第二十一話 圧倒的なトラウマ
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残るはデウスのラストバトルのみとなった。対戦相手の名前はコリコトス。数少ない女性選手で斧を使う。
斧は剣士で使用する中で二番目に重い重量級の武器だ。因みに一番は大剣。
筋力ステータスが二百なければ手にすることすら出来ない程だ。他の剣士用武器は大体二十から百七十の間だ。大剣は三百五十なければ装備できない。
筋力ステータスとは、そのものの筋力を表す数値のこと。零歳から五歳の間は六程度。六歳から九歳の間は十七あればいい方だろう。
十歳から十九歳の間は二十から七十程度。二十歳以降からは鍛えれば鍛えるほどステータスは膨れ上がる。
最高筋力を持つものの筋力ステータスは千五十。最大値はまだ分かっていない。
デウスは小さい頃からジャンヌと決闘していたので現在のステータスは五百三十五。
デウスの装備している大剣は八ランク武器。重量も高く、この大剣に関しては筋力ステータスが五百以上ないと装備できない。
それに対してコリコトスの斧は見た目から重そうではない。両手戦斧の軽量化された斧のような感じだ。
斧も最大まで軽くすれば筋力が百二十で装備出来る。
その代わり片手戦斧になる。
「デウス。しっかりやりなさい。」
デウスの肩をポンポンと叩くジャンヌ。
デウスは笑みを返し、部屋を出た。
いつもとは違う方向に歩くジョン。いつもは右の道を行くのだが、今回は左の道を進む。
歩いてまだ五分ほどしか経っていないのにジョンが足を止めた。
「デウス・ペンドラゴンさんはここで待機を。」
『いつもより到着が早いな。』
デウスはそう思いながら方向を変えた。
大きな門が見える。今すぐにも崩れそうで古い門。
デウスが蹴ったら一瞬にして崩れ去りそうだ。
ジョンはコリコトスを連れて進み始めた。
デウスは欠伸をしながら門にもたれかかった。
少し音を立てたが、中々頑丈な門。
大剣も背負っているからかなりの重さだろうが、門は耐える。
デウスは座り込み、戦いの時を待った。
時間がかなり経過した頃、門の向こう側からは歓声が聞こえた。
『そろそろか。』
デウスは立ち上がり、門を見た。
門はゆっくりと開き始める。光がデウスを照らす。
少しずつ門が開き、完全に門が開き終え、音を立てて止まった。
デウスは前に進んだ。
定位置に着いたデウスの前からはコリコトスが歩いてきていた。
コリコトスも定位置に着き、両者とも見つめ合う。
「それでは第二準決勝を開始します。」
審判がまた出てきた。
「準備は良いか?」
デウスとコリコトスは頷き、それを見て審判も頷いた。
「Let's go a head!」
審判はその場を去った。
デウスは大剣に手を伸ばすことなく、敵の出方を伺っていた。
コリコトスは戦斧を手にした。
「君からは強いオーラを感じるわ。」
口を開いたコリコトスの第一声を聞いてデウスは鼻で笑う。
「デアにも言われたなぁ。」
昔のことを思い出しながらそう言う。
「でも、貴方じゃわたしには勝てない。」
威勢のいい女だと思うデウス。それでもデウスは大剣を取らない。
「知るかよ。来るなら来い。」
その余裕さにコリコトスは少しキレた。
「オラァァァ!」
両手戦斧をデウスに振った。
デウスは難なく回避し、戦斧を蹴った。
「うわっ!」
戦斧を蹴られ、重さが体に蓄積され、体勢を崩したコリコトス。
デウスは何事も無かったようにその場に立ち尽くしている。
「いい気にならないでちょうだい。今のは本の小手調べよ。」
大抵初撃を外したものはこのような減らず口を叩く。
デウスはまだ大剣を抜こうとしない。
「どうしても大剣を抜かないの?勝てないと思ったの?」
「くそ言ってんじゃねぇぞ。あんな攻撃で誰が勝てないと確信する?」
煽るように言い放ったデウス。
龍鱗もこれには飽き飽きしているのか、全く熱を発さない。
「次は当ててやるわ。」
また構えるコリコトス。
デウスはため息をついた。
「やあァァァ!」
コリコトスの攻撃は全くデウスに当たらない。
「遅いぞ。腰に力が入りすぎなんじゃねぇのか?」
「君はわたしの師匠にでもなりたいの?」
「見込みのねぇやつは弟子にしても意味がねぇ。」
その言葉にコリコトスは完全にキレた。
「あんたは殺してあげるわ。」
先程とは違う構え方になった。
それを見たデウスは体勢を低めに取った。
「これでも喰らいな!」
コリコトスの攻撃には明らかに力が乗っかっていた。先程までのチンケな攻撃ではなく、挟撃の攻撃。
デウスは後方に回避せず、前方に進んだ。
斜め左上から振り下ろされた戦斧をデウスは左側に回避した。
そのままデウスはコリコトスの腹部を蹴り、コリコトスを吹き飛ばす。
コリコトスは声を出し、後方に吹き飛んだ。何とか体勢を整え、足で後ろに進む自分を支えた。
「なんて、力なのっ。」
コリコトスは今まで感じたことの無い激痛を感じた。
「これで分かったか?お前の勝ち宣言はなくなったことを。」
コリコトスは屈辱的だった。武器もなしにたった一つの蹴りでここまで圧倒されたこと。
「まだギクスの方が強かったぞ。」
コリコトスは絶望していた。こんなにも遠い場所にデウスがいることに。
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デウスはコリコトスに近づく。
「まだやるか?」
歩きながらデウスはコリコトスに問いただした。
コリコトスは笑い、答えた。
「やるに決まってるじゃない。」
決して勝ち目がある訳じゃない。決して、戦える威勢ではない。
今にも逃げ出したいほどだ。殺されてしまう。そう思った。
しかし、プライドが逃げを認めなかった。
コリコトスはまた構える。
「俺はお前を殺しはしない。でも、」
デウスは立ち止まり、コリコトスを見た。
「少しトラウマにはなるかもな。」
その言葉のあとは酷かった。
何一つ手出しできず、ボコボコにやられるコリコトス。デウスも少し慈悲を掛けてはいるが、周りからすれば圧倒的な暴力である。
コリコトスは立てなくなってしまった。
足が震え、デウスを見る目は小さく、絶望を表していた。
一秒の反撃さえも出来ず、コリコトスは地面を這いつくばった。
「もう、やめて、」
その言葉はコリコトスの再起不能を意味する。
デウスはため息をついた。
「少しやり過ぎたな。お前の負けだ。」
審判が出てきた。
「Finish!」
デウスはコリコトスに背を向けた。
「審判。あいつ何とかしてくれ。多分俺だとどうしようもできない。」
そう言ってデウスはその場を離れた。
審判はコリコトスを運んだ。
デウスは戻る途中大きなため息をついていた。
「やり過ぎた。」
反省するほどやり過ぎたと思った。
「あいつ多分一生忘れねぇぞこのこと。」
完全にトラウマになるほど痛めつけた。男性ならトラウマにはならない程だが、女性には荷が重い。
反省しながらデウスは控え室に戻った。
控え室にはジャンヌただ一人しかいなかった。
「終わった?」
「あぁ。」
少し元気の無いデウスにジャンヌは問いかけた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな。」
適当な回答にジャンヌはデウスを睨む。
「ちゃんと答えて。」
デウスはため息をついた。
「対戦相手にトラウマを植え付けてしまった。」
「なんだ。そんなこと。」
「そんなことではないだろ。」
デウスは壁にもたれかかった。
「私なんてトラウマを植え付けた相手が何人いるのか分からないくらいよ。」
「いや、くらいって。」
軽々と言うジャンヌだが、やっていることはかなり悲劇的なことだ。
「そんなことはどうしてもいいわ。」
『そんな、こと?』
あっさり流されてハテナを浮かべるデウス。
「あとは私とデウスの戦いね。」
願った状況だ。この状況を待っていた。
デウスもジャンヌもこの状況を待っていた。トーナメントが開始されて約十時間。すっかり夕方になってしまっている。
待ち望んだ暇潰しももうそろそろで終わりを迎える。
「最初から本気で行くぞ。」
「当たり前よ。」
約束は約束。終わるその時まで一度結ばれた約束は解けることはない。
デウスとジャンヌはグータッチを交わす。
「最後まで全力で!」
「正々堂々戦うわよ!」
そこにジョンが入ってきた。
「残るはあなた方達のみとなりました。ついてきてください。」
デウスとジャンヌはジョンについて行く。
最初に待機させられたのはデウスだった。
いつも通りジョンは右回り。
「ここで待機してください。」
デウスは門を見つめる。
ジョンとジャンヌは進み出した。
歩いて歩いて歩き続けた。
そして、ジョンが足を止めた。
その場所がジャンヌの待機場所である。デウスの反対側。
「門が開いたら前にお進み下さい。」
そう言ってジョンは歩いていった。
漸く始まる。姉弟対決。
実に十年ぶりの戦いである。
心も体も高ぶっている。
デウスの大剣も、ジャンヌの大剣も疼いている。疼き蠢いている。
両者の前の門がゆっくりと開かれていく。
『漸くだ。』
『漸くね。』
両者ともに笑みを浮かべる。
最後の戦い。
正々堂々本気同士の戦い。
デウスとジャンヌが同時に場に出た。
デウスとジャンヌが同時に定位置に立った。
「両者ともに準備はよろしいか?」
「問題ない。」
「いつでも始めれるわ。」
審判は手を壮大に上にあげた。
「それでは!決勝戦を始めます!」
審判は気合いを入れた。
「始め!」
手を振り下ろし、その場から即座に離れた。
これがデウスとジャンヌの戦いの合図である。




