第三十五話 呪約のワイバーン
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部屋に陽の光が差し込み、輝かしい朝がやって来た。
外では鳥の声が聞こえず、龍の鳴き声が響き渡る。
「龍の、声?」
デウスは疑問に思い、起き上がった。
「ガアアアアアアア!」
空に声が反響し、建物を揺らす。
「うおっ!」
起こした体が前に倒れる。
何とか手で地面を押し、体を支える。
「なんだ!?」
デウスは窓を開けた。
デウスの目に映ったのは巨体を持った赤き飛龍だった。
「んだよあれ!」
驚くデウスの後ろでデア達が目を覚ました。
「どうしたの?」
「あれ見てみろよ!」
「ん?」
デウスの驚き様にデアは全く持って理解出来ず、デウスの指差す方向を見た。
「え!?」
目の前の光景にデアも驚いた。
街の中には入っていないが、外で街を見渡して荒く声を上げる飛龍。
「ん?どうした?」
地面に胡座をして眠っていたフローレが目を覚ました。
「いや、あれ見てみろよ!」
「何でそんなに大はしゃぎしてんだよ。」
フローレは立ち上がり、頭を搔きながらデウス達の元に向かった。
フローレは龍の姿を目にし、窓縁を強く叩き握った。
「あれは!ワイバーン!」
ワイバーン。Sランク級の赤き飛龍だ。二足歩行で手に翼が付いている。
主に火山や砂漠に生息するモンスターだ。草原には度々獲物を探しにやってくる。が、街に近づくことはない。何かあったのだろうか。
「誰も戦おうとはしないな。交友関係でもあるのか?」
デウスが疑問に思い、顎に手を当てると、大きな音と揺れが襲いかかった。
「うおっ!」
「きゃっ!」
「おっと!」
三人同時に体勢を崩した。
何とか体勢を整え、外を見た。
「グルウァァァァ!」
家を破壊し始めたワイバーン。全く交友関係ではない。
「あれは止めた方がいいんじゃないのか!?」
デウスはそう言って身を乗り出した。
「おい!危ないぞ!」
フローレの忠告も聞かずにデウスは窓から飛び降りた。
「全く主は!」
フローレもデウスの後を追うように窓から飛び降りた。
「二人とも待って!」
デアも窓から飛び降りた。
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「ガアアアアアアアアアアア!!!」
破壊行為をするワイバーンに手を焼いている戦士がいた。
「どうなってる!」
デウスは走って近づき、状況を聞き出す。
「侵入してきたワイバーンが破壊行為と殺戮をしている!必死に交戦しているが、強過ぎる!」
「「うわあああああ!」」
会話中に数名が吹き飛ばされてきた。地面に激突し、鈍い音と共に息絶えた。
「増援は!」
デウスはさらに問いかけた。
「まだだ!もう少し掛かる!」
そう言って戦士は突撃して行った。
「待て!」
その言葉は戦士に届かず、ワイバーンに吹き飛ばされた。
「殺るしかない。」
デウスが大剣を引き抜こうとした時、それを妨害するかのように手が乗っかった。
「何故止める!」
「ここは私がやるわ。」
干将・莫耶を握るデアが前に出た。デウスは溜息をつき、引き抜きかけていた大剣を戻した。
「なら任せたぞ。呉々も油断するなよ。」
「分かってるわよ。」
デアは走り出した。
その後、フローレが走ってきた。
「お前遅いぞ。」
「お前らが速いんだよ!」
その言葉をデウスは無視し、ワイバーンを見た。
デアはワイバーンの足元を切った。
「ヴヴヴヴヴヴ。」
ワイバーンがデアを睨みつけ、赤く光る口を大きく開き、デアに向けた。
「やばいぞ。」
心配するフローレの隣、腕を組んで黙り込んでいるデウス。
突如、ワイバーンの口から火炎が吹き出た。デアは干将を前に出し、火炎を切り防いだ。
デウスは笑みを零した。
「このモンスター倒しちゃっていいんだよね!」
「あぁ!良いぞ!」
火炎の放射が途切れた直後にデアが炎の中から飛び出した。
「ガアアアアアア!」
翼で叩きかかる。しかし、その攻撃は速度が足りず、デアには当たらなかった。
「はあああ!」
莫耶を振り翳し、首を切りつけた。
「!!!」
ワイバーンは口を最大に開き、舌を出した。気道を切ったため、息が出来ず、血の出血も大量だった。
ワイバーンは地面に倒れ込み、血をぶちまけた。
莫耶に付いた血は消え去った。
「どうだ?手応えは。」
デアに近づき、デウスが問いかける。
「ワイバーンが弱過ぎてよく分からないわ。」
先程吹き飛ばされた戦士が意識を取り戻し、体を起こす。
「君達は、一体なんなんだ。」
「お前と同じ人間さ。」
デウスはそう言って欠伸をした。
そこに走ってくる人影が見えた。何かを持っていた。しかも二つ。
「これを届けに来た。」
少し息の切れた男が鞘を二つ持ったてきた。
「これは?」
「お前らに頼まれてた干将・莫耶の鞘だ。」
その時、デウスは少し驚いていた。
男には武器が干将・莫耶ということを教えていない。それなのに武器名が干将・莫耶だと知っている。
「そうか。貰おう。」
たった一日だけしか経っていないのにもう鞘が出来上がっている。ここまで来ればプロだ。達人の領域を超えている。
重さは中々のもの。
「ほれ!」
「わっ!」
デウスは鞘を二つ投げた。デアは慌てて掴み取った。
「ちょっと!」
「まぁまぁ。入れてみろよ。」
デアは少しデウスを睨んだが、鞘を見た。
白い鞘と黒い鞘。少し装飾が施されている。
デアは干将・莫耶を鞘に入れた。金属の擦れる音が鳴りながら、鞘に収まっていく。
刀が鞘に収まった時、音が無くなった。
「いい鞘ね。」
デアは腰に携えた。右腰と左腰に。
「これで依頼は完了した。じゃあな。」
男は煙草に火をつけて背を向けた。
「助かった!」
デウスがそう言うと、男は後ろを見ずに、ただただ煙草を挟んだ手を上に挙げ、手の甲を見せた。
クールな去り方である。
「俺達も戻るか。」
デウスがそう言い、後ろを向いた。
「全員起きてると思うし、早めに帰るとしますか。」
デウスは走り込みの構えをした。
「あ、待って。」
デアはそう言ったが、デウスは聞かず、走り出した。
物凄い風がデアの髪を揺らした。
「もぅ。」
デアは笑って歩き出した。
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宿に着くと、外にみんな出ていた。
「起きたのか。」
「そりゃああんな揺れ起きたら誰だって目を覚ます。」
ビングルが少し呆れた顔で吐き捨てる。
「で、ワイバーンの方はどうなったんですか?」
バグラが心配そうに聞いてくる。
「片付いたよ。」
デウスはそう言って後ろを向いた。
確かにワイバーンの姿は無く、澄えた空が見える。
「それより、これからどうするの?」
イリビードの問いかけに少しデウスが考える。
「特に行き先も考えてねぇな。」
『なら、レイシンク国はどうだ?』
『レイシンク国?』
レイシンク国。別名聖騎士国。聖騎士になりたい者が多い国、あるいは行きたい国。
「では、レイシンク国、なんてどう、でしょうか。」
不意にイラドゥエトスが発言する。
『これで決定だろ。』
まさか闇と同じ考えの者が居るとは思わなかった。
「このあとどうするの?」
後ろから声が聞こえた。デウスは振り返る。
両腰に黒白の太刀を携えたデアの姿と難いがいいフローレの姿があった。
「あぁ。レイシンク国に行くことになった。」
その言葉を聞き、デアは少し暗い顔をした。
「…………そう。」
乗り気ではない様子だが、何故なのかは理解出来ない。
「どうした?レイシンク国に未練でもあったか?」
「違うわよ。それに未練があったら行くことに積極的になるわよ。」
「そうか。」
デウスは頭を搔いた。
「ガアアアアアア!」
地面が揺れ、地響きがなり、モンスターの声が宙を舞う。
「なんだ?新しいワイバーンか?」
デウスがそう言って前方を遠く見た。その光景を見て、デウスは目を見開き、口を開いた。
「いいえ、あれは!」
大きな巨体を持ち、こちらを睨みつけるワイバーン。そのワイバーンは首から大量に血を流し、切り裂かれていた。
「私が切った、ワイバーン。」
全員が唖然としていた。
「グラアアアアアアアアアアアアア!」
その咆哮は風を暴走させ、まっすぐと銃弾のように飛び交った。
その咆哮がデウスに攻撃を与えた。
「どわ!」
腹を貫かれ、後ろに吹き飛ぶ。
宿屋に背中から激突し、壁が半壊した。
「どうなっとるんじゃ!」
宿屋の店主が慌てて出てきた。
「おい!お前さん、大丈夫なのか!?」
腹から溢れるほどの血を放出し、口からは真っ赤な血が流れる。
「店主さん、早く、逃げろ。」
血が溢れる体をどうにか瓦礫を掴んで起き上がる。
「大丈夫か。デウス。」
「これは、やばいな。」
体を起こすデウスにデアが莫耶を突き刺した。
「かはっ!」
「おいデア!」
デウスを心配して近づいたヘルトがデアにキレる。
「大丈夫。」
デアはそう言い、莫耶を引き抜いた。
傷は瞬時に癒えた。
「済まない。デア。」
「いいわよ。礼なんて。それより、」
「あぁ。あれは呪約だ。」
呪約。あるものと契約を結んだモンスターが契約者にかけられる呪文だ。
決して逆らわぬように呪いをかける。惨いことだが、こうしなければ反逆してくる。
しかし、それともう一つ呪約には効果が存在する。
モンスターの生命の灯火を操る。
例えモンスターが死のうと、呪約をしていれば自由自在に生死を操れるということ。
「あれは厄介だぞ。」
「どうしてだ?もう一度殺せばいいだけだろ。」
アサルトライフルを構えるビングルにデウスは肩を掴み、首を横に振った。
それを見たビングルはアサルトライフルを下ろした。
「奴を殺すには呪約を解除しなければならない。例え身体を細切れにしても動く。」
近くで必ず操縦者が居るとデウスは仮定した。
呪約を解除すれば操縦者の正確な位置と距離を確認出来る。
「この中で解呪出来るものはいるか?」
デウスが聞くが、誰も名乗りを上げない。
「私が出来る。」
一人名乗りを上げた。それは少し歳をとった老人だった。
「店主さん。危ないから辞めてくれ。」
「どっち道もう長くない。ならこの命を使ってこの国を救おうじゃないか。」
その決意はただの感情ではない。心の八巻をキツく締め、デウス達を真相している。信頼と根性が篭った決意だった。
「分かった。でも、チャンスは一度きりだ。ミスをすれば死ぬ。いいな。」
「お前さんが好機を作ってくれたら失敗はしない。」
店主は店の奥から武器を引き抜いてきた。
「これは私の神器だ。」
リーチは決して長くはないが、その武器からは周波を感じられる。
「なら行くぞ。コクホウ国での最後の大仕事だ。気引き締めろよお前ら!」
「おう!」
「えぇ!」
「了解よ!」
「わかったわ!」
「私も頑張る!」
「ミスんじゃねぇぞ!」
「全力で援護する!」
「はい!」
「了解!」
「おう!」
「はいっ!」
「解呪は任せろ!」
全員武器を手に取り、ワイバーンに近づいて行った。




