第三十三話 信じるべき者
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デウスは急いであるものを探しに行った。
『相棒!あれの場所は分かるか!?』
『少し待ちな。今探知してる。』
デウスの中に眠る相棒は聖剣や魔剣を探知することが出来る。
ここまで言えばデウスが何を探しているか。想像がつくだろう。
そう、武器を探している。それも特定のものを。
『見つけたぞ。ここから二時の方向に五キロ。地面の下だ。』
『よし来た!』
デウスは闇を背中から生み出し、空に飛んだ。
レーヴァテインの炎に唯一対抗出来る武器がある。その武器こそ、デウスが探している代物だ。
デウスが探している武器は、伝説の太刀双剣。干将・莫耶だ。
溶岩に投げ込まれてもその身は溶けず顕在する。そう言う言い伝えがある。
干将・莫耶はあらゆる炎や溶岩に絶対的な耐性を持つ太刀双剣。
その刀刃は炎を打ち払い、聖水を齎すとされている。
干将・莫耶は聖剣にも魔剣にも属さない武器だ。聖魔剣、魔聖剣でもない。かと言って、神器という部類でもない。
この干将・莫耶は誰一人として見たことは無い。聖の泉と書いて聖泉と言う泉で作られたとされている。
世界は干将・莫耶の武器ランクを四十中間と解釈している。だが、本物はそれほど低くない。
危険殺戮武器にも、準危険殺戮武器にも登録されていない武器だが、それなりの脅威ではあるだろう。
距離は五キロ。デウスにしては容易い距離だ。
『本当に良いのか?』
『何がだ?』
『多分闇を要する相棒には心を向けないと思うが、』
『分かってくれるはずだ。』
そう信じてデウスは突き進んだ。
干将・莫耶以外もそうだが、聖剣や魔剣、神器、その他の武器には全て感情が宿る。
それが気がかりになる。
干将・莫耶は清らかな心を持つものにしか持つことが出来ない武器。
闇を要する状態で障れるなんて以ての外だ。
飛んで約二分が経過している。
距離にしてあと一キロを切っている。
やはり、不安が募る。
干将・莫耶が心を打ち解けてくれるか。デアは今大丈夫だろうか。そんなことが頭を過る。
『もう考えるな。着いたぞ。この下だ。』
デウスはその地に降り立った。
相棒の話だと下にあると言っていたが、干将・莫耶は目の前に刺さっていた。
草が生い茂る中、一部分だけが異常に草が生えていない。
円を描くように草のないエリアの真ん中には黒の太刀と白の太刀が交差して突き刺さっていた。
「あった。干将・莫耶だ。」
デウスが近づくと、何か重石を付けられたみたいに体が重くなった。
「なんだ、これは。」
干将・莫耶は重力や風で感情を表現出来る。
今干将・莫耶はデウスのことを拒絶しているのだ。
デウスが近づくにつれ、重力が強くなり、拒絶力が上がる。
「なんでだよっ!」
その時、隣から唸るような声が聞こえた。
「ガルルルル。」
デウスはゆっくりと隣を見た。
そこにはベンガルタイガーが喉を鳴らして立っていた。
「どうしてベンガルタイガーがここにっ!」
通常ベンガルタイガーは沼地や密林に生息している。草原に身を自ら投げ出すなどあるわけが無い。
なのに、このベンガルタイガーは草原に身を自ら投げ出している。
「くそっ!」
デウスは大剣を抜き出した。
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ベンガルタイガーが先手を取った。
鉤爪でデウスを攻撃する。
何とか体を慣らしたデウスは腕を動かし、鉤爪を止めた。
「ガアアアア!」
ベンガルタイガーは力を込めたが、デウスの力の方が上だったようだ。ベンガルタイガーは弾き返された。
「やああああ!」
デウスはベンガルタイガーに斬りかかった。しかし、その瞬間、強風が吹き荒れ、デウスを大剣ごと撫で返した。
干将・莫耶がベンガルタイガーの味方をしているようだ。
「ガアアアア!」
ベンガルタイガーは鉤爪でデウスを攻撃した。
腹を裂かれ、血を吹き出すデウス。
「ぐあっ!」
そのままベンガルタイガーは追い討ちをかけ、デウスの右肩に噛み付いた。
「ぐあああ!」
デウスは体を何とか支えた。
「俺にだって、人を助ける権利はある。どれだけ体が汚れていようと、救う心がある。抗う体も、諦めない心も、俺にはまだある。だから、俺は何度でも抗い続ける。例えこの体が尽きたって!俺は抗い続ける!」
デウスは力を振り絞り、大剣をベンガルタイガーの首元に振り下ろした。
ベンガルタイガーの首と体は分離し、切り口からは大量の血を吹き出す。
デウスはベンガルタイガーの頭を外した。
勝利したデウスだったが、重力で血の吹き出る量が半端ではない。
干将・莫耶の力で再生を止められている。
そのままデウスは倒れ込んでしまった。
右手を伸ばし、干将・莫耶に近づく。
しかし、重力は無残にかかるばかり。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
息が荒くなってきた。
意識も段々と薄れ、目を開けるのがしんどくなってきた。
体が冷めていくのが分かる。どんどん冷たくなっていく。
デウスは目を瞑った。
暗闇にまだ差し込む微かな光をデウスは追いかけた。
掴み取れそうもない光をただただ追いかけた。
何時しか光は薄れていた。デウスはその時、足を止め、追うのを辞めた。
『諦めるのか?』
『あぁ。これ以上追いかけても無駄なだけだ。』
『そうか。ここでお別れだな。』
闇の相棒は悲しげにそう告げる。
『そうだな。たった数日間だったけど、世話になったな。』
デウスは光を見ながら涙を流した。
『ゴメンなデア。』
デウスはそう告げ、暗闇の中で涙を拭い、目を瞑った。
しかし、光が消えない。
デウスは目を開いた。
『光が消えない。』
デウスは疑問に思っていた。もう消えたっておかしくはないはず。なのに光は一向に消えようとしない。
いや、光はどんどん強まっている。
『どういうことだっ!』
何時しかデウスは光に包まれていた。
光の眩しさをかき消してデウスはゆっくりと目を開いた。
「起きたのね。」
弱々しくも聞き覚えのある声が聞こえた。
デウスの隣に座り込んでいたのはデアだった。
「デア。どう、して。」
「私がフローレさんに頼んでデウスの所まで連れてって欲しいって言ったの。」
「デア。お前は、病室でゆっくり、寝てれば、いいんだ。」
その言葉の後、デウスは目を大きく見開いた。
デアが涙を流していた。デウスの左手を握り締めて。
「何言ってんのよ。どうしてそう何回も死のうとするのよ。少しは私を頼ってよ。」
デアは自分の愚かさを悔やみ、そして嘆いた。
「ごめん。でも、ありがとう。」
「とりあえずこれ飲んで。」
デアがデウスの体を仰向けにし、紅い液体を飲ませた。
傷がどんどん薄れていった。
回復薬だ。しかも、純度の高い回復薬。
デウスは未だに体を起こせなかった。
「デアはあの干将・莫耶を手に取るんだ。」
「どうしてデウスは取らないの?」
涙を拭い、デアがデウスに問いかけた。
「俺は拒絶されるから、取れないんだよ。」
デウスがそう説明すると、デアは頷いた。
「分かったわ。」
デアはフラフラとした状態で立ち上がった。
立つのもやっとのデアなのに、立ち上がる。
「お前は拒絶されてないのか。」
デウスは力を振り絞り、立ち上がった。
だが、体が少し曲がった状態である。
デアが近づいていると、白の太刀がカタカタと動き始めた。
「なんだ。」
デウスは少し警戒した。
地面から抜き出された白の太刀はデアに刃を向けた。
その時、鈍い音と共にデアの体を白の太刀が貫いた。
「ぶはっ!」
口から血を吐き出したデア。
デウスは驚愕していた。
「デア!」
白の太刀はデアの体からは抜き出され、デアの目の前に突き刺さった。
「あれ?」
デアはそこで気づいた。
白の太刀に貫かれた傷が無く、体が軽い。
いつの間にかデウスにかかっていた重力も解けていた。
「どうなってるんだ。」
干将・莫耶の特性の一つに修復の癒えというものがある。
体を貫いても、傷は残らず、即座に癒え、体にあった負担や疲れを全て消すという特性だ。
デアは白の太刀を抜き出した。
白の太刀をデアが持った途端、黒の太刀がデアの左手に飛んできた。
デアは黒の太刀を掴み取った。
右手に白の太刀、左手に黒の太刀。デアは干将・莫耶を手にした。
「よかった。」
デウスは地面に倒れ込んだ。
「デウス!」
デアは近づいた。
デウスは手を押し出すように出し、言葉を発した。
「大丈夫だ。一気に体の力が抜けただけだ。」
デウスは体を起こし、座った。
「デウス。次からは一人で無茶しないで。私達は赤の他人じゃないんだから。」
「あぁ。そうするよ。」
デウスは大剣を拾い上げ、革鞘に収めた。
「戻ろっか。」
「あぁ。」
デウスは立ち上がった。
「二人共。終わったか?」
待ちくたびれたと言わんばかりにフローレが立ち尽くしていた。
「終わったよ。」
デアがフローレに歩み寄った。
デウスは鼻でため息をついた。
『相棒。とりあえず良かったな。』
闇が笑ってそう言った。
『お前もな。』
デウスはデア達の元へ歩き出した。
「帰ろ!」
「おう。」
デアの言葉に笑顔で答えたデウス。
フローレも呆れた顔で笑みを零していた。
『これからもよろしくな!相棒!』
『あぁ!』
闇は元気に返事をした。
デウスは闇を発動し、翼を生やした。
フローレは龍に変化し、デアを乗せた。
デウスとフローレは同時に飛び立ち、コウホウ国へと戻った。




