剣』だ。」
神気霊魂剣。この世に三本のみしか存在しない武器種。
神気霊魂剣は決して人間が持てるものでは無い。最高神が持つにふさわしい武器種。
「そのジークフリートって何者なんだ?」
「ジークフリートは……」
その時だった。デウスは何者かに肩を裂かれた。
「デウス!」
ビングルがデウスに寄った。
デウスは肩を抑える。
「くっ。なんだ。」
デウスは前を見た。
そこには二人の魔神族が翼を羽ばたかせて飛んでいた。
「強い邪気を感じると思ったらデウスくんじゃないですか。」
デウスは立ち上がった。
「お前は…」
デウスには見覚えがあった。実際にあったことがある。
「デウス、あいつは?」
ヘルトが問いかけるとデウスではなく敵が答えた。
「私は四大魔神ソロモン・トーケストラ。一度デウスくんと戦ったことがあります。」
デウスは立ち上がった。
「確かにあの時、俺はお前を殺したはず、何故だ!」
「失礼ですね。あの時、私の死体はありましたか?」
デウスは過去を振り返った。
ソロモンと戦ったのは災禍が初めてデウスとあった時だった。
確かにあの時ソロモンと戦い、勝利した。が、死体は無かった。
「ソロモン。いや、あの時はアルマという名前だったはずだ。」
「それはコードネームです。本名はソロモンです。」
「それに、デスペランドーマの部下だったんじゃ、」
「あれは魔神王様がその立場に居ろと命じたのでわざわざ力を抑えていたんですよ。」
そう言って地面に降り立った。
「もう一人は誰だ。」
もう一人の方は見たことがない。
「俺は四大魔神モルドレッド・コルドリア。初めましてだな。」
モルドレッドはソロモンの隣に降り立った。
「会って早速だが、お前達をバラバラに飛ばす。」
そう言ってモルドレッドは右手を動かした。
「どういうことだ!」
デウスが問うと、モルドレッドは笑みを浮かべて答えた。
「街破壊には貴様らが邪魔んだよ。だから、魔神王様から承ったのよ。」
モルドレッドはデウス達に歩み寄る。
「どうやって飛ばす気だ。ぶん投げる気か?」
デウスは警戒しながらも問いかける。
「ぶん投げるって訳じゃねぇさ。ただ、一度気絶して欲しいだけさ。」
モルドレッドは地面に足を付けた。
「気絶して欲しい?」
デウスの疑問にモルドレッドは答えた。
「俺の右手は破壊の力。逆に左手は再生の力。この意味、もう分かるよな?」
モルドレッドはそう言って右手を握り込んだ。
「俺の破壊の力は制御が少し難しい。もしかすると、誰か死者が出るかもな。まぁ、一石二鳥って奴だ。」
モルドレッドはデウスに殴り掛かった。
デウスはギリギリのところで躱し、後退した。
「おいおい、俺から逃げれると思うか?」
デウスは腹を強く殴られ、後ろに飛ばされた。
痛みのあまり声も出ず、デウスは地面に倒れ込んだ。
「デウス!」
デアは干将・莫耶をぬこうとしたが、動きもつかの間。デアも腹を殴られ、倒れ込んだ。
他のみんなも攻撃の隙もなく、やられてしまった。
「ソロモン、お前の魔法でこいつら移転させれるだろ?」
「分かりました。適当に飛ばして良いんですよね?」
「あぁ。構わん。」
ソロモンはデウスの前に立った。
その時、ソロモンはデウスに足を掴まれた。
「気絶してなかったのか。」
モルドレッドは右手を後ろに大きく引いた。
「モルドレッドさん。」
ソロモンはモルドレッドを止めた。モルドレッドは拳を下げ、後ろに下がった。
「モルドレッドさんは街を殺ってください。」
「分かったよ。」
モルドレッドはつまらなそうな顔をして街の方へと向かった。
「それでは、さよならです。また会えるといいですね。」
ソロモンはそう言葉を残し、デウス達を移転させた。
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目覚めた場所は見たことも無い森だった。
「ここは。」
デウスは辺りを見渡す。見る限り木が生い茂っているだけ。人も居ない。
『ここどこだ。』
デウスは闇に問いかける。
『全くわからん。かなり遠くに飛ばされたとしか。』
デウスは途方に暮れた。
ため息をつき、座り込んだ。
「さて、これからどうするか。」
ここからアラビア国まで何キロあるのか。どの方角に進めばいいのか全く分からない。
分かることは変なところに飛ばされた。そこには木しかない。この二点だけだ。
デウスは左手に握っていた鞘を見た。
「持っててよかった。」
デウスはマルミアドワーズを鞘から抜き出した。
見た目はほんとに片手剣の見た目。
デウスは座ったまま木に向かってマルミアドワーズを一振した。
すると、木は忽ち切れ、地面に音を立てて落ちた。
「流石は神気霊魂剣。斬れ味は完璧だな。」
デウスは立ち上がった。
「まずはここが何処かを知らねぇとな。」
デウスは歩き出した。
木々を避け、どんどん進んでいく。
森を抜けたデウスは衝撃のことに気づいた。
「これは、海か?」
地面が無くなり、海が広がっていた。
「まじでどこだよここ。」
デウスは仕方なく引き返すことになった。
森に入り、進んでいると、草が不自然に音を立てた。
「誰かいるな。」
デウスは周りを見渡し、人がどこにいるのか探していると、右方向から矢が飛んできた。
デウスは重心を後ろに傾け、矢を躱し、その矢を右手で掴んだ。
「六灯石。」
矢の刃に使われていた石。六灯石は比較的見つけやすい石ころだが、強度はかなりある。
デウスは飛んできた方向に矢を投げた。
草が逆方向からなり、デウスはしゃがんだ。
頭をスレスレに通る矢にデウスは驚いた。
「危ねぇ。」
先住民だろうか。
デウスは周りをまた確認した。
そして、一点を見つめ、マルミアドワーズを鞘から抜き出した。
「そこだ!」
飛ぶ斬撃は木を切り倒し、その者の正体を表した。
「女?」
そこには弓矢を手にしていた女性が一人いた。




