第二十九話 戻りし英雄
✣ ✣ ✣
ぶつかり合う魔剣と聖魔剣。
紅き燃えるような魔剣、レーヴァテインと闇を破り去り、エクスカリバーのような清々とした黒き聖魔剣、カラドボルグ。
ぶつかってはならない剣がふたつぶつかり合っている。
それを握るのはゾルドリオとデウスだ。
「俺ヲ殺シタ時ヨリ弱クナッテルナ。ソンナニ俺ノ仲間トノ戦イガ辛カッタノカ?」
「黙れ。貴様の仲間なんかに追い詰められてたまるか。」
「いや、押されてたぞ。デウス。」
ビングルがそう言ってデウスが笑う。
「ヤッパリ押サレテタンジャネェカ!」
デウスはそう言ってレーヴァテインを上に弾き腹に斬りかかった。
それを何とか後方へ躱したゾルドリオ。
「手加減してやってんだよ。」
「敵ニ情ヲ抱クカ。随分偉ソウニナッタナ。」
デウスはカラドボルグを右手に虎ノ威を見せる。
「我は魔物じゃないぞ。」
ゾルドリオはレーヴァテインを右手に突撃した。
ゾルドリオがデウスを通りすぎ、斬ったと構えた。
デウスは構えを変えず、ずっと前を見ていた。デア達はゾルドリオにデウスが斬られたと錯覚していた。
ゾルドリオの体が二つに斬り裂かれた。
それに一番驚いたのがゾルドリオだった。
再生し、すぐ様デウスを見た。
「今、斬ったはず。如何して斬られていない。それに、我の体をどうやって斬った。」
デウスは普通の立ち姿になり、ゾルドリオを見た。
「簡単ナ話ダ。オ前ノ攻撃ヲ受ケテカラ斬ッタンダヨ。」
「そんなことただの人間が出来るはずがない。」
デウスは闇をカラドボルグに移し、顔を出して微笑んだ。
「俺ハ人間ジャネェカラナ。」
その言葉にその場の全員が驚愕した。
人間ではない。意味がわからない。
「デウスは、人間だろ?」
ビングルが少し驚きながら聞いた。デウスは笑って返答を返した。
「俺ハ災皇ノ子供ナンダヨ。」
「何言ってんだよ。お前は、ペンドラゴンの子供じゃないのか?」
「アァ。俺ハ確カニペンドラゴンノ血ヲ受ケ継イデル。」
「なら、」
「ダカラコソダヨ。」
ビングルの質問は止まった。ゾルドリオも唖然としている。
デウスは話した。『不制御狂乱暴君者』が切れたタイミングで。
「姉さんが全て明かしてくれたよ。俺が災皇の子供だってことも。」
「いつ、教えられたの?」
イリビードが問いただした。
デウスは顔色ひとつ変えずに冷静に回答した。
「俺がエクスカリバーを探しに行く時、姉さんが手紙を書いていた。今回の戦いで死ぬことが分かっていたんだろう。それを読んで俺は災皇の子供だと知ったんだ。」
「嫌じゃないの?」
「そりゃあ最初は嫌だったさ。でも戦いやすくはなった。人間なら死を気にして戦わなきゃならないけど、災皇の息子なら大抵の攻撃は受けても再生する。多分、コクド達がその力を発揮させてくれたんだろう。」
デウスは笑ってカラドボルグをゾルドリオに向けた。
「俺がお前と同じ魔神族なら、もう死を躊躇うことは無い。全力でお前を殺しにかかれる。」
ゾルドリオはレーヴァテインをぐっと握り締め、剣幕を悪くした。
「なら教えてやろう。魔神族は固定数死ぬか燃え尽きれば死ぬ。ならば話はまとまる。このレーヴァテインで貴様を焼き尽くしてくれる!」
ゾルドリオは地面を蹴り、デウスに接近した。
デウスはカラドボルグを向けたまま動かない。
「死ねぇ!」
ゾルドリオは燃え盛るレーヴァテインをデウスに振り下ろした。
デウスの腹にレーヴァテインが突き刺さり、炎が蔓延する。
「このまま焼け尽きろ!」
「ぶはっ。」
デウスは口から血を吐き出した。
「避けもしないとは、死ぬ気満々ではないか!」
ゾルドリオの言葉に反応するようにデウスの手が動いた。
ゾルドリオの右手を強く握り締めた。
「なに!?」
デウスは薄く笑いながらゾルドリオの右手ごとレーヴァテインを抜いた。
レーヴァテインが抜けた腹からは血が吹き出た。
しかし、その腹に炎の跡はなく、焦げた皮膚さえ無かった。
「何故だ。何故燃えて死なない!」
ゾルドリオは怒るように問いかけた。
デウスは冷静に回答した。
「俺の特性だよ。」
「特性だと!?」
特性とは、その者の身に産まれた頃から備わっているスキルのようなもの。
デウスの特性は絶炎。炎や火への絶対なる耐性を持つ。例え体を燃やされようと炎は消え去り、焦げることすらない。
デウスの傷口は瞬時に塞がった。
「神だの魔神だのうるせぇんだよ。なら全て俺が壊す。例え貴様らのような強敵が来ようとな!」
デウスはカラドボルグを脳天へ突き刺した。
ゾルドリオの脳天にカラドボルグが突き刺さり、柄を血が伝う。
「なら教えてやる。貴様が何と戦おうとしているかを!」
ゾルドリオは後ろに体を少し傾け、脳天からカラドボルグを抜き、左下をくぐり抜け、デウスにレーヴァテインを振った。
デウスはジャンプして避け、カラドボルグを振り下ろした。
「その態度が、気に食わねぇ!」
カラドボルグはゾルドリオの頭をカチ割った。
デウスは即座にカラドボルグを頭から抜き取り、後方へ大きく飛んだ。
「私達も助太刀するわ。」
覊繃の効果が切れて動けるようになったデア達が助太刀に立ち上がった。
「デウス。これを返すわ。」
そう言ってデアはデウスに大きなものを投げ飛ばした。
デウスはそれを掴み取った。
掴み慣れた感覚と重み、それでいて微かに熱を感じる。熱が脈打ち、まるで生きているようだ。
「俺の大剣か。」
デアが投げ飛ばしたのはデウスの大剣、龍鱗だった。
「助かる。やっぱりこいつが一番だな。」
デウスは大剣の龍鱗と片手剣のカラドボルグを持ち、ゾルドリオを見た。
「これで全て揃った。貴様を打つ準備は終わらしたぞ。本気だ。魔神族なら気合いだせ!」
その言葉にゾルドリオは目が覚めたように笑った。
「久しく忘れていたようだ。戦いの高揚感というものを。我も本気だ。餓鬼だからって容赦しねぇぞ!」
ゾルドリオは地面を蹴り、デウスに急接近した。
デウスは龍鱗を上に上げ、カラドボルグを横に倒し、ゾルドリオを両方から攻め入った。
✣ ✣ ✣
ゾルドリオのレーヴァテインとデウスの龍鱗とカラドボルグが衝突し合う。
大きな金属音を立てて、火花を散らす。
「はああああ!」
覊惹で硬化させた左腕で防いでいたカラドボルグを弾き返し、大剣を防ぎながらデウスを蹴り上げた。
「ぐあっ!」
デウスは顎を蹴り上げられ、上に打ち上げられた。
ゾルドリオは好機を逃さまいとジャンプしようとしたが、デアに止められた。
「行かせないわよ。」
「人間が!」
ゾルドリオはレーヴァテインでデアを攻撃した。
しかし、その刃はデアに当たることなく刀に流された。
「やあああ!」
刀はレーヴァテインを流れ、ゾルドリオの胸元を切りつけた。
「くっ!」
ゾルドリオは後方に下がり、体勢を整えた。
しかし、その行動は仇となる。
カラドボルグがゾルドリオの腹を貫いた。
「がはっ!」
カラドボルグが刺さった衝撃が強すぎてそのままデウスの腕まで腹を貫いた。
「うおっ!びっくりしたぁ。」
肘までゾルドリオの腹を貫いた。
腹はデウスの腕がある状態で再生した。
「なんだこれ、動かねぇ。」
デウスの腕は全く動かない。
「捕まえたぞ。」
ゾルドリオはそう言ってレーヴァテインを高々と上げた。
デウスはカラドボルグを持ち変え、向きを変えた。
真っ直ぐに向いていたカラドボルグをこちら側に向け、勢いよく突き刺した。
「がっ!」
その勢いで腕も抜けた。
「よし、抜けた。」
血のついた腕を見てデウスは少し眉を寄せた。
「汚ぇな。」
流石に汚い。
ゾルドリオは体の再生完了と共にデウスに襲いかかった。
「はああああ!」
それに気づいたデウスは即座に横に避けた。
それに対応出来なかったゾルドリオは地面を攻撃した。
「オラアアア!」
デウスはカラドボルグを横腹から突き刺した。
ゾルドリオは何とか反応し、カラドボルグを躱した。
「今のを避けるか。」
「無駄口叩く暇あんのか!?」
ゾルドリオはレーヴァテインを横に振った。
デウスは龍鱗で受け、カラドボルグを振り下ろした。
それを覊惹で硬化させた左手で防いだ。
「くそっ。」
「はあああ!」
ゾルドリオはデウスごと剣を弾いた。
体勢を大きく崩したデウスはよろめきながら後ろに下がる。
「これで終わりだ!」
ゾルドリオはレーヴァテインをデウスの首元目掛けて勢いよく押し出した。
「やられるか!」
デウスは龍鱗でレーヴァテインを防ぎ、カラドボルグでゾルドリオの心臓を突いた。
突かれた心臓の裏側からは波動が波打つ。
「!!!」
言葉にならない声で痛みを表現する。
デウスはカラドボルグを抜き、ゾルドリオを蹴った。
ゾルドリオは後ろに飛ばされ、地面を転がった。
「どうだ!」
デウスは自信満々にそう言った。
「ははははは。」
ゾルドリオは笑いながら立ち上がった。
「久々の楽しい戦いだったよ。」
デウスは目を疑った。
ゾルドリオの胸部の傷が治らない。
「貴様はもしかすればあの方も殺せるのかもしれない。」
ゾルドリオの口から血が垂れ、顎から滴として地に落ちる。
「認めよう。その強さ。お陰で楽しめたよ。」
そう言ってゾルドリオはレーヴァテインで自らを貫いた。
炎が燃え広がり、ゾルドリオを包む。
「待て!お前には聞きたいことが!」
「それも叶わぬ。我は自らを貫かずともあと数分で血流が停止し死んでいる。この戦い、貴様らの勝ちだ。」
そう言ってゾルドリオは笑みを浮かべた。
レーヴァテインの炎はゾルドリオを紅く包み込み、炎が消え去る頃には灰として風に吹かれた。
「漸く終わったか。」
デウスはため息をついた。
「生きてて嬉しいよ。」
デウスの隣に立つデア。
「悪いな。何度も死んじまって。」
「良いのよ。今こうして生きてるんだし。」
「ま、そうかもな。」
デウスが龍鱗を背に収めた時、後ろの方から声が聞こえた。
「争いは終わった!今夜は宴だ!」
その言葉に戦士達が喜びの声を上げた。
「君達も参加するといい。今回の英雄なのだからな。」
一人の剣士がそう告げた。
デウスは薄く笑った。
「どうかした?」
デアの問いかけにデウスは笑みを浮かべた顔で返答した。
「いや、なんでもない。」
デウスはそう言って歩き出した。
「この際だし、宴に参加するとしますか。」
デウスの言葉にデア達一同は大賛成の声を上げた。




