第十九話 戦場の余裕さ
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風が少し顔に当たる。
門の前に立ち、デウスは大剣を引き抜いた。
「お前も燃えたぎっているようだな。」
いつ以上に熱を放つ大剣を見てそう呟く。
様々な色を放つ大剣。龍鱗。
普通の人間ならば今の龍鱗を握ると火傷してしまうほどだろう。大火傷だ。しかし、デウスはその龍鱗を難なく握る。熱にはかなりの耐性がついている。
「もう少しだ。」
デウスは龍鱗を背に収めた。
木が重低音を響かせる。
暗闇に光が差し込み、戦いへの道筋が切り開かれる。
観客席から聞こえる観客者の高まった声。
デウスは歩き出す。太陽光がデウスの登場を知らせるようにデウスを照らす。
更に高まる観客席からの声。
デウスは定位置まで足を動かす。
目の前にはもう既にルギナがいた。
「両者とも準備は?」
「俺は大丈夫だ。」
「私も大丈夫です。」
互いに準備完了の合図を言葉で伝える。
「それでは。開始!」
審判がその場を去った瞬間、ルギナは槍を手に取り、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
デウスは躱す。
「ちょっと焦りすぎじゃない?」
そう声を掛けながらルギナの攻撃を躱すデウス。
「あなたの強さは凄い。だから攻撃される前に終わらせます!」
攻撃速度が上がった。
デウスは動じずに躱すのみ。
それを見て観客者はざわめきはじめた。
なぜ攻撃しないのかとか、手加減でもしているのかとか。
デウスはからかっているわけでも手加減している訳でもない。躱しながら相手の攻撃方法や移動といった速度などを見計らっているのだ。
それに気づかずルギナは攻撃するばかり。
「そろそろ抜くか。」
そう口にし、大剣に手を翳した途端、ルギナが距離を取る。
「へぇ。剣を抜き取ろうとすると距離を取るか。」
「すぐに蹴りをつけられたら終わってしまいますから。」
既に息が荒くなっているルギナに対し、デウスは全く息を荒らげない。
「では、もう一度参ります!」
そう言ってルギナは槍を両手にデウスに襲いかかる。
デウスは大剣を抜いた。
槍を防ぎ、次の一手を伺う。
「防ぐだけですか?」
「今はな。」
「ならこちらから攻めます!」
槍を引き、また突く。これの繰り返しだ。
速度はかなり早めだが、デウスは全て大剣で弾く。
「はあああああ!」
声を出して気合いを入れるルギナ。しかし、デウスに全て止められる。
「もっと腰を落とすといいんじゃないか?」
そうアドバイスをしたデウス。その後は防ぐだけでなく攻撃も多用し始めた。
防ぐことが多くなったルギナ。何度も何度も防ぐルギナ。攻撃数が異常なまでに減っていく。
「どうしたどうした?防戦一方になってきてるぞ?」
そう言いながらも攻撃を繰り返すデウス。
ルギナより早い攻撃速度と力。
「本気を出せよ。」
デウスは一度攻撃を止め、左に蹴飛ばした。
ルギナは勢いよく吹き飛ぶ。
横に倒れる体を起こすルギナ。
「そうですね。」
そう言ってルギナは槍を地面に突き立てた。
次の瞬間、風圧がデウスの髪を揺らす。
息を止め、目を閉じたルギナから発せられた気迫だ。
デウスはその風を感じながら大剣を片手に持ち、構える。
「戦闘はこうでなくっちゃな!」
気迫を顕にするルギナにデウスは大剣を右手に走り寄った。
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デウスの大剣の刃がルギナに当たる寸前、ルギナが即座に槍の柄で防ぐ。
衝突した中心から暴風が吹き荒れ、砂埃を観客席に撒き散らす。
「先程とは違うな。」
「本気ですから。」
片手で押すデウスと両手で耐えるルギナ。
ルギナとデウスは同時に敵の武器を弾いた。
両者ともに仰け反る。デウスとルギナは右足で踏ん張り、地面を蹴った。
槍の突きが炸裂し、デウスの頬を切り付ける。
デウスは槍を掴み、大剣でルギナを切りつけようとした。
しかし、デウスはルギナに腹部を蹴られ、後方へ飛んだ。
蹴られた衝撃で槍から手を離したデウス。
地面に背中から激突したデウスは即座に立ち上がった。
しかし、そこでデウスの目の前にあったのは槍の刃だった。
ギリギリ避けることが成功し、回避した。
デウスは後方に飛び、距離を取る。
「押されてきましたね。」
槍両手に構え直すルギナがそう口にする。
「まだ三割程だからな。」
そう言ってデウスは虎ノ威に構える。
デウスの足元に風が集まる。
ルギナは槍を焦点に合わせ、デウスの脳天を突くような構えを取る。
「三割ではなく本気を出してはいかがですか?」
「やめとくよ。お前には五割で十分だ。」
デウスとルギナは同時に地面を蹴飛ばした。
ルギナの刃がデウスの大剣と衝突した。下に受け落とされるように弾かれ、体勢を崩したルギナ。
「終わりだ。」
デウスの大剣はルギナの右肩を深く切り裂き、ルギナとすれ違うようにデウスは後方にいた。
ルギナの肩からは血が吹き出る。ルギナは槍をカラカラと鉄音を立てて落とし、前方に勢いよく倒れた。
「そこまで!勝者!デウス・ペンドラゴン選手!」
デウスは血が付着した大剣を背に収めた。
デウスはルギナを抱き起こす。
「審判。こいつ病院に運ぶから少し抜けるぞ。」
お姫様抱っこをし、ルギナを持ち上げる。
「別に構わないけれど。すぐに帰ってきて貰えると助かる。」
「了解。」
デウスは背中から翼を生やした。
それを見て、観客者や審判は唖然とした。
バサバサと空に飛んで行ったデウスを口を開けながら見ていた審判。
観客者はどうなっているのかよく分からない。
その場は数分間唖然としていた。
デウスは病院の前に降り立ち、看護婦にルギナを託し、すぐ様会場に戻った。
看護婦はどういう状況かイマイチ理解できなかったが、ルギナの様態を見てすぐに病室に運んだ。
会場に戻ったデウスにジャンヌは疑問を提示した。
「どこ行ってたの?次の試合の人が呼ばれても帰ってこなかったけど。」
流れ的には試合が終了してから次の試合選手の名前が発表されて戦場に足を運ぶという流れだ。
「ルギナを病院に運んだんだ。」
「病院に?どうして?」
「少しやりすぎてな。」
その回答にジャンヌはため息をついた。
「対戦相手なのに、お人好しね。」
「一応な。別に殺す気はないから。」
デウスは壁に背を持たれた。
「あと何試合くらい残ってる?」
デウスはジャンヌに問いかけた。
「そうね。今やってる試合抜いてあと四試合って所ね。」
今の試合も合わせて残り五試合。
今試合をしている人も合わせて残り十人。
「意外と多いな。」
「そうね。参加者が多かったからね。」
「一つ気になったことがある。」
「なに?」
「姉さんって武器に名前つけてる?」
デウスは自分の大剣に手を伸ばして聞いた。
ジャンヌは頷いた。
「えぇ。つけてるわよ。名前。」
「なんて名前なんだ?」
黒紫が煌びやかに輝く大剣。刃が片方しかない。大きさ的にはデウスとほぼ同格ぐらいだ。
「瞳揮よ。」
何故ジャンヌがこの名前を武器に付けたのかはデウスには大体わかっていた。
嘗てメビウという者がいた。訳ありでデウスやジャンヌの顔見知りだった男だ。
今は消息不明になっている。
「デウスの武器は?」
「龍鱗だ。」
「へぇ。いい名前付けたわね。」
「姉さんもね。」
大剣を掴む手を離し、脱力する。
「姉さん。」
「なに?」
「最後まで残ってくれよ。」
「当たり前じゃない。そうじゃないとデウスと戦えないじゃない。」
デウスは笑みを浮かべる。
「俺も最後まで戦い抜いて姉さんともう一度戦う。」
「えぇ。楽しみに待ってるわ。」
実に十年以上もの間デウスとジャンヌは戦ったことがない。
その前はよく戦っていた。
二百二十一回戦ってジャンヌの全勝だった。
剣術も武術も全てにおいてデウスを上回っていたジャンヌ。
女性とは思えないほど力持ち。それにかなりの瞬発力を持っている。
これ程までの人間は数少ない。
「私も一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「ん?」
ジャンヌは縦に亀裂が入った右眼を触った。
「これどうしたの?」
前々から気になってはいたが触れようとはしなかった。
「これは俺の自慢の仲間にやられたんだよ。」
「なんで?」
「そうだな。全部説明すると長くなるから単純に言うけど、俺に一度負けた奴が俺にリベンジマッチを挑んできてこうなったって感じだな。」
「勝ったの?」
「当たり前だろ。なんてったって俺は契約者なんだから。」
その言葉にデウスのことを凝視するジャンヌ。
「デウス。契約者になったの?」
「あれ?言ってなかったか?俺契約者なんだ。」
「九つの罪龍の誰と契約してるの?」
「憤怒だ。一度解約はしているけどな。」
そう言ってデウスはジャンヌに右手の甲を見せる。そこには龍が火を噴く絵が刻まれている。
「デウスの仲間ってもしかして。」
「全員契約者だ。」
現在の契約者数が六人。残りがあと三人だ。
憤怒、色欲、嫉妬、強欲、虚飾、憂鬱が今仲間になっている罪龍。
暴食、怠惰、傲慢が現在仲間になっていない罪龍だ。
「契約者なのね。デウスとの戦いは面白いことになりそうね。」
「寸止めとかはしないぞ。」
「分かってるわ。下手すればデウスの首を跳ね飛ばすかもね。」
「そんな簡単に俺の首はやらんよ。」
ジャンヌの実力はデウスも十分承知だ。逆にジャンヌもデウスの実力を十分承知だ。それに罪龍の力が加算されている。
昔の戦いはジャンヌの全勝だったが、何度か負けそうになったこともある。
油断はできない。しては行けないと思うジャンヌ。
しかし、ジャンヌはまだ知らない。デウスも知らない。互いの″今″の実力を。




