第三十六話 万物の鉤爪
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フローレが先手を取り、ワイバーンを攻撃した。
「グラアアアアアア!」
ワイバーンは腹に一発喰らったが、呪約のせいで倒れることは無くやり返す。
「ぐおっ!」
蹴り上げられ、フローレは上に吹き飛ぶ。
その頃、イラドゥエトスは住民を避難させていた。
「早く、逃げてくだ、さいっ!」
住民はざわざわと声を上げ、足音を立てながら走り逃げる。
「これは何事じゃ!」
一晟が地響きを聞きつけてやってきた。
「な!子奴はワイバーン!それに、尋常ではない傷。まさか呪約か!」
「今更何しに来たジジイ!」
デウスは後方に飛んできた時に一晟に声をかけた。
「音がしたので見に来たのじゃが、これは厄介じゃ。」
「そんなこと分かってる!そんな所に突っ立ってないでジジイも戦え!」
「分かっとる!」
一晟は刀を取り出した。その刀は昨日使っていた刀とは違う。
「呪約となればこの武器じゃな。」
神を尊重するような金の円が装飾されている。
「呪いを断ち切る。天叢雲剣。」
天叢雲剣。須佐之男が使っていた太刀。三種の神器の一個。正式名称は天上斬器。天をも斬るとされる倭国史上で計り知れない力を持って作られた神器だ。
「三種の神器か。これは頼もしいなっ!」
ヘルトが鎌を大振りに振りかざした。斬撃が飛び、ワイバーンの片足を切断した。
「ガアアアアアア!」
片足のバランスでは体を支えきれず、思わず倒れ込んでしまうワイバーン。
「今だ!デウス!」
ビングルの声に臨場し、デウスは店主を抱き抱えて闇で飛んできた。
「店主さん!準備は良いか!」
「いつでも構わん!」
倒れ込むワイバーンの背中に着陸したデウス。下手すれば一回のみのチャンスを失い、店主はワイバーンに殺される。
店主は手を合わせ、それを下に向けた。
「伝承封土解呪!」
手を開き、勢いよくワイバーンに手を叩きつけた店主。
その手とワイバーンの間から光が溢れた。
「ガアアアアアア!」
解呪の最中だった。倒れているワイバーンではないワイバーンの声が聞こえた。
「おいおい、嘘だろ。」
恐らく呪約がされているであろうワイバーンがもう一体現れた。
もう一体のワイバーンは大きな口を開いた。
その口内は赤く煌めき始めた。
「店主さんまだか!」
「あと少しだ!」
デウスが店主の前に立ち、ワイバーンの火炎を迎えようとした。
『待て相棒!』
闇がデウスを止める。
『なんだ!俺にならこんな火炎切り払える!』
『違う!』
その言葉にデウスは唖然とした。
『違うって、なんだよ。』
『あのワイバーンはただのワイバーンじゃねぇ。あいつは寶雅炎を持ってる。』
『なんだよそれ。』
寶雅炎。当たったものを無防備化させ、外部と内部の両方から体や武器などを崩壊させる力。
『相棒が剣で防いだとしても剣が見るも無残に消え去ってそのまま相棒に炎が降りかかる。相棒の特性である『絶炎』でさえも防げない。』
『ならどうすりゃいいんだよ!』
デウスは悔しさを噛み締めた。
『店主の解呪の方が先に終わることを願うしかない。』
デウスは店主を見た。
いざとなれば解呪中でも店主を連れて逃げるつもりだ。
デウスはワイバーンと店主の両方を見やった。
集中する店主と火炎をチャージしているワイバーン。
「やばいぞ!」
ビングルの声が聞こえた時、ワイバーンのチャージが完了していた。
ワイバーンの口からは白色にも見える火炎が吹き出た。
「くっ!」
デウスはギリギリまで耐えた。店主と共に。
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ワイバーンの火炎はデウス達を光へと飲み込んだ。
「主!」
その言葉と同時に光の中からデウスと店主が出てきた。
そのまま地面に激突したデウスと店主。デウスが下敷きになり、店主を庇った。
「ごほっ、ごほっ!」
デウスは背中から地面に激突したため、体には激痛が走った。
「お前さん!」
「店主さん、解呪は?」
その言葉に店主は口を籠らした。
「まさか…」
『あぁ。そのまさかだ。』
火炎を辞めたワイバーンの下から血塗れのワイバーンが立ち上がった。
解呪、失敗である。
もうチャンスはない。一体だけならコンマあったかもしれないが、二体となると完全にゼロパーセントになった。
「どうすればいいんだ。」
デウス達は手詰まりになっていた。
一晟は一度天叢雲剣でワイバーンを切っていたが、何ら効果がなかった。
『任せろ。』
闇がデウスにそう言い放った。
『どういうことだ。』
『やっと出来たんだ。意識交換が。』
意識交換。自分の人格ともう一つの人格がある場合使える意識の極限状態。もう一つの人格と意識を入れ替えると、能力がもう一つの人格の能力と変化する。自分の人格を一人格も考えると、一人格のスキルが『身体能力上昇』の時、二人格のスキルが『身体防御強化』の場合、一人格の意識と二人格の意識を入れ替えると、スキルごと入れ替わる。要するにスキルと人格が両方を変化するという事だ。
『入れ替えるぞ。相棒。』
そうして闇はデウスに許可無しに意識変換を行った。
現実では体が脱力したように腰から上が崩れ落ちるように前かがみになった。
「デウス?」
心配するデアの前でデウスが、いや、闇が目を覚ました。
「久しぶりのシャバがこんな戦場とはな。」
話し方に違和感を覚えた全員がデウスを見た。
「デウス?どうしたの?」
デアの問いかけに闇は口角を上げた。
「今相棒は中から外を見てる。」
そこでデアは察したように眉間を寄せ、闇を睨みつけた。
「デウスを何処へやったの?」
「なに。意識交換ってやつだ。」
闇は呆れた顔でそう言い、ワイバーンを見た。
「とりあえず、あれを片付ける。」
中腰を取り、左手を膝の上に置いた闇。そして、右手を斜め上に上げた。
その右手が何かに侵食されていくように紅黒に代わり、鉤爪に変わった。
「『万物の鉤爪』」
万物の鉤爪。世界の理を覆す鉤爪。理という理を全て覆し、裂く爪。
この鉤爪は稀に持って生まれる者がいる。大抵はモンスターだが、コンマのパーセントで人間に付く時もある。
「万物の、鉤爪。」
「とりあえず動くなよ。お前らを傷つけたら相棒に怒られっからな。」
そう言って闇は背中から翼を生み出し、ワイバーンの元へと飛んで行った。
全員何がなんだか分からなくなってきた。
「おら!」
闇が爪で生きているかも分からないワイバーンを裂いた。
「!!!」
ワイバーンは体に大きな爪痕をつけられ、倒れ込んだ。
目が完全に白目を向き、息さえも聞こえなくなった。
「残りはもう一体だな。」
「ガアアアアアア!」
ワイバーンは翼で闇を攻撃した。
闇は難なくよけ、首を鉤爪で刺した。
「!!!」
もう一体のワイバーンも地面に墜落し、死んだ。
『お前凄いな。』
『お前の相棒だぞ?これぐらい出来なくてどうする。』
闇はデウスと意識を戻した。
デウスは地面に降り立った。
「凄いな。」
アブァリティアが笑いながら近づいてきた。
「これも、闇がいたからだよ。」
デウスは笑ってそう言った。
後ろから援軍が駆けつけた。
「ワイバーンは!」
「もう終わった。」
デウスの言葉に援軍一同が驚いていた。
「これは、助かります。」
援軍大将がそう言い、援軍全員をワイバーンの遺体運びに手を回させた。
「デウス、敵の位置がわかったぞ。」
ビングルの言葉にデウスは頷き、場所を聞いた。
「そうか。チョックラ行ってくるわ。」
デウスは足に闇を宿した。鎧のように固まる闇を軽く動かし、構える。
そして、右足で地面を抉り、勢いよく走り抜けて行った。
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「くっ。作戦失敗だ。」
細暗い路地裏で黒いロングコートを着た男はそう告げ、場を去ろうとした。
そこに何者かが落ちてきた。
大きな音とともに埃をあげる。
男はフードを被っていて、あまり顔が分からない。
「何者だ。」
男は何者かを見て警戒する。
「見てたんだろ。俺たちの戦いを。」
そこ場に立っていたのはデウスだった。
「お前はワイバーンを殺した奴か。面倒臭いことしてくれたな。」
デウスは大剣に手を伸ばした。
「それは、こっちのセリフだ。」
少し大剣を引き抜き、音を立てて鞘に収めた。
男の首に亀裂が入り、血を吹き出した。
「今、なに、を。」
「ペンドラゴン流派。一刀流、瞬獄。」
男は地面に倒れ込み、息を引き取った。
「終わったな。」
大剣から手を離し、男を掴み、外に出た。
意外と戦闘場所から離れてはいたが、そこまで遠くはなかった。
「こいつを預けたらレイシンク国を目指すか。」
デウスはデア達の元に爆速で戻って行った。
一方その頃、デア達は事情聴取をしていた。
「ワイバーンについて問います。先ず、ワイバーンはどこから来たか分かりますか?」
「いいえ。」
デアが全ての問いに答える。
「ワイバーンの呪約にはいつ気づきましたか?」
「首を切ったのにも関わらず、起き上がったので、そこで気づきました。」
「呪約を結んだ者は誰か分かりますか?」
「いいえ。」
「どうやって呪約を解呪しましたか?」
「『万物の鉤爪』で解呪しました。」
「その『万物の鉤爪』とはなんですか?」
「私もよく分かりません。」
「そうですか。では、これで問いを終わります。少しの質問でしたが御協力感謝します。」
「いえいえ。」
事情聴取が終わった時に、デウスが男の腰を掴んで戻ってきた。
「こいつが呪約者だ。もう死んでるけどな。」
男を地面に投げ捨てたデウス。
事情聴取を執り行った戦士が男のフードを外した。
少し歳を重ねている男だった。
「これは、」
戦士は少し言葉を曇らし、男を回収した。
「ありがとうございました。」
戦士は男を持って走って行った。
「さ、そろそろ行く準備でも始めるか。」
「もう準備は要らないんじゃない?」
デアの言葉に一同は頷いた。
「そうか。なら、行こうか。」
デウス達が門に向かおうとした時、一晟が止めた。
「お主ら、どこへ行く気じゃ。」
「レイシンク国だ。ここからは少し離れてるがな。」
「気をつけるんじゃ。」
「……どうして?」
何かを察したデウスは一晟を睨み、問い詰めた。
「今レイシンク国に災禍が振り注ごうとしておる。」
「……」
災禍と聞いて出てくるのはデスペランドーマだけだ。
「今お主らが行けば巻き込まれる。少し待つのがいい。」
「そうか。でも俺達は行く。多分その災禍はデスペランドーマだろう。目的を達成出来るなら俺は躊躇無く行く。俺はデスペランドーマを殺すために旅をしてるからな。」
そう言ってデウス達は門へ向かった。
「まだデスペランドーマかは分からん。それでも行くというのか。」
「あぁ。そこで得られる何かがあるのなら、俺達は行く。」
後ろも振り返らず、デウス達は門を目指した。
一晟もこれ以上追求することもなかった。
次なる目的地、レイシンク国をデウス達は目指した。




