第二十五話 死が滲む
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雷が地面を崩す。
ゾルドリオの鎌の重さは怪物級だ。攻撃されただけで分かる。
「はああああ!」
デウスは大剣を前方に押し出し、ゾルドリオを押す。
「力を持っているな。」
後ろに押されながらも笑っているゾルドリオ。
「こんなもんじゃない!」
デウスは休むことなく攻撃を与えた。しかし、全て防がれてしまう。
金属同士が弾け合う音が鳴る。
デウスは一度距離を離すためにゾルドリオの腹部を蹴ろうとした。
しかし、その足はもう片方の左手に止められてしまった。
「くっ。」
「これぐらい分からないとでも思ったのか?」
嘲笑うかのように上から目線のゾルドリオ。デウスの足を掴んだままゾルドリオは鎌を振り下ろした。
ゾルドリオからの初めての攻撃だった。
デウスは大剣で防いだ。しかし、大剣と鎌が交わった途端、ヘビー級の重さがのしかかった。
デウスは両手を使い、防ぐ。
「もう無理なのか?早いな。」
片手のみでこの威力、もしゾルドリオが両手を使っているとと思うと恐怖が覆い被さる。
ゾルドリオはデウスの足を掴んでいる左足を上にあげ、地面に叩きつけた。
デウスは軽々持ち上げられ、背中から地面に衝突した。
「!!!」
声にならない痛みの表しはゾルドリオの蹴りによってかき消された。
デウスは足を掴まれた状態のため、振り回される。
それに割り込むようにジャンヌが双大剣を振り下ろした。
完全に油断し切っていたゾルドリオはデウスの足を離して即座に避けた。
「あれを避けるのね。少しは楽しめそうだわ。」
「俺も丁度いい遊び相手が出来た。」
ジャンヌとゾルドリオは同時に笑みを浮かべた。
「これでも喰らいな!」
ゾルドリオの鎌はジャンヌの上部に振り下ろされた。ジャンヌは双大剣で交防した。
地面が抉れた。
「見た目と違って力はそれ程ないのね。」
「貴様が女だから手加減してんだよ。それに、目的はお前じゃない!」
ジャンヌの顎を狙ってゾルドリオは蹴り込んだ。ジャンヌは顔を上に向け、後ろに引くことによって、攻撃を受けないように仕向けた。
予想通り、ゾルドリオの蹴りはジャンヌに当たらなかった。しかし、その分手への意識を背けてしまった。
ゾルドリオはそれを見越して足が頂点に到達した時に思い切り力を入れた。
『しまった!』
ジャンヌは焦り、足のことを無視して前に押した。
ゾルドリオは待ってましたと言わんばかりにかかと落としを喰らわした。
ジャンヌの左肩に踵が直撃し、ロボットの故障のように崩れ落ちた。
ゾルドリオは鎌を構え直し、斜め上から振りかざした。
ジャンヌは立てなかった。
「殺させるか!」
デウスが足で鎌を止めた。
腕が麻痺しているため、足を使うしかない。
「足でよく止めたな。」
「俺が一番驚いてる。」
険しい顔で耐えるデウスと力を少し抜いているゾルドリオ。
「だが、お前は邪魔だ。」
デウスはゾルドリオの本気の押しに負け、地面に押し倒された。
ゾルドリオは迷わずデウスに鎌を振りかざした。
デウスは死んだと思った。
目を閉じたデウスは金属のぶつかる音で目を開いた。
鎌を止めていたのはデアだった。
「ちっ。何奴も此奴も邪魔しに入る。」
「愛する人を守るのは当然でしょ。」
「分からねぇな。その感情はない!」
ゾルドリオは刀を掴み、手で押す。
通常なら切れるところだが、何故か切断出来ない。
「凄い、力ね。」
「余裕が無くなってきてるなら言えばいい。そのまま殺してやるからよ。」
先程まで前方へ押していたゾルドリオが押す向きを変え、地面に突き落とした。
デアは誤って刀を手から離してしまった。
「武器無しに容赦はない!」
ゾルドリオはデアの腹部を殴り、飛ばした。
「!!!」
口から血を吐き出しながら吹き飛ばされたデア。
地面に激突し、鈍い音が鳴った。
デウスもジャンヌは同時に立ち上がった。
「デアに」
「デアちゃんに」
「「よくも!」」
右と左から同時に攻撃され、何とか防ぐゾルドリオ。
『さっきとは全く違うっ!』
真ん中に押される。このままでは潰されてしまう。
ゾルドリオは防ぐのをやめ、押し返すことに決めた。
「はああああ!」
ジャンヌとデウスを打ち返した。
後方へ飛び、地面を滑るデウスとジャンヌ。
「ぶっ殺す。」
狂気的な声がゾルドリオを怯ませる。
何故かは分からないがゾルドリオの体が震えている。
『こいつは、覊繃!』
覊繃。気迫で敵を怯ませる覊禍の力。
「面白いじゃねぇか。」
ゾルドリオは笑みを浮かべた。
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デウスとジャンヌは剣を改めて構え直す。
ゾルドリオは鎌を肩にかけた。
「決めた。テメェら全員あの世に送り付けてやる。」
その言葉は軽く、殺人よりも重い。
「殺させねぇ。例え俺が死のうと。仲間は絶対に殺させやしない!」
「威勢だけは達者だな!」
デウスとゾルドリオが衝突し合った。金属を打ち付ける金属。激しい音と風が巻き起こる。
「私の相手もしなさい!」
後ろからジャンヌが大剣を斜めから振り下ろした。
ゾルドリオは左手で防いだ。
覊鏖は使えないが、その他は使えるゾルドリオ。
さすが魔神族と言ったところだろう。
「取り敢えず、貴様から殺す!」
ゾルドリオはデウスの大剣を弾き返した。
ジャンヌの大剣を掴み、引きずり下ろした。鎌を大振りに構え、振り下ろした。
ジャンヌはもう片方の大剣で防いだ。
「まだ抗うか。さっさと楽になれば良いのに。」
「そう簡単にくたばる気はないわ。私だって守りたいものはあるわ。」
ギリギリと刃音を鳴らしながら火花を散らす大剣と鎌。
デウスはそこを見計らい、ゾルドリオに大剣を向けた。
ゾルドリオは後ろに体を反り、大剣を躱した。
「邪魔をするとは、良くないなぁ。」
ゾルドリオは鎌を上に向け、デウスに振り上げた。
デウスは後方へ躱し、ギリギリのところで避けた。
ジャンヌは双大剣を交差させるように切りつけた。ゾルドリオはそれを素手で防ぎ、地面に打ち付けた。
地面は抉れ、大剣は抜けなくなった。
「終わりだ。」
「まだだ!」
言葉を上書きするように言葉を吐き、デウスが大剣を振りかざした。
ゾルドリオはデウスの顔を掴んだ。
「うおっ!」
「今のお前は邪魔だ。」
ゾルドリオはデウスを振り投げた。
デウスは投げ飛ばされ、地面を擦った。
「なら我が出る!」
「貴様らも止まれ。」
その気迫によってフローレ達は身動きを取れなくなった。
体が震え、立つこともままならなくなった。
「死ね。」
ゾルドリオの鎌がジャンヌ目掛けて振り下ろされた。
「やめろー!」
デウスは地面を蹴り、ゾルドリオに急接近し、止めに入った。
しかし、その思いも大剣も届くことは無かった。
鈍い音が鳴り、血を飛ばした。
ジャンヌの心臓を貫いた鎌。
半開きの目と血を吐く口。息すらしていない。
デウスの顔にも血が飛んだ。
紅く、それでいて水のように頬を伝った。
ゾルドリオはデウスの顔を掴み、地面に叩きつけた。
地面は抉れ、デウスは口を開けていた。
「さぁ、お前もあの女のあとを辿るんだな!」
鎌がデウスに振り下ろされた。
紅く滲んだ鉄がデウスの頭を目掛けて落ちてくる。
しかし、その鉄は頭を抉らず、地面を抉った。
「ずれ、た?」
ズレたと言うより、ずらされたの方がまだ説明しやすい。
ゾルドリオは警戒し、後方へ飛んだ。
デウスはゆっくりと立ち上がった。下を向き、背中を大きく反っている。
「何が起こってるって言うんだ。」
フローレがデウスを見て唖然としていた。
突如、デウスの体から赤黒い煙が立ち込めた。
『おい。』
デウスは言葉を投げかけた。
『なんだ。』
『お前の力を貸せ。』
『かなり上から目線だな。でも、いいぜ。そういうの嫌いじゃねぇ。』
『殺す…』
『行くぜ。相棒。闇を制御してみな!』
ブチブチと肉を引き裂く音と共に黒い棘が出現した。
「この力だ。」
体を覆う棘は鎧と化した。
青黒い光を放つ鎧。顔、腕、体、足全てを覆った。
目の部分だけが開いていた。
そこからは赤い閃光が引かれた。
「殺ス。」
『不制御狂乱暴君者』には特有効果があった。
その効果の内容が【新たな効果】。
『不制御狂乱暴君者』に新たな効果が付与された。
怒り狂う。あらゆる技や能力を制御し、暴走せず怒りのまま戦う。
「なんて覊鏖の力だ。人間如きが、これまでっ!」
「アアアアアアアア!」
デウスの攻撃はゾルドリオの腕を切りつけた。
深く亀裂が入り、血を吹き出した。
「覊禍の力でも防ぎきれないのかっ!」
覊惹でさえも防ぐことの出来ない力を持っているデウス。
ゾルドリオは殺されてしまうという恐怖がじわじわ迫ってくる。
「俺ハオ前ヲ許サネェ。絶対殺ス。」
元の声と別の声が混じりあったような声がデウスの口から出る。二つ目の声は神を殺す者の声だ。
「さっさと殺してくれる!」
ゾルドリオは突撃した。
しかし、鎌は鎧を貫くことはなく、傷すら付けられない。
「なんて硬さだっ!」
「ヤリ返シダ。」
デウスは大剣を一振振り下ろした。
血が吹き出、地面や大剣や顔に血が吹きかかった。
ゾルドリオの左腕は吹き飛んだ。
「なん、だと。」
「次ハ上半身ヲ吹キ飛バシテヤル。」
死の香りと血の温度が世界を歪ませ、湿らせる。




