第十六話 一晩の宿泊
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「俺を、仲間にしてくれ。」
ビングルはそう言い放った。
デウスは笑みを浮かべ、ビングルに言った。
「当たり前だろ。お前が必要だ。」
その言葉を聞いてビングルは涙を流し始めた。
「お、おい。どうした?」
デウスが少し心配し、問いかけた。
ビングルは涙を拭いながら片掌を相手に見せる形をとる。
「大丈夫だ。少し、ありがたいと思っただけだ。」
少し鼻声混じりで喋っているビングル。
デウスは相変わらず立てないが、肩を叩く代わりに言葉をかけた。
「もう泣くな。仲間に涙を流されたらたまったもんじゃねぇよ。」
デウスは少し笑って言った。
「あぁ。」
ビングルは涙を拭い終え、笑い返した。
「それより、だ。」
そう言ってデウスは力を振り絞って体勢を変えた。
「見ての通り俺はこの状態だ。ビングルも疲れている。ということで、今日はここで一晩泊まろう。」
デウスはそう述べた。
他の者も賛成をし、泊まることになった。
三部屋一泊二日の銀貨八枚。安いものだ。
一部屋目はデウスとデアとフローレとイリビード。二部屋目はシャティスとインビディアとバグラとソルディブ。三部屋目はビングルとイラデゥエトスとヘルトとアブァリティア。
デウスはデアの肩を借り、ビングルはイラデゥエトスの肩を借りて部屋まで向かった。
部屋に着いた途端、デウスはベッドに飛び込んだ。
「つっかれたー。」
「私も疲れた。」
デウスの隣にデアが飛び込む。
「主はゆっくり休むといい。」
フローレがそう言って椅子に座り込む。
因みに部屋を借りる際に顔を覚えられていたらしく凄く睨まれた。
イリビードはフローレの座った隣の椅子に腰を下ろした。
「しっかしまぁ、よくあんなに長い時間戦えたわね。」
イリビードの問いにデウスは答える。
「最後までしたい精神なんだ。俺もまぁ、あそこまで続くとは思わなかったよ。」
疲れ切った声のデウス。イリビードはそれ以上は何も言わなかった。ただ一言、
「今日はもう休んで。」
そう言った。
デウスは少し安堵したような顔をして眼を閉じた。
開眼していた右目も閉じた。
デアも静かに眠りについた。
「我らも寝るか。」
フローレがイリビードにそう言った。
「そうね。おやすみ。」
「あぁ。」
晩飯も食べずに一部屋目のグループは眠りについた。
二部屋目は楽しく雑談をしていた。
バグラが国の話をする。
鬼神族はどうやら戦闘民族として雇われることがあるらしい。
特に女性だ。
鬼神族は女性が力持ちで男性が料理などが得意らしく、男性は執事などで雇われることが多い。逆に女性は戦闘に雇われることが多い。鬼神族は本気で戦えば女性は龍を一人で討伐できるほどだという。しかし、バグラは力持ちではないらしい。
稀に生まれてくる。男性が力持ちで女性が家事主体。
その稀に入るのがバグラだ。
「バグラさんはどういう武器を使えるの?」
膝の上で眠るシャティスの頭を撫でるインビディアがバグラに聞く。
「私は弓を使えますよ。代々ヴィルラン家は弓の扱いに長けていました。」
ヴィルラン家の弓の扱いと言えば距離が数キロあろうとピンポイントで矢を当てて敵を一撃で射抜くことが出来る。
「周りの人が強くて良かったわ。この子が戦わなくて済む。」
インビディアの笑顔はシャティスに向けられる。
シャティスはまだ七歳程。本来、旅に出ていい年齢は十歳以上。冒険者になるのは九歳以上。そのどちらにも満たしていないシャティスは本来旅などしてはいけない。
だが、インビディアがいるためシャティスは旅に出れている。
インビディアがいなければシャティスは七歳で死んでいただろう。
インビディアもシャティスを壊そうとしていたが。
「ひとつ聞きたいことが、」
バグラがソルディブに問いかけた。
「なんでしょう?」
「九つの罪龍の中であなたはどれほど強いのですか?」
不意の問い掛けに少し戸惑ったが、冷静に返答したソルディブ。
「多分七番目くらい。」
かなり下の方だ。
「順位としてどうなってますか?」
「順位で表すのは少し嫌だが言おう。」
ソルディブは頭の中で大体を考えて発言した。
「一位が憂鬱。二位が傲慢。三位が強欲。四位が憤怒。五位が色欲。六位が嫉妬。七位が虚飾。八位が暴食。九位が怠惰。この順番だ。」
今のところ一位、三位、四位、五位、六位、七位の罪龍が仲間になっている。
「怠惰が一番下なのですね。」
何故か少し悲しそうに言うバグラ。
「嫌なのか?」
「いやと言うより、嘗てアバリブ国ではゴブリンに攻められていました。もう無理だと諦めた時にいつも怠惰の冒険者が現れたんです。強いかも弱いかもわからない人物だったけれど、周りの人は勝てないと思っていました。でも、その人がアバリブ国を救ったんです。以来、アバリブ国では怠惰記念日という日が作られました。」
怠惰記念日。八日間に一度何もしなくてもいい日を作っている。
働きたい人や料理など、冒険をしたい人などはご自由に。他は別に何もしなくてもいい日。
「そうなのか。」
ソルディブは記者のように頷きをしていた。
「そろそろ寝ましょ。」
そう言ってインビディアがシャティスを抱き抱えて立ち上がった。
「そうですね。」
「デウスの試合も長引いたし。」
そう言って二部屋目も眠りについた。
三部屋目はビングルだけが眠っていた。
「あの、」
「どうした?」
ヘルトに話しかけるイラデゥエトス。
やはり言葉が辿々しい。
「どうして、あなた達は、旅を、している、のですか?」
その問いに少し戸惑ったヘルトだったが、回答した。
「デスペランドーマって知ってるか?」
その名前に聞き覚えのあったイラデゥエトス。
「分かります、よ。絶望の、魔王、ですよね。」
驚くことも無く普通に分かると言った。
「この名前を聞いて驚かないのか?」
ヘルトは疑問に思ったので聞いてみた。
「別に、なんとも、思いま、せん。」
「怖く、ないのか?」
「怖く、ないです。第一、絶望の、魔王と言っても、その上が、居ますし。」
「上?」
「はい。上の、方は、後日話し、ましょう。私達も、そろそろ、寝ましょう。」
イラデゥエトスの意見に賛成した二人だったが、ヘルトは引っかかっていた。
デスペランドーマの上の魔王というのに。
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鳥の鳴く声がデウスの耳に入り込む。
窓に遮られている日差しが頑張ってデウスの顔を照らす。
ゆっくり目を開いたデウス。
起き上がろうとしたが、起き上がれなかった。
『腕に重りを感じる。』
そう思い、デウスは右腕を見た。
デウスの右腕を抱きしめているデア。
胸の谷間にぐっと腕を押し付ける。
デウスは平常心を保ちながらも少し混乱していた。
『どういう状況なんだ?』
全く状況が理解できない。
デウスは気にしまいと天井を見上げるが、腕に当たる柔らかな物が物凄く気になる。
「起きたのか。」
そこで左の方から声が聞こえた。
「フローレか。」
そこには椅子に座っているフローレ。
フローレも今の状況に少し困惑しているようだった。
フローレの左肩に頭を乗せて眠っているイリビード。
少し似た状態だ。
デウスとフローレは見合って少し苦笑いした。
起こすわけにもいかない。かと言ってずっとこの状態はどうだろうか。
直後、大きな音が鳴り響いた。
鐘の音だろうか。物凄く大きい音だ。
デウスとフローレは少し驚いたがすぐに朝の目覚ましだと分かった。
その音に引きずられるようにデアとイリビードの瞼がゆっくりと同時に開かれる。
「「おはよう。」」
フローレはイリビードに、デウスはデアに言った。
「おはよう。」
イリビードはそう返し、体を起こす。
デアは少し細い目でデウスを見た。
「デウ、ス?」
「あぁ。」
その時、デアは違和感に気づいた。
何かを掴んでいる感覚。
デアは下の方を見た。
デアの目にはデウスの腕を掴む自分の腕が見えた。
「あ、ごめん。」
そう言ってデアはデウスの腕を離し、起き上がる。
「いや、いいよ。」
デウスも起き上がる。
「そろそろ朝食にしようか。」
フローレがそう言って立ち上がる。
「そうだな。」
デウスはベッドから出て体を伸ばす。
「右眼開かなくなってるな。」
フローレはデウスの右目を見て言った。
「あの時だけだったみたいだ。」
まだ少し赤い血が滲んでいる右目。
かなり深く刃が入った感じだ。
「みんな起こしに行こ。」
デアが立ち上がる。
「そうだな。」
デウスがドアを開いた。
少し暖かい廊下。デウスとデアはその廊下を伝って二部屋目と三部屋目のドアを開いた。
デウスは三部屋目を、デアは二部屋目のドアを開いた。
皆起きていた。
「起きてるのか。」
デウスがビングルにそう言う。
「あの時を聞いたら誰だって起きるだろ。」
ビングルはデウスを見てそう言った。
「それもそうだな。朝食食べに行くぞ。」
そう言ってデウスは外に出た。
「行くか。」
「そう、ですね。」
ビングルとイラデゥエトスも続いて部屋を出た。
デア達も同時に部屋を出てきた。
皆で階段を降り、冒険者ギルド本部のドアを開いた。
明るい太陽光が眼を攻撃する。
「さ、朝食をどこで食べるかだ。」
そう言ってデウスはみんなを見た。
「別にどこでもいいだろ。」
ビングルの発言に皆賛成。
「なら適当に探すか。」
そう言ってデウスは歩き出した。
人が行き交う道を進むデウス達。
少し進むと、一段と人が集まっている場所があった。
何事かと思い、中心部を見た。
何かの芸だろうか。一人の男性が披露していた。
興味が無いデウス達は無視して進んだ。
人混みの中を突き進み、少し人通りの少ない場所に着いた。
「意外と無いもんだな。」
食べ物屋が全然見つからない。
「前回はすぐ見つかったよね。」
デアがデウスの隣で発言する。
人が多いということもあって見つけにくい。
人が少ないうちに店をみつけようと歩き出したデウスだが、声をかけられた。
「あれ?デウスじゃないか。」
女性の声でデウスと呼ばれた。
『俺の名前。』
そう思い、声のした方向を見た。
「久しぶり。」
そこに居たのは身長が少し高めで動きやすく、且つ良い素材を使われている防具を着用している。後ろで髪を束ね、長い髪を目立たせなくしている。頭装備は付けていなく、顔が露出している。啞纏轟ヘルブベイロの素材で作られているであろう黒い大剣を背に携える女性。
デウスに久しぶりと言っている。
デアはデウスに問いかけた。
「知り合い?」
デウスは少し口をぽかんと開けていたが、言葉を発した。
「どうしてここにいるんだ。姉さん。」
その発言に皆が一斉に驚きを言葉にした。
「「「姉さん!?」」」
そこに立っていたのはデウスの姉であるジャンヌ・ペンドラゴンだった。




