第二十二話 最終決戦
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ラストだ。あらゆる戦闘をくり抜け、漸く辿り着いた最終戦闘。
デウスとジャンヌは約束し合っていた。本気でやり合うと。
「初め!」
それはデウスとジャンヌの十年ぶりの二百二十二回目の戦いだ。
先に武器を手に取ったのはジャンヌだった。
「覊凝。」
左手に黒く禍々しい大剣が現れた。
「さ、始めましょう。私は準備出来たわ。」
デウスは武器を取らない。
「姉さんの二刀流は久しぶりだな。二百十三回目以来だ。」
「そうだったかしら?もう覚えていないわ。それより早く始めましょう。」
「あぁ。今本気を出す。」
デウスは息を吸い込んだ。そのまま吐き出さず、息を止める。
砂が少しずつ動き始める。髪の毛がゆらゆらと揺れる。風がデウスに集中し始めているのだ。
デウスは目を閉じた。息をずっと止めたまま。
描き集められた風は円を描き、デウスを取り巻く。その風にジャンヌもデアもフローレもイリビードもシャティスもインビディアもヘルトもアブァリティアもバグラもソルディブもビングルもイラデゥエトスも。
微量な風が徐々に強くなっていく。
観客者が風で飛ばされそうになっている。
『凄い風。やるじゃない。デウス。』
対戦相手にも関わらずジャンヌはデウスを心の中で褒める。
デウスは目を開き、大剣を右手で引き抜いた。
ゆっくりと、大剣を引き抜く。
引き抜き終え、デウスは下を向いた。一気に身体の力が抜けたように。
腰も曲がり、気絶しているようだった。
突如、皮膚を引きちぎるような音がジャンヌの耳に飛び込んできた。
ブチブチと、皮膚を引きちぎり、何かが蠢き出てきた。
背中から二つの黒い物体が姿を現した。翼だ。龍の黒き翼。
腕と脚は龍のように変化し、尻尾が出てきた。
尻尾が勢いよく地面を叩いた。
地面の抉れる音が鳴り響く。風のせいでその破片がジャンヌに飛んできた。
ジャンヌは破片を切った。しかし、そこでジャンヌはありえないものを目にした。
飛んできた破片の大きさは六十センチ程あった。人間が地面を叩いたとしても地面は抉れない。契約者や選ばれし戦士の力であれば抉れたり砕けたりできる。だが、砕けたとしても六十センチなどと馬鹿げた大きさの地面の破片が飛んでくることはまず有り得ない。
ジャンヌはデウスを真剣に見つめた。
デウスの額からは二本の角が生えた。禍々しいオーラを放ち、額から生えてきた。
弓のように彎曲し、決して小さいとは言えないほどの大きな大角。
鬼神族でもこれ程立派な角が生えることは無い。
ゆっくりと体を起こしたデウスは右眼を開眼した。
紅く燃ゆる太陽のような眼球。その眼からは怪物の力が感じられる。
ここでジャンヌは気づいた。気づいてしまった。消して抗うことのできない怪物が目の前にいるのだと。
ジャンヌの目にはデウスではなく、目を光らせた神にも等しい龍の姿が映っていた。
デウスは大剣を振った。風が止み、砂埃が収まった。
観客者がざわざわとし始めた。
デウスの姿が完全に変わっていたからだ。
「準備は終わり?」
「あぁ。」
ジャンヌは大剣二つ両手に持ち、構えた。
デウスは左掌を敵に見せるように構え、腰を落とす。左手の虎口に大剣の先を翳す。
「その構え方。ペンドラゴンの流派じゃないわね。」
流派。剣技においてそのものの剣技を作り出すもの。人呼んで剣術。
「俺の師匠の流派が違ってたからな。」
デウスには師匠がいた。今は死んでしまっているが、剣術に関しては右に出るものはいなかったという。
「そう。てことはペンドラゴンの流派は教えてられてないのね。」
「あぁ。俺が教えて貰った流派は″臥龍冴彪構え″。難しい流派だったよ。」
流派には何通りか名前が存在する。先ずは〜流。これは一般的に呼ばれている流派の名前。次が〜構え。構え方や戦い方からその名前が付けられることがある。最後が〜闘。主に戦い方の独特さから付けられる。
「初めて聞く名前だわ。」
臥龍冴彪構えは世界で三人だけしか使えなかった流派だった。主流になっていないため、知らないものの方が多い。
知っているものは本のひと握りだけだ。
「取り敢えず、早く始めよう。龍鱗も蠢いて来てるしな。」
「そうね。」
ジャンヌは地面を勢いよく蹴り、デウスに接近した。
「はああああ!」
両剣同時に振り落とした。
デウスは大剣を振り、攻撃を止めた。その瞬間、大きな風圧が観客にのしかかった。
「片手で止められるのは初めてだわ。成長したわね。」
「俺だけの力じゃない。俺には仲間がいる。そいつらと高め合った力がこれだっ!」
デウスはジャンヌを打ち返した。
「ならその力を示してみなさい。今ここで!」
ジャンヌは右手、左手を交互に使いこなし、デウスを攻撃する。
デウスは受け返したり、受け流したりして防いでいる。
ジャンヌの攻撃速度は上がる。上がりに上がり、さらに上がる。
デウスは防いで防いで防ぎ切る。
金属と金属の衝突の音が響き渡る。
「は!」
デウスが一瞬の隙をつき、大剣を突き出した。
ジャンヌはその攻撃をギリギリで防いだ。
物凄い風が吹き荒れた。
「ああああああ!」
デウスが反撃に出た。
ジャンヌはスピードでは勝っているものの、力で押されてしまう。
大剣と大剣が弾け合う。
ジャンヌは一時離脱を図り、後方へ回避した。
「オラ!」
デウスはその隙を見逃さず、横切りを入れた。
ジャンヌの防具に小さな亀裂が入った。
ジャンヌの防具はアレグライト鉱石で作られている。地下五百マイルで取れる貴重な鉱石だ。それなりの硬さと光を持ち合わせている。
その鉱石を砕けるものは地下二百万マイルで取れる超貴重なチグリスト鉱石ぐらいだ。
他にも傷を付けれることの出来る鉱石はあるが、亀裂を付けれる鉱石はチグリスト鉱石のみだ。
そこまで大きくない亀裂だが、その亀裂は勝率が半分以上はあるということ。
「亀裂。」
今まで傷も一つつかなかった防具がたった一振で切られた。
「次は防具を一刀両断してやる。」
「怖いわね。だったらこっちも、」
ジャンヌは亀裂跡からゆっくりと顔を上げた。
「もっと本気を出さなくちゃね。」
禍々しい顔だった。まるで龍を狩るような。
「いいぜ。望むところだ。俺はそれを上回る。」
突如、デウスの大剣が赤黒い炎を上げた。
観客は大盛り上がり。
大剣の熱量のせいで地面から火がでてきた。
「行くぜ。姉さん。」
「えぇ。来なさい。」
デウスが地面を蹴った。ジャンヌは双大剣を構えた。
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デウスの業火の大剣はジャンヌの黒色の製造大剣を攻撃した。
ジャンヌが攻撃を両剣で防ぎ、耐えた。
ジャンヌの立っている地面が抉れ、地盤が揺れた。
「やぁ!」
ジャンヌは大剣を弾き、デウスを後方へ飛ばした。
ジャンヌはデウスに急接近する。
デウスは着地をし、前方に走り出した。
「はああああ!」
「やああああ!」
デウスとジャンヌは同時に大剣を振り下ろした。重なり合った大剣は火花を散らし、爆風を引き起こす。
デウスとジャンヌは同時に弾き合い、両者とも体勢を崩して、体が後ろに傾いた。
即座に対応し、攻撃を仕掛けたのがジャンヌだった。
デウスは対応が間に合わないと知り、わざと後方に転んだ。
ジャンヌは横振り攻撃をしていたため、デウスに攻撃は当たらなかった。
「ぐっ!」
デウスは体勢が悪い状態で足を無理やり力強く上げ、ジャンヌの大剣を弾いた。
「おっと。」
ジャンヌはよろけ、後ろに少し下がった。
デウスは完全に体全体が地面に着いたことを確認して、バク転をして体を起こした。
「中々やるわね。」
「まだまだ。」
少し息が切れてきた二人。
開始してから二十分強が過ぎている。
先ほどより弱まった大剣の炎。
まだ両者ともに傷は付けられていない。
「はああああ!」
デウスがジャンヌに大剣を振り下ろした。
ジャンヌは防ぎ、弾き返した。
デウスとジャンヌは同時に前方に急進した。
大剣を弾き合いながら近距離で大剣に向かって振り続ける。
金属の弾く音は次第に大きくなっていく。観客者の耳には深刻なダメージだ。
ジャンヌは力強くデウスの攻撃を弾いたが、デウスは耐え、反撃をする。
その反撃がジャンヌの防具に直撃し、横に大きな亀裂が入った。
ジャンヌはデウスを蹴り、距離を離した。
ジャンヌは防具を脱いだ。
身動きの取りやすい着こなしだった。
デウスより身動きは取りにくそうだ。
デウスの服は筋肉が目立つ。それに比べてジャンヌの服はあまり目立たない。それに比べて胸が目立っている。
「男を魅了しそうな服装だな。」
「デウスが防具を壊すからよ。」
少し筋肉がついているジャンヌ。
剣を構え直すジャンヌ。デウスはそれに従って自分も構え直した。
直後、体に電撃が走ったように身動きが取れなくなった。
異変に気づいたジャンヌは好機と見計らった。
しかし、行動を止めた。
「ぁ、ああぁ、」
デウスが苦しみ始めたからだ。
体が急に動かせるようになったのだろうか。デウスは頭を抱え始めた。
「ああああ、ああああああ!」
デウスは急に苦しむのを止め、膝を着いた。
突然のことに困惑する人々。ジャンヌは唖然としていた。
すると、デウスが立ち上がった。しかし、何かが違った。
デウスではない。何かが変わっていた。
デウスの翼が黒い靄に蝕まれた。
黒く黒く荒んでいき、暗黒に包まれた。
体全体を蝕む闇が棘のように出現した。
黒い闇から出てきた棘は禍々しく見える。デウスの表情が真顔ひとつだった。
明らかに目から光が抜けている。右眼にも変化が現れた。
赤の中に黒い何かが現れ、黒と赤の眼球になっていた。
「デウス?」
声をかけても反応がない。
ジャンヌは危機を感じ、距離を取ろうとした。その直後、ジャンヌは後方へ大きく飛ばされた。
「きゃあ!」
動きが全く見えなかった。
ジャンヌは薄々感ずいていた。
今のデウスは暴走しているのだと。




