第二十話 覊禍
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あれからデウスは二回、ジャンヌも二回ほど試合をした。
デウスとジャンヌは全勝。ほとんど圧勝である。
太刀使いのヒリク。双剣使いのオクレイ。銃使いのルーズリース。弓使いのベルニクルス。
強さはなかなかだったが、相手が悪く、デウスとジャンヌに尽く敗北した。
「次が準決勝ね。」
「どっちが先に呼ばれるかだな。」
無論、ここでデウスとジャンヌが当たるという可能性も有りうる。
そこにジョンが選手発表に参った。
「それでは準決勝を執り行います。選手名を発表させていただきます。」
ジョンはもう紙を持ち運んでおらず、記憶のみで選手発表をした。
「ジャンヌ・ペンドラゴン選手対フロスタ・クルーリー選手。」
ジャンヌが先行だった。
デウスは決勝の前に戦うため、体力が少し切れた状態でジャンヌと戦わなければならない。
しかし、そんなこともどうでもいいかのように笑顔でジャンヌをおくる。
「頑張ってくるわ。」
「あぁ。勝ってくれよ。」
「当たり前よ。」
ジャンヌは戦場へと足を運んだ。
門の前に着いた途端、大剣が疼き始めた。
ジャンヌの大剣も名を与えられている。素材が素材なだけに、生きる大剣と化した。
「少し落ち着きなさい。すぐに戦えるわ。」
疼く大剣は少しずつだが収まっていく。
黒く悪とも思わしき線銀。敵を切り落とすのに特化したと思われる世界を映し出す刃。
「そろそろ始まるわね。」
門の向こうから聞こえてくる小さな声がはじまりの合図を出す。
門がゆっくりと開かれ、光が差し込む。
光を跳ね返す黒き大剣。光に照らされて輝く女性。
ジャンヌは前へと歩き出した。
戦闘場に足が行き、自然と笑みがこぼれる。
「まさかあなたがこれに参加しているとは思わなかったわ。」
ジャンヌが戦闘相手にそう言った。
「全国共通除籍七位の聖騎士さん。」
フロスタにそう言い捨てるジャンヌ。フロスタは笑い出した。
「僕のことを覚えていただけて光栄ですよ。全国共通除籍五位の熾懺の英雄さん。」
ジャンヌは笑みを浮かべる。
「何故参加しているのかはさて置き、本気は出す気ないわよ。」
「何でですか?僕がそれほどまでに弱いと?」
「君のあとに控える人が君よりも強いからよ。その人に本気同士と誓ったからね。」
「だからってそれは酷いですね。ま、本気を出さないとどうなるか教えてあげますよ。」
審判は手を上げる。
「話し合いは済んだかね?」
「えぇ。」
ジャンヌが回答する。
「それでは今から第一準決勝を執り行う!」
手を高々と上げる審判はジャンヌとフロスタを見る。
「両者準備は大丈夫かね?」
「「勿論。」」
ジャンヌとフロスタは同じ言葉を同時に吐き捨てた。
「それでは、開始!」
審判は即座にその場を離れた。
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フロスタが地面を蹴り、ジャンヌに急接近する。
「死んだらすみません!」
そう言って片手剣を豪快に振り下ろした。
ジャンヌはそれを躱し、大剣を引き抜いた。
それに警戒したフロスタは後方に飛んだ。
「おっと。」
「離れるの?」
「まともに攻撃を喰らえば死んでしまいますから。」
「そう。」
しかし、ジャンヌの引き抜いた大剣には血痕がついていた。
次の瞬間、フロスタの腹部の鎧に亀裂が入る。
「いつの間にっ!」
「あなたが後方に下がる前に切りつけたじゃない。見えなかったのかしら。」
剣術速度は聖騎士が一番だが、それを上回る程の速度を持つジャンヌ。
人の目では捉えることすら不可能。
「なんてスピードだ。」
「次は右肩でも狙ってみようっと。」
ジャンヌは一度大剣を背に収めた。
なんの構えもなく、ただただ突っ立っている。
敵からすれば舐めた話だ。しかし、それはジャンヌの強さを知らない野蛮人のみだけだ。
大抵のものはジャンヌのことを知っている。
デアやフローレ達を除いてだが。
「刃硬化。」
フロスタは妙なことを口にした。
その途端、刃に異変があった。
先程までは銀色に輝いていた刃が色を変えた。赤い錆びた鋼鉄のような色になった。
「あなたも使えるのね。覊禍。」
「だてに七位の聖騎士やってないですからね。」
覊禍。人類が持つ秘めたる力。その力を発揮するのに丸二十年はかかると言われている。それは通常の人間のみだ。覊禍の素質を持つ人間は覊禍を五年から七年で習得できる。もっと言えば一年のみで習得出来るものもいる。
デウスも一度使ったことがある。しかも無意識的に。
ビングルとの死闘の末に右眼を失ったデウス。その右眼は憤怒の力である限界突破で開眼することが出来るが本来であれば開眼できたとしても半開きか細めになる。それに、全開したとしても目は白いまま。デウスの場合は赤く煌眼していた。
フローレは何もその時は言わなかったが、気づいていたのだ。デウスには覊禍の素質があると。
知らず知らずに覊禍を習得した事例は今までない。大抵のものは修行で培う力だ。
それを知らずに習得しているデウス。
覊禍は六種類に分けられる。
今みたいにフロスタが使った覊禍は覊蝕。自分のスタミナと引き換えに武器を硬化させたり出来る力だ。
「ならこれでどうかしら。」
ジャンヌは左手にあるものを宿した。
左手に現れたのは小さな片手剣だ。
これが二つ目の力。覊凝。覊禍を実体化させ、武器や防具を生成出来る力だ。
三つ目が体を硬化させる力。覊惹。体を硬化させて敵の攻撃を防ぐ覊禍。龍や獣牙の攻撃は防げないが、鉄までなら防げる。
四つ目が覊繃。別名で気迫とも言われている。その名の通り気迫で相手を圧倒することが出来る。龍までも収めることの出来る力だ。
五つ目が覊薙禍柔。この力も持つものは数少ない。片手の指で数えれるレベルの少なさだ。軽い力のみで地盤を歪ませたり出来る。言うなれば怪物だ。契約者の龍化よりも強力な力を発揮出来る。
そして、もう一つ存在する。覊禍を極限まで極めた者だけが手にできる力。未だ人間が到達しえない高み。その名を覊鏖の力。
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人間が未だ手にしていない覊禍。覊鏖。
一言で片付けるなら神に等しい力。
この世界には魔神族と天神族が存在する。
その二種は世界で一番を誇るほどの強さだ。それの親玉は大抵覊鏖をもっている。
ジャンヌも持っていない。
「そろそろ終わりにしましょうか。」
「少し早い気もしますが、いいでしょう。」
ジャンヌは背に収めた大剣も手に取った。
「本気ですか?」
「本気じゃないわ。生成した武器は二ランク程度。せいぜい切れるのは防具程度よ。」
武器にはランクというものが存在する。零ランクから八ランクの九段階に分かれている。
「私は二刀流主体だから少しはね。」
小さい片手剣を左手に、大きくおぞましい大剣を右手にしてジャンヌは構える。
「それでは、今から言うのも何ですが、手合わせ願います。サンクチュアリ流の英雄ジャンヌ・ペンドラゴン!」
フロスタは地面に力を入れ、蹴飛ばした。
フロスタの片手剣がジャンヌの大剣を攻撃した。
「はああっ!」
フロスタの片手剣は大剣を突き、弾こうとした。
しかし、大剣はその場から離れない。身動きひとつなく、微動打にしない。
「今のが本気?」
「違いますよ!」
フロスタは五連撃を繰り出す。
ジャンヌは受け躱しをして全て回避する。
「まだまだ!」
次は七連撃、九連撃、十一連撃と増えていくが、ジャンヌは汗一滴かかず受け躱ししている。
「遅いわ。まだデウスの方が強いわよ。」
ジャンヌは刃のついていない反りでフロスタの横腹を攻撃した。
「がはっ!」
少しの力のみでフロスタを吹き飛ばしたジャンヌ。
地面をずりずりと滑り、ころころと転がる。
「せめてもう少し強くなるといいわ。」
審判は入り込み、戦いを止める。
「そこまでだ!勝者!ジャンヌ・ペンドラゴン!」
ジャンヌの左手にあった片手剣は消え去り、大剣は背に収まれた。
「デウスに勝つのは無理ね。あなたでは。」
背を向け、門へと歩いていく。
フロスタは立ち上がり、言葉でジャンヌを止める。
「待ってください!」
ジャンヌは足を止めた。顔だけ振り返る。
「デウスって誰ですか?」
「この状況でそれを聞くのね。」
「どうしても知りたいんです。僕よりも強いというデウスのことが。」
「私の弟よ。」
「弟がいたんですか?」
「えぇ。」
「弟くんがいたなんて知りませんでしたよ。」
ジャンヌの顔には悲しき表情が浮かび上がっていた。
「デウスは……」
間を置き、それから息を吸って言った。衝撃の一言を。
「私の本当の弟じゃないのよ。」
「え、それって、義理ってことですか?」
「えぇ。」
唖然とするフロスタは最後の質問を投げかけた。
「誰の、子なんですか。」
ジャンヌは言うか少し迷った。このことは言ってはいけないと言われている。
親からも。[ーーー]からも。
ジャンヌは口を開いた。
「内緒よ。」
そう言って門へ歩いていった。
道を歩きながらジャンヌは少し悲しそうな顔をしていた。
『言えないわ。デウスのお父さんが、災皇だなんて。』
災皇。災いを齎す皇。
デウスの話を聞いてさらに言えなくなってしまった。
何故なら、デウスが殺そうとしている相手が本当の兄弟だから。




