第二十六話 覊鏖バーサーカー
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左眼から赤い光を放ち、光を引きづる。暴走状態というより狂気状態とでも言おう。
誰も止めることの出来ない怪物的能力を有するデウス。
その赤き光の放つ眼は敵を狙い、見定め、紛らわし、屠るもの。
「くそ!この我の左腕をよくも切り落としてくれたな!外道!」
「ナントデモ言エ。貴様ハ俺ノ逆鱗ニ触レタ。絶対殺シテヤル。」
一欠片の手加減もなし。一言の哀れもなし。ただデウスの出来ること。ジャンヌの仇としてゾルドリオをこの世から抹殺することだけ。
「神の座に近い魔神族を敵に回したことがどんなことか分かってるのか!」
「ソレガナンダッテンダ!」
その勢いはあらゆるものを揺るがす。
「元ヨリ貴様ラヲ殺スツモリナンダ。タッタ一人ノ貴様ガドウ言オウト知ッタコトジャネェ!」
デウスは大剣を強く握った。
「どうなっても知らんぞ!人間風情が!」
「来イ!叩キ潰シテヤル!」
ゾルドリオの鎌は血を撒き散らしながらデウスに襲いかかった。
デウスは軽々躱し、腹を蹴飛ばした。
ゾルドリオは後方へ凄い速度で飛んだ。デウスは歩いて近づいた。
「主のあの姿は、一体。」
長年生きているフローレも見たことない姿。
アルサーにも見られなかった姿だ。
ゾルドリオは地面を転がり、滑った。
「ぐ、ぐぐ。」
何とか滑る体を止める。
「覊鏖の力。これは、強敵だ。」
ゾルドリオは左腕に力を入れた。今ない左腕だが、切り口から何かが出てきた。
ゆっくりと腕の形に変化していく。
完全に腕の形になり、色が変化し、左腕は再生した。
「治ルノカ。早メニ言ッテ欲シカッタヨ。ソレナラ遠慮ナク首ヲ跳ネ飛バシテタノニ。」
人間としての道を外れ、怪物のようになってしまったデウス。変わり果てた姿。それはまさに傲慢の罪龍のように。
「神ヲ殺スノガ今ノ俺ノヤルベキ事ダ。」
殺しは時に人を助ける。死は時に人を楽園に貶める。幸せは時に、人を蝕み、喰い噛み、殺す。
今のデウスには幸せなどもとよりない。有るのは殺すという執念。神にも立ち向かうという威勢と根性。それを実行するほどの力。
デウスのタイムリミットは残り五十四分。この時間が過ぎれば『不制御狂乱暴君者』の力は切れる。
闇の扱いも難しくなる。
デウスは残り五十四分の間で蹴りをつけなければならない。
その時間を過ぎてゾルドリオが生きていれば、デウスは。
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金属と金属が重なり合い、音を響かせる。
「早く死ね!」
「ソウ簡単ニ死ネナインデネ!」
ゾルドリオとデウスは武器を弾いたり弾き返したりしている。
金属のぶつかる速度によって音や響き方が変わる。
ゾルドリオが力強く鎌を振った。デウスは防いだが、衝撃が走り、後ろに飛ばされた。
デウスはバク転をし、立った。
「少シ借リルゾ。デア。」
デウスはデアの刀を取った。
意識がないデアは何も言わない。微動打にしない。
「二刀流とはまた過ぎた真似を。」
「過ギタ真似ジャナイサ。」
大剣と刀を持ち、構える。
その姿はまるでジャンヌのようだ。
「死んだ女みたいだな。無様だぞ。」
「ソウカ。ナラ知ルガイイ。オ前ガ無様ダト馬鹿ニシタコトガ間違イダッタトイウコトヲナ。」
デウスは地面を抉り壊し、ゾルドリオに突撃した。
ゾルドリオの鎌は最上位鉱物以外を防ぐことが出来る。
デウスの大剣とデアの太刀がゾルドリオの鎌を砕いた。
「なに!?」
「ハアアアアアア!」
デウスの大剣はゾルドリオの胸を切り付け、引き摺った。
血を壮大に吹き出し、後方へ切り飛ばされたゾルドリオ。ズザズザと地面を擦れる音を出す。
「どうして、最上位鉱物以外の鉱物との衝突では砕けないはずの鎌が、何故。」
「ソンナモノタダノ飾リニ過ギナイ。」
そう言ってデウスは血のついた大剣を振り、血を飛ばし落とした。
「歴とした、鎌の効果だぞ。それを飾りと言うのか。」
「アァ。言ウサ。コノ世ニ奇跡ガ有ル限リナ。」
デウスは歩みだした。ゾルドリオとの距離を、攻撃できる距離まで縮めるため。
鎌を失ったゾルドリオはデウスからすればただの魔物。
大剣で真っ二つに叩き斬るだけだ。
デウスは今身につけている闇の防具を大剣に集中させ、最悪の大剣を生み出した。
闇の邪気を放ち、全てを切り裂きそうだ。
「コイツデ殺ス。」
ゾルドリオは血の気が引き、その場から逃げ出しそうになった。
しかし、考えた。ゾルドリオの指名はデウスの排除。殺すまで戻っては行けない。ましてや敵前逃亡なんて。魔神族の恥だ。
ゾルドリオは闇で武器を作り出した。
「その武器に相当する武器は作れない。だが、貴様の心臓を貫く武器なら作れる!」
ゾルドリオはデウスに襲いかかった。
鎌形の闇をデウスに突き立てたが、デウスの大剣に打ち消された。
武器は闇の力を使うことによって最終形態へと進化する。
ひとつの刃こぼれもなし。刃が砕けることもない。覊凝で生み出した武器も覊鏖の力を纏った闇の武器と対等に戦えることも出来ない。
それはもう聖剣や魔剣、神器に相当するものだ。
「首ハ貰ッタゾ。」
デウスの大剣はゾルドリオの首を跳ね飛ばした。
血が吹き出る。地面やデウスを濡らす赤き液体。
しかし、ゾルドリオの首の付け根から新しい顔が生まれた。
「くそ。どうすれば。」
ゾルドリオはデウスから距離を取った。
デウスは大剣を右手に構えた。
その姿は獲物を狩る虎のようだ。
大剣から赤黒い炎が出てきた。それは大剣を包むように大剣を覆った。
大剣の形をしたまま燃え盛る漆黒の炎。
斬られたら燃え尽きて灰になってしまう可能性がある。
「次ハ焼キ尽クシテクレル。」
ゾルドリオは考えた。
覊凝で作り出した武器は使えない。かと言って覊鏖の力は持っていない。
対策方法が全く掴めない。
左手にデアの太刀。右手に大剣を握るデウス。
『あれを使うしかないのか。』
結果的に見出した答えはひとつ。
魔神王から携わったものを使うこと。
ゾルドリオは最初から何かあると感じていた魔神王からあるものを携わっていた。
そのものの名は【烈火豪鬼炎愁剣】。略してレーヴァテイン。
魔剣に当たる神の剣。
全てを焼き尽くし、世界の終末を表す幻滅せし豪剣。
炎を使わずともデウスの大剣と同等の力を持つレーバテイン。同じ炎のため、大剣に焼き消される心配はない。
しかし、レーヴァテインを使えば代償がゾルドリオを襲う。
魔剣にはそれ相応の代償が伴う。
レーバテインの代償は″死″。
一度死ぬことが条件だ。だが、魔神族は何度でも死ねる。
たかが一度の死は安いものだ。
「これで貴様を排除する。」
フローレはゾルドリオの出したレーバテインを見て、デウスに大声で忠告した。
「逃げろ!主!それは危険だ!」
フローレの忠告にデウスは微笑んだ。
「大丈夫ダ。スグニ終ワラセル。」
体を動かせないフローレは声で伝えるしか無かった。しかし、それさえも無理ならデウスを止めることはもう出来ない。
イリビードもビングルもデウスを見ている。
デウスは気絶しているデアに近づかないようにしている。
「覚悟しろ!」
「ソレモブッタ斬ッテヤル。」
龍鱗とレーヴァテインが衝突し合った。
大きな金属音を響かせ、ジリジリと粘る。
「このまま押し切ってお前を排除してやる。」
「先ニ死ヌノハオ前ダ。」
両者一歩も譲らない。
デウスが力を入れた。
「ハアアアアア!」
レーバテインをゾルドリオごと後ろに飛ばした。
ゾルドリオはバランスを崩し、後方に体重がのしかかる。
「うおっ!」
それを見てデウスはゾルドリオに畳み掛けた。
大剣の剣先をゾルドリオに向け、腕ごと上に引っ張った。
「モウ一度死ネ。」
振るい下ろされた大剣はレーヴァテインに止められた。
「アノ体勢カラッ!」
「なめるな!」
ゾルドリオは左足を引き、体を支えた。
ゾルドリオはデウスの攻撃を返し、体勢を整えながら押し返した。
「ぐおあああああ!」
「凄イ力ダナ。」
押されながらデウスは当たり前のことを言った。
ゾルドリオはデウスの大剣を弾き、横から平行に切りつけた。
「はあああああ!」
ゾルドリオの攻撃はデウスの大剣に止められた。
本の数十センチの間に大剣を入れ、相手の攻撃を受ける。
高等技術であり、出来るものは限られている。
「危ネェ。」
顔には出していなかったが、内心焦っていたデウス。
失敗すれば上半身と下半身が分かれてしまう。
ゾルドリオは押し切ろうとした。デウスは地面に大剣を刺した。
その力によって、ゾルドリオがレーヴァテインごと宙に浮かされた。
「なにっ!?」
デウスはゾルドリオを蹴飛ばした。
ゾルドリオは地面を擦れ、転がり、やがて止まった。
力を振り絞って立ち上がるゾルドリオ。
「ソロソロ幕引キノ時間ダ。」
デウスは太刀をゾルドリオに向けた。
「なめるなよ、人間!」
ゾルドリオはレーヴァテインを手に取った。
ゾルドリオとデウスは同時に地面を蹴り、急接近し合った。
大剣とレーヴァテインがぶつかり合い、弾き合う。金属の音を響かせ、音を奏でる。
「ハアアアアア!」
デウスの大剣はゾルドリオの首元を狙った。しかし、ゾルドリオはそれを予知し、しゃがんで躱した。
ゾルドリオはレーヴァテインを至近距離で構え、突き刺すようにしてデウスに向けられた。
『ヤバイ!』
デウスは急いで大剣を使い、防ごうとした。
しかし、間に合うはずも無く、レーヴァテインはデウスの心臓を貫いた。
デウスは口から血を吐き出した。
「がはっ!」
「終わりだ。」
デウスの心臓からレーヴァテインを抜き出し、倒れ込むゾルドリオ。
それに続いて横に倒れ込んだデウス。
『不制御狂乱暴君者』の能力は消えた。
「くそっ。負けたか。もう一、度これを託す。フローレ達、を頼んだぞ。デア。」
最後の力を振り絞り、契約紋章をデウスからデアに移し、息を引き取った。
「主ー!」
「「「デウスー!」」」
デア以外の全員が叫んだ。
ゾルドリオはデウスを退けて一人起きあがった。
「次は貴様らだ。二日後!またここに来る!次は貴様らと街を破壊する!それまで精々死ぬ覚悟を決めておけ!」
ゾルドリオは空に消えていった。
デウスは大量の血を出していた。死んでいるのに、溢れ出る血。
それは、この世に残した悔いと悲しさと愛情だった。




